黎明の月 20日 迷惑探偵ロキ 007
「おまえは昔からそうだったよな・・」
「ふっ、昔の話さ」
どこか遠くを見るように、セリウスが独白し、ロキも懐かしむように呟く。
「賢者と教授が黄昏ています」
「しっ、指差しちゃいけないのです」
クラリッサとサラの掛け合いにも二人は反応しない。
「あんまりかかわりあいたくないな」
望が素直な感想を漏らした。正直、この二人とかかわるとろくなことがない気がしていた。
「昔の話はよそう・・・今は、目の前の問題を解決する方が先だ」
「目の前の問題?」
望の言葉にロキは頷く。
ロキは部屋の隅の置いてある羊皮紙の束をテーブルの上にひろげた。
それは、港町の地図だった。
所々朱色で×印が点けられている。
×印は全部で15か所あった。
「これは?」
「ここ一カ月の放火の現場を示したものさ」
望の問いかけにロキは面白くなさそうに呟いた。
事件はこの1カ月間で15件発生している。
放火は夜間ではなく昼間、出火元は屋根が中心だった。
そして、不思議なことに放火の現場も火を放ったはずの者の姿も誰も見ていないというのだ。
目撃者ゼロ。
出荷の原因も全く分からない。
「恐らく、犯人は魔法使いだろう」
それがギルドの見解だった。そうでなければ説明ができないことが多すぎる。
火系の魔法使いが、港町で放火を繰り返す・・・もし、そうであえば目的は何だ?
魔法を使って、火を放って犯人に何のメリットがある?
すべてが謎だった。
しかも犯行は夜間ではない。
人目を避けるのであれば夜間が最適だ。
「犯人は目が悪い?」
クラリッサの言葉にロキはノンノンと指を振った。
「犯人はきっと予行練習をしているのさ」
「教授、それはどういうことですか」
「犯人はきっとこの町をどうにかしたいに決まっている」
「どうにかって、例えばどんな?」
「・・・・・」
「やっぱり何も考えていないんですね」
「・・・・そんなことない」
「いいえ、教授はな~んにも考えていません」
「そんなことないもん」
駄々を捏ねた。捏ねまくった。
「事件が解決されない理由がよく分かった・・」
望は、あきれたように二人のやり取りを見つめている。
「ノゾーミ、何か分かったのですか?」
「いや、今の段階では何も分からない。でも、それほど難しい事件じゃないような気がする」
望の言葉にロキが聞き捨てならないと言わんばかりにピクリと反応する。
「なんだか、これが簡単な事件と言っているように聞こえるんですけどぉ」
ロキの目がすわった。
やばい。これは良くない流れだとクラリッサはあたふたと視線を泳がせた。
「当たり前だ。こんな簡単な事件。オレにかかれば朝飯前だ」
「本当なのですか? すごいのです」
予想以上に食らいつきの良いサラ。
「毎週殺人事件に出くわしていたこのオレにとって敵じゃないね」
「毎週!?」
「ああ、今まで連続殺人事件とか、密室殺人事件とか色々な事件を解決してきた」
「すごいのです・・・・まさか、それはアニメの話ではないのですよね?」
しばし、沈黙。
望の額に光る一筋の汗。
「・・・そんなことないさ! 事件は宿屋で起こっているんじゃない、現場で起こっているんだ!」
「分かったのです。早速、現場に向かうのです!」
「なんか、向うも盛り上がっていますね。教授、あんな奴らはほっといて私たちは地道に事件を解決しま・・」
「よし分かった! 勝負しよう!」
「なんでそうなるんですか?」
いきなり叫ぶロキにクラリッサは慌てた。
以前もこのようなことがあった。冒険者と言い争いになり、結果負けに負けて財産を失いかけたのも一度や二度ではない。
「いや、事件解決に勝負も何も・・・」
「おんやぁ、この男の子は何もかも小さいんだねぇ」
「おいおい、何言ってんだよ。オレはこの勝負受ける気は全く・・・」
望は呆れたように言う。事件は早く解決したに越したことはない。
手伝おうとしている者にわざわざ勝負を吹っ掛けるロキの心情が知れなかった。
自分から事件の相談をしてきて、勝手に勝負を吹っ掛ける。
「見た目は大人、中身は子供なのです」
ぼそりとサラ。
それはきっと最悪な探偵が出来上がるだろう。いや、現に目の前にいる。
その名探偵は、一人で喋りながらさらにヒートアップしていった。
「景品は、このエロエロスコープだ」
「教授、何言ってんですか!」
クラリッサが慌てる。この魔法測定眼鏡を世間に出すわけにはいかない。
「良し、その勝負乗った! こいつと二人で事件を即解決さ!」
「えっ、俺も?」
セリウスがすぐに反応した。ニッキの肩をがっしりと掴み。一方のニッキは急な展開に目を白黒させる。
「賢者セリウスぅ!!」
あんたって人は・・・クラリッサは歯ぎしりする。
「ふふふっ、ここまでお膳立てされたのなら仕方ない。この難事件、絶対にオレが解決して見せる! じっちゃんの名にかけて!」
「言っている意味はよくわからないけど、とにかくすごい自信なのです!」
サラが感動したように手を合わせる。
このバカップルは・・・クラリッサは、こぶしを震わせた。
「とにかく、さっさと事件を解決してしまおう。こっちは豪華な景品を出すんだ。お前たち、負けた時はどうなるか覚悟しな」
ロキが不敵な笑みを浮かべた。
「どうするんです?」
クラリッサは、ロキの顔を覗き込む。
「あたしたちが勝ったら、ここの宿代2か月分を払ってもらうのさ!」
豪華景品を出すワリに、勝った時の自分たちの景品が宿代の肩代わりとは・・・
教授、あんたって人は・・・クラリッサは情けなくて泣きそうだった。




