黎明の月 20日 迷惑探偵ロキ 005
「ようこそあたしたちの隠れ家へ!」
楽しそうなロキ。ワインを片手に笑みをこぼす。
その様子を見ながらクラリッサは小さくため息をついた。
事件のあと、クラリッサ達は彼女達が宿泊している宿にたどり着いた。町の裏通りで怪しさ全開だったが、ロキはこの宿をやたらとお気に入りだった。
ロキ曰く。
「秘密基地みたいでイイじゃないか!」
だそうだ。
「お茶しかありませんが、どうぞゆっくりして下さい」
クラリッサが全員にお茶を配る。
元々二人で泊まっている部屋なのでそんなに広くはない。それぞれが思い思いに椅子に座ったりベッドに腰かけたりしていた。
ただ、ニッキだけは窓辺に寄りかかるだけで、座ろうとはしなかった。
「さて、詳しく話してもらおうかなセルシー。まずは、海洋を氷漬けにしてあのウエーバー海賊団を撃退したって話からだ」
ウエーバー海賊団の名前に、ニッキがぴくりと反応を示す。
「ほほう、何か今回の件、かなり深いところまで関わっているみたいだね」
面白そうにロキがワインを口にする。
「・・・先に言っておく。この前の事件、ウエーバー海賊団を撃退したのは俺じゃない」
「まさか、そこの少年か?」
ロキはニッキを指差したが、賢者セリウスは首を横に振った。先程の通りを凍らせた魔法をロキもみている。その魔法熟練度はかなりのものだった。
しかし、新聞を読む限り氷の範囲はかなりのものだ。どう考えてもそれを可能とする者は賢者セリウスを置いて他にいない。
「それは、私が原因なのです」
おずおずとサラが手を挙げた。
「はえ?」
間の抜けた声を上げるロキ。
クラリッサは驚いたように目の前に座る見習い魔法使いを見た。
彼女はどう見ても見習いの魔法使いだ。
「クラリッサ、アレを・・」
「はい、魔法測定眼鏡ですね」
「違う!」
強い口調で、ロキが叫んだ。
「エロエロスコープだ!」
「つまり、魔法測定眼鏡ですね」
「この頑固者め!」
歯軋りするロキを尻目に、クラリッサは荷物の中から少し大きめの眼鏡を取り出す。
「エロエロスコープ!」
てってれ~!と言わんばかりの勢いで、眼鏡を装着するロキ。
「アレはどういう物なのですか?」
「魔法測定眼鏡は、見た者の魔法力を見ることができる魔具なのです。それを教授は更に改良したのです」
クラリッサははしゃぐロキを無視して説明する。
「この発明は・・・下手をすれば世界を滅ぼします」
「はい?」
唐突な言葉に、サラと望、セリウスは言葉を失った。魔法測定眼鏡は、魔法を数値化して見ることのできる魔具で、普及こそしていないが決して世界を滅ぼすほどの物ではない。
「いいですか、彼女の作ったあのエロ・・・」
「お、今エロエロスコープって言おうとした?」
「言ってません!」
赤面しながら叫ぶクラリッサ。
「あの魔法測定眼鏡は・・・その者の魔法力だけでなく・・あらゆるモノを数値化してしまう・・・恐ろしい魔具なのです!」
しばしぽかんとしたままのニッキを除く三人。
「それって、どういうことなのです・・・!」
言葉途中でなにかに気づき、サラが慌てたように叫んだ。
「ノゾーミ! あの眼鏡を・・あの眼鏡を破壊するのです! いいえ、この世から消してください!」
「・・ええと、サラさん?」
「そういうことか! ロキ、その眼鏡を私に譲ってくれないか、金はいくらでも払う!」
「・・ええと、セリウス?」
望は状況がつかめず立ち尽くしている。
そんな中、眼鏡をはめたロキは周囲をぐるりと見回し、満足したように「よし」と頷いた。
「大体の事は分かった」
ロキはクラリッサの瞳を正面から見据える。
「また成長したなクラリッサ」
「・・・なっ!!!!」
クラリッサはとっさに胸を両腕で覆う。
そのまま、サラに向かいその肩に手を置いた。
「頑張れよ!」
「きゃうん!」
今度は、望の手をがっしりと掴み、真摯な目でささやくように、
「・・・諦めるなよ青年、男の大きさは大小じゃないんだ」
「・・・何で、俺の下半身に向かって言ってるだ・・?」
それぞれに、意味深なメッセージを残して、そのロキ命名「エロエロスコープ」をはずした。
「お、恐ろしい魔具なのです」
真っ赤になりながら、サラが呟いた。
「さて、色々分かった。これじゃ新聞に何も言えないわけだ」
一人納得したように、ロキは言う。
「教授、どういうことなんです?」
「つまり、彼女が海賊を撃退した魔法使いってことだ」
サラを見、ロキは言った。
「おい、あんたの腕にはめているその腕輪、魔具「罪人の腕輪」だね」
確信したようなロキの言葉に、サラは観念したように頷いた。
「やはりそうか」
と賢者セリウスが呟く。
「あんたの魔法力は434だった。まあ、魔法使い見習いとしてはかなり優秀な方だ・・・それが腕輪をはめていなければね」
クラリッサも「罪人の腕輪」の事は知っていた。それが魔法力を押さえるものであるということも知っている。
腕輪ひとつあれば、大抵の魔法使いは魔力を失う。魔法使いにとって天敵とも言える魔具。
「あんたは、その魔具を両手にはめている・・・それでいてその魔力、あんたいったい何者?」
サラは何も言わない、いな、言うことができなかった。
禁呪「結魂」の事は、賢者セリウスにすら言っていないことだ。
「まぁ、そんなことはどうでもいい、おい、そこの小っさい青年」
「小さい言うな!」
「あんた・・・この世界の住人じゃないね」
「・・・!」
ざわり、とその場の空気が変わった。
「あたしのこのエロエロスコープは何でも見ることができる。でも、あんたの情報にはノイズが多い、まるで幻影を見ているかのようだ」
ロキはぐっとワインをあおった。飲むことで酔うかのよに、酔うことで逆に目を醒ますかのように。
「まぁ、いいか」
「よくない!」
賢者セリウスが叫んだ。




