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廻る世界のアフツァー  作者: したかり
3/8

女神エメリアとシェル

 やーっと話が進みます!

 会話の部分と地の文のバランスが難しいですね。


 ロアは夢を見た。


 美しい女性がいた。深いブラウンの髪、同じくブラウンの瞳。女性の足元には、なにか白い生き物がいた。

 女性はなにか話しかけている。ロアの名前を呼んでいるようだった。

 白い生き物は、女神の足元からロアのほうへと寄ってきた。白い生き物も、ロアになにか語り掛けているようだった。


 だがロアは意識にかすみがかったかのように、そのふたりの声は少しも聞こえなかった。


 ゆっくりと、意識は暗闇につつまれていった。










「おーい、ロアさん朝ですよー。起きないなあ……困った。司祭様に頼まれたのにな……」


「んん……」

 部屋の外から誰かの声が聞こえる。この声は、助祭のアラマンドさんだ。


「……あっ!朝!?」

「あっ、ロアさん起きました!?」

 ベッドから転がり落ちるように出て、部屋のドアを開ける。

 案の定、ドアの外には助祭のアラマンドが立っていた。いつもの黒のカソックを着ている。


「ああ、よかった!おはようございますロアさん!」

「アラマンドさん!えっと、あれ、なんでアラマンドさんが?あれ?」

「いや、司祭様にロアさんを起こすよう頼まれたんですよ、今日もスコラに行く日だからって」

「あ、そ、そうなんですね」

「あはは、まだ寝ぼけてます?」

「は、はい……」

「でもまあ、一応起こしましたからね。じゃあもう失礼します。本当はロアさんみたいな若い女の子の部屋に来るなんて、聖職者じゃ御法度ですから」

「あっ、ご、ごめんなさい!アラマンドさんありがとう!」


 さわやかな笑顔のまま、アラマンドはロアの部屋の前から去っていた。

「うわあ、寝坊なんて……しかも寝起き見られちゃった……やだもー……」

 じわじわと湧き上がる羞恥心に、ロアの顔も赤らむ。


「ん?アラマンドさん、司祭様に頼まれたって言ってた?」

 おや、と胸の中に疑問が浮かぶ。


 ロアの暮らすエードラム教国は宗教国家である。そこにはいくつかの教義があった。

 そのなかのひとつに、教皇や司祭たちには神への信仰の証として厳しい禁欲が強いられているのである。あくまで教義の上での取り決めであるため実際にすべての聖職者が禁欲の掟を守っているかロアにはわからなかったが、ローレンはロアが幼いころから貞節の大切さについて説いてきた。不用意に肌を露出してはいけない、男性に体を触れさせてはいけない、部屋に招き入れるなんて絶対にダメだ、と。

 寝間着のまま家をうろうろしようとしたロアを、間違えて誰かの目につくようなことがあったらいけないから、とローレンは厳しくとがめたのだ。


 時代錯誤な気もしなくはなかったが、ローレンも生涯独身を宣言しているのだからロアは大人しくその言葉を聞いていた。だが親しい男友達もいないため、父の言いつけを気にするような状況に出くわしたことはない。


 そのローレンが、ロアを起こすのに、助祭を寄越した。養父であるローレン自身ではなく。


 アラマンドは数年前からローレンの補佐をしており、ロアとも馴染みがある。だが、ローレンは助祭たちに対して、若い娘であるロアの部屋に絶対に近づかないよう、珍しく口を酸っぱくして言っていたのである。

 ロアさんのことになると司祭様も怖い顔になりますね、娘のことになると視野が狭くなるとは司祭様も存外に人間臭いところがあるものだ。助祭たちはそんなローレンのことを笑って話していた。

 ローレンの親ばかと言えるような言動を思い出してロアは少し口元をほころばせた。


 だが、本当に不思議だった。なぜわざわざアラマンドにロアを起こすよう頼んだのか。ローレンが起しに来れない理由でもあったのか。

「……でも、アラマンドさんに司祭様が直接頼んだみたいだったし……」


 昨日の夜、様子がおかしかったことに関係しているのだろうか。

 昨晩ローレンが怒鳴ったことは、ロアにとって酷くショックなことだった。だが冷静に思い返すと、ローレンは、本当に別人のようだった。

 そうだ、怒ることはあるが、感情的に怒鳴るような人じゃないし、まして壁を殴ったりしないもの。


 ロアがそう確信をもって昨晩を振り返っていると、 ゴーン、と教会の鐘の音が聞こえた。

 第7協会都市では都市の中央にある時計台をみながら、毎日9時、12時、3時、6時に鐘を鳴らす。スコラで授業が始まるのは9時だ。

「うそ!もうそんな時間なの!?」

 ゆーっくりと部屋に置いてある時計をみるが、やはり9時だ。

 アラマンドさん、神父様、もうスコラ間に合いません!


「……授業、始まっちゃった」

 今から急げば、最初の授業が半分をすぎる前くらいには着くだろう。普段は真面目に授業を受けているロアをスコラの教員も叱ったりすることはないはず。


 だが……。


「行きたくないなあ」


 どうせ行ったところで遅刻したことをまた悪口のネタにされる。ロアは今日の夕方にまた頭から水をかけられ、予備の服に着替えている自分を想像した。今日言われる悪口の内容はなんだろう。不細工だといわれるのか、司祭の娘のくせに偉そうと言われるか、それとも魔術を学んでいることを野次って悪魔使いとでもいわれるか、はたまた剣術を学んでいることに女らしくないとか野蛮だとか言われるのか……。

「……ふぅー……ダメダメ、行かなきゃ」

 深くため息をついて、ロアはスコラへ行く支度を始めた。

 虐められるのは嫌だった。だが、自分がスコラをさぼったことでローレンの顔に泥を塗ることになるのは、もっと嫌だった。










「いいえっ、行かなくてもよいのですよロア!」

「そうっ、行かなくてもいいよっ!」

 突然、部屋の中から誰かの声が聞こえた。


「えっ?」


 ばっと声の方向をむくと、ベッドに腰かける女性がいた。

 肩に、爬虫類らしきなにかを乗せている。

 ……誰?


 あっけにとられているロアを、女性はびしっと指さす。

「えっ?」

「顔色が悪いですよっ!スコラに行ったところでいけすかない同級生に虐められるだけなのです。それより私のお話を聞いてください!」

「そう、僕らの話を聞いて!」

 女性の方に乗る爬虫類も言う。


「およっ?」

「あら申し遅れましたね。私は純潔と清浄の女神エメリア!突然ですが、あなたに悪魔退治を手伝ってほしいのです!」

「僕はシェル!そう、悪魔退治手伝ってほしいの!」


 最後に、女性はロアにウインクを飛ばした。決まったわね、そんなことを女性がつぶやいた。


 


 痛いほどの沈黙が部屋を包む中、力の抜けたロアの手から鞄が離れ、スコラの教本が散らばった。そして、ロアは思い切り息を吸い込んだ。

「……きゃああああああああああああああー!!!誰か!!誰かあああ!!」




 余談ですがホワイトドラゴンのシェルちゃんは最初もっと美少年の天使にする予定でした。

 

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