秘密結社との出会い
部屋に戻ってから私は部屋の荷物の整理をし、何とかある程度片付けを終えた。そしてふと時間を確認すると時刻は二十時を過ぎていて、今日の夕食を用意していなかったことを思い出した私は今回の食事はコンビニで何か買って済まそうと思い外出をすることにした。
部屋の扉を開けてアパートの階段を降りると、日中に挨拶が出来なかった102号室の窓から明かりがついていた。なので私はついでに挨拶をしてからコンビニへ行こうと思い私は102号室の扉へ近づいた。すると……誰かと話しているような声が聞こえてきた。
「今回の……は……これよ」
「ふむ……じゃが儂には……でよくわからんよ」
話している内の一人は管理人さんの声がしたので、邪魔にならないようとりあえず話が終わるのを私は待つことにした。
「ところでドクター、その発明品を使った次の世界征服作戦を参謀が考えたのじゃ」
「あら、それは楽しみね」
……えっ? 今世界征服って言葉が聞こえた!? 予想外の言葉が聞こえた私は驚きの余りに声と物音を立ててしまった。
「む!? そこにいるのは誰じゃ!?」
「あらあら」
102号室の扉は開けられ、そこから管理人さんともう一人白衣を着たプラチナブロンドのような色で長い髪のすごく綺麗な顔立ちをした男の人が部屋から出てきた。
「君は……山田さんじゃないか」
「あら、この子が聞いてた新しい201号室に来た子ね。アタシはこの102号室に住んでいる占い師なの。ヨロシクねん」
「今の会話を聞いていたようじゃな? 聞こえていたならわかるじゃろうが、儂らは世界征服を企む秘密結社じゃ」
「うふふ。ちなみにこの管理人さんが秘密結社、眠れる獅子の総統でアタシが開発担当のドクターよ」
「儂らの秘密を知られたからにはすまないが……記憶を消させてもらうぞ」
「うふ。アタシの発明した記憶ワスレールの出番ね。まぁまぁ気にせず部屋に上がって上がって」
理解が追いつかない私は混乱し、ドクターのフレンドリーなスマイルと雰囲気に流され彼の部屋へと上がってしまった。
「それにしてもこんな時間に何をしておったのじゃ?」
「えっと……部屋の荷物整理に夢中になっていたら夕食の準備を忘れていたのでコンビニまで買いに行こうかと思いまして」
「近所にあるからと言ってもこんな時間に高校生……しかも女の子が出歩くのは感心せんよ」
「まぁまぁ。あ、お腹が空いているならアタシが作ったカレーがあるわよ。食べる?」
「あ、頂いてもいいですか」
私がそう応えると、ドクターはカレーを用意する為キッチンへと姿を消した。
「私……記憶を消されちゃうのですか?」
「記憶を消すと言ってもほんの数時間分の記憶だけじゃ。秘密結社は秘密でなければいかん。それに自分の近所に世界征服を企む秘密結社があったら安心して君も暮らせんじゃろう?」
「それは確かにそうかもですが……」
管理人さんと話しているとキッチンへと行っていたドクターがカレーを持って戻ってきた。
「うふ。お待たせ。さぁ召し上がれ」
「あ、頂きます」
お腹の空いていた私はドクターのカレーを食べた。
「そうそう。記憶ワスレールは地下のアジトにあるから部屋を山田ちゃんが食べてるうちに移動させなきゃ」
ドクターはそう言うと部屋の隅にあるスイッチを押した。すると部屋は軽く揺れ出し何やら地下へと移動し始めた。
「えっ!? えっ!? 何が起きてるのっ!?」
「安心せい。このアパートの地下にある眠れる獅子のアジトへ部屋ごと移動しているだけじゃ」
常識から逸脱した状況が続き私は最早正常な判断が出来ず、目の前にあるカレーを現実から逃げる為に食べ続けることしか出来なかった。