黎明の月 20日 迷惑探偵ロキ 006
「今の発言が正しいとするならばだ・・こいつはこの世界の人間ではないというのか?」
「まあ、そう言ったところだな」
セリウスの問いかけに、ロキはあっさりと頷いた。
この世界は、物質界、妖精界、精霊界の3つの世界から成る。
ロキの言うこの世界以外から来たということは、3つの世界のどの世界でもないということだ。
「このお嬢ちゃんの力もかなりの秘密がありそうだけどね」
ロキが興味深げに、サラの「罪人の腕輪」を見つめる。
魔法使いの魔法の力を封じる「罪人の腕輪」
それを両腕にはめ、海洋を氷漬けにしたというではないか。
しかも、賢者セリウスの話では、サラの得意とする魔法は火系と風系、それらの魔法を駆使して超低温を造りだすなど聞いたことがない。
「とにかく、このことは秘密にしていた方がよさそうね」
「・・・致し方あるまい」
ロキの言葉に、セリウスも頷いた。
常軌を逸した出来事が起こりすぎてもはや収拾がつかない。
しかも、サラと望はまだ秘密を隠している風もあった。
二人も事を荒立てていくつもりはないらしい。帆船での事件での二人の行動を見ている限り、危険性はないと判断していた。
「この二人の異常性からすると、この男の子は何なのさ?」
ロキはニッキを指さした。
ニッキはそんなロキを睨み返す。
「こいつは俺の弟子だ」
「へぇ、水の妖精以外連れないあんたが弟子ねぇ」
ロキはニヤリとニッキと患者セリウスを見比べる。
「こいつはなかなか見込みがある。これが鍛えて立派な妖精使いにしてみせる」
ニッキはウエーバー海賊団の少年たちを束ねるリーダー的存在だった。
少年達全員を立派な船乗りにしようとしていたロワイユ船長に頼み込んで、セリウスが無理矢理弟子にしたのだ。
リーダーがいたままでは、統率が取りにくいということを考えてのセリウスの提案だったが、意外なことにニッキはあっさりとこの提案を受け入れた。
こうしてニッキはセリウスと行動を共にすることになったのだ。
何故、承諾したのかは未だに分からない。
反抗的な態度をとるわけではないのだが、少し距離を置く形で、ニッキはセリウスの弟子となった。
「賢者様のご意見は分かった。この二人の事に比べりゃ、なんでも納得できるさ」
ロキの発言を聞きながら、クラリッサは今の事態を理解しようと躍起だった。
異世界の人間、罪人の腕輪を持つ規格外魔法使い、賢者セリウスとその弟子。
今までの日常が、急激に変化している。
「このまま事件も解決できればいいんですけどね・・・」
「事件?」
「わっ! 馬鹿余計なことを言うな!」
クラリッサの呟きをサラが聞き返し、ロキが慌てたように手を振った。
「・・・お前・・この港町で何やってるんだ?」
セリウスが問う。
「教授は、この港町で探偵をやっているんです。まぁ、解決した事件はほとんどないんですけど」
「何を言うか、この前行方不明のダニエラを見事に見つけたじゃないか!」
「あの行方不明の猫ですか? あれは猫が自分で帰ってきたじゃないですか」
「うぐ・・・・っ! じゃあ、先日の立てこもり事件は? 野盗が町に逃げ込んで人質を取って、身代金を請求していたのを解決しただろう」
「教授の放った魔法せいで、被害が拡大・・・被害額が身代金の5倍になったってアレですか・・・野盗は逃走、人質は大怪我・・あれって、ワザとなんですよね」
「ク、クラリッサ・・なんで涙目?」
「相変わらずで安心したよ」
セリウスはそれだけを口にした。




