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黎明の月 20日 迷惑探偵ロキ 011

久しぶりに書きました。忙しすぎて、なかなか書く時間がありません。

「駄目だ・・・犯人の目撃情報がないんじゃ、手の付けようがない」


 吐き捨てるようにロキ。


「教授諦めないでください。きっと何か見落としていることがあるはずです」


 集まった情報に特に目を見張るものはなかった。

 放火を行ったであろう犯人の姿は皆無。

 放火は昼間。しかも、出火場所は屋根であったりベランダであったりと高所が多い。

 出火時、多くの鳥が目撃されたとの証言もあるが、事件との関連性は考えにくかった。


「もっと、しっかりと情報を集めましょう」


 クラリッサは熱のこもった目で、ロキの肩を揺さぶる。


「だって、これだけの情報だけじゃ何にも分からない。やっぱり魔法使いが犯人ってことで、町中の魔法使いを捕まえればいいんじゃない?」


 投げやりなロキの言葉に、クラリッサは小さくため息をついた。ロキと行動を共にして早2年。阿吽の呼吸というか、ロキの性格も分かり始めてきてはいるが、未だどうしても納得できないところがあった。

 それは、ロキの諦めの早さだ。

 飽きの早さと言ってもいい。

 とにかく、すぐに諦める。

 右を向いていて左を向いた時には他の事に夢中になっているようなありさまだ。

 元賢者ということもあり、様々な依頼がロキの元に舞い込んでくる。

 そのほとんどが途中で頓挫してしまった事件ばかりだった。

 解決した事件もクラリッサが頑張って走りまわり無理矢理解決したものが多い。

 見限って、早々に分かれてしまえと友人たちは言うが、それはできない相談だった。

 クラリッサには彼女なりの事情がある。


「教授、とにかくこの事件は私たちの力で解決しないとだめです!」

「どうして?」

「火は、危険だからです。放っておくと、多くの命が失われます。家だけでなく家族を失ったりする人も・・」


 クラリッサは途中で声を詰まらせた。

 燃え盛る炎が脳裏に浮かぶ。

 期の爆ぜる音、崩れ落ちる家屋。

 炎の中で崩れ落ちるーー


 それは彼女の記憶。

 過去の辛い思い出。


「そうだな。この事件は早くに解決しないといけないな。私が悪かった」


 言葉途中で、ロキはクラリッサの言葉を遮り、素直に謝罪する。


「分かってもらえればいいんです。それと、この事件が終わったら例の事件も解決して下さいね」

「例の事件? 他にも事件を抱え込んでいるのかい?」


 興味深げに賢者セリウスが片眉を上げる。


「事件というか、探し物なんですけど」

「ああ、この町一番のお金持ちの杖を探し出すという超難解事件さ」

「まぁ、先日のお祭り会場の屋台に置き忘れていただけなんですけどね」

「私の推理力があればこんな事件朝飯前さ」

「見つけたのは私ですけど」

「バラすな! クラリッサぁ!」


 ロキとクラリッサのいつものやり取りを、望は眺めながらふと首を傾げる。


「杖が見つかったんなら、事件は解決したんじゃないのか?」


「それは、そうなんですけど」


 望の質問の応えるクラリッサの反応はぎこちない。


「いやぁ、杖は見つかったんだけど、その杖の先に付いた水晶を盗まれちゃってね」


 はっはっはっ!と悪びれもせずに言うロキ、がっくりと肩を落とすクラリッサ。


「・・・何やってんだか」


 思わず望が突っ込む。


「いやぁ、あっさり見つかったもんだから前祝いに飲んでいて、気が付いたら水晶だけが無くなっていたんだよね、不思議!」

「不思議じゃないです! どこかに犯人がいるんですよ! もしかしたら、もう売られているかもしれないじゃないですか!」


 泣きそうな顔でクラリッサアが叫んだ。


「ちなみに、水晶はどれくらいの大きさなのですか?」

「ちょうど私の拳くらいの大きさです。綺麗な球体で・・・ああ、これはきっと損害賠償を請求されますよ! またも借金ですよ!」


 悲痛な叫びを上げるクラリッサ。

 そんなクラリッサを元凶であるロキが「まあまあ、きっといいことあるさ」と慰める。


 被害者と加害者の姿がそこにはあった。

 

「じゃあ、犯人は鳥ってことでいいんじゃないの? 放火のあった場所に多くの鳥がいたんでしょ」

「冗談を言っている場合じゃないですよ」


「鳥が犯人・・・」

「望も真に受けないでください!」


 呟く望にクラリッサが叫んだ。


「いや、ちょっと考えることがあって。この辺りの鳥ってどんな種類がいるの?」


「この近くには、小型の鳥が多いね。いや、一種類だけ大型の奴がいたな」

「ドルーンです。あれは鳥ではなく竜です」


 クラリッサが即答する。

 以前、関わった事件で散々な目にあったことを思い出しながらクラリッサは頷いた。

 あの時は、愛好家から子供のドルーンを捕まえて欲しいとの依頼があり、町中を駆けずり回り挙句、ドルーンの親竜に追いかけまわされた思い出があった。

 ドルーンは町中でも比較的良く見かけることのできる竜種だ。

 人の生活圏で共存し、竜種のわりに成獣でもそれほど大きくない。


「ドルーンは火を吐く?」

「いや、火を吐くのは他の種の竜だ。ドルーンを犯人だというんならその可能性はゼロだね」


「他に特徴はないのか?」


 望がさらに質問した。

 クラリッサは何故望がドルーンに執着するのかが分からなかった。


「そうですね。特徴というか習性なんですけど、光物を集める・・・そうか! 水晶を盗んだのはドルーン!」

「いや、それだけじゃない。もしかしたら、この連続放火事件の犯人かもしれない」


 喜ぶクラリッサに望が言う。


「ドルーンが放火の犯人?」


 ロキがにやりと笑う。


「それは、無理だっていったろう。ドルーンは火を吐かない」

「確かに、ドルーンは火を吐かない。でも火種を持っている可能性がある」


「火種? ・・・そういうことか!」


 セリウスが叫んだ。そんなかつての友人をロキは不思議そうに見つめていた。

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