黎明の月 20日 迷惑探偵ロキ 010
夕刻に近いということもあり、一旦ロキの宿に集合したサラと望、セリウスとニッキ、ロキと は、近くの酒場に移動することにした。
「おいおい、これはどっちが先に事件を解決するか?じゃなかったのかい?」
ロキが不満そうな顔で言ってきた。
「もちろん、その考えで間違いないよ」
望はあえて反論しない。
「でも、ここでお互いの情報を出しあえば、今までになかった情報を得ることができるじゃないか。同じ場所に3人が行って、同じ話を聞いてきても時間の無駄でしかないよ」
望の言葉にロキは一応頷いて見せる。不満そうなのは表情で分かったが、あえてそこには言及しない。とにかく時間がなかった。今までは発見が早く小火騒ぎで済んでいたが、風が強く燃え広がれば、下手をすると港町全体を巻き込む大火になりかねない。
犯人がいるのであれば、早急に対処しなければならないのだ。
しかし、全員の情報を集めたところで、今まで以上の情報は集まらなかった。
昼間の事件にも関わらず、犯人を目撃したものがいなかった。魔法使いの線も考えられたが、連続放火が発生して以来、魔法検知の術で町は絶えず監視が行われている。冒険者たちも監視しており、その中でも事件は発生していた。
「望は何をしていいるんだ?」
「ああ、これはみんなが集めた事件の情報を箇条書きにしているんだ。その中で共通している部分や気になるところっをみんなで話し合おうかと思ってね」
「へぇ、ちょっと見せてくれないか」
セリウスが望の書き込んでいる羊皮紙を覗きこんだ。
「望・・・これは、君が書いたのかい?」
「ああ、そうだ。ちょっと字が汚いけど・・そんなに驚かなくても」
「これは・・・「エニキの書」と同じの古代文字じゃないか!?」
「エニキの書?」
望はセリウスとロキの反応に困惑する。しかも古代文字とは予想外の反応だった。
(フツーーに日本語なんですけど・・)
見ればサラも不思議そうに望の文字を覗き込んでいる。そういえば、今まで字を書いて見せたとこなどほとんどなかった。
「エニキの書とは、この世界に災厄をもたらした紅の魔女の書いた古文書だと言われています」
400年前に一国を滅ぼした魔女。邪神アヌールの教祖とまで言われた魔法使い。その魔女が望を同じ文字を使っていたというのだろうか。
「その、エニキの書は今はどこに?」
「魔法学園です。今はその魔法書庫に厳重に保管されていると聞いています」
ロキは望の肩をぐいとつかんだ。
「どうして、お前がこの文字を扱える? お前はもしかして・・この文字を読むことができるのか?」
「読むも何も、これはオレの世界の文字だ」
「・・・エニキの書を読める・・・というのか・・・」
ロキは驚愕したように、セリウスは驚いた表情のままその場に凍り付く。
「そんなに大変なことなのか?」
未だ状況が把握できない。
「エニキの書は、世界の破滅・・究極魔法の秘密が書かれているといわれる禁忌の書物なのです。魔法学園内でもその書庫に立ち入れるのは学園長のみとされ、エニキの書を直接見たものは学園にでもほんの一部とされています」
禁忌の書というのであれば、その保管は厳重。しかも、一刻を滅ぼす程の危険な物となればなおさらだった。
「私は立場上、エニキの書を見ることができました。ロキも同じです」
セリウスの言葉に、ロキも重々しく首を振る。
「・・・え? ということは? 教授って・・・」
「言ってなかったか? 私も賢者の一人だよ」
「ええええ!? 聞いてませんよ!」
クラリッサが目を丸くしたまま口をあんぐりと開ける。
ニッキもまた、驚いた表情だった。
「まあ、私は昔に賢者だった・・・というべきなんだけどね」
「賢者としての資格を剥奪されたのですね。賢者としてふさわしくないと言われたのですね」
クラリッサがやけに真剣にロキに迫った。
「・・・まあ、そんなところだ」
「そうですか・・・そうですよね・・・フフフフフフ」
何故か安心したようにフフフと笑うクラリッサ。どこかその背に哀愁を感じたのは錯覚ではないだろう。
こんな人が賢者なんて・・世の中狂ってるわ・・・
かすかに耳に届いたクラリッサの呟きを、望は聞かなかったことにした。
「望、君は魔法学園に行くと言っていたね」
セリウスの言葉に望は頷く。サラについていく。それははじめから決めていたことだ。
元の世界に帰りたいという気持ちもないではないが、今はサラのいる魔法学園というものにも興味があった。
「分かりました、エニキの書については今はまだ保留ということにしておきましょう。事は慎重にしないといけないので」
セリウスはそれだけ言い。望の書きなぐったメモを睨みつけた。
「とにかくこの事件、早く解決して魔法学園に向かいましょう」




