黎明の月 20日 迷惑探偵ロキ 003
ロキとクラリッサが港に到着した時、港は人垣ができていた。
喧噪の中、二人は少しでも海側に近づこうとするが、人が多すぎて近づけない。
「なんで、こんなに人が多いんだ!」
「きっと、新聞の記事を読んだ人たちですよ」
「暇人共が!」
ロキがイライラと声を荒げる。
自分たちもその暇な人間の中に含まれているのだが、そこは無視しているようだ。
そうこうしている間にも帆船はゆっくりと港に近づく。
喧騒が歓声に変わった。
甲板から港を眺める船員、乗客はあまりの人の多さに驚きを隠せない様子が見て取れた。
それはそうだろう。全盛期からかなり経つとはいえウェーバー海賊団を撃退したのだ。
それだけで十分ビッグニュースといえた。
「見ろ、賢者セリウスだ!」
男の声に全員の視線が甲板に向かう。
そこには蒼い髪の男。
周囲の熱気が一気に上がった。
「教授!賢者セリウスですよ!」
「動くぞ!」
「はい?」
唐突の言葉に、クラリッサはロキの言っていることが理解できなかった。
目の前には、賢者セリウスがいる。
しかし、ロキの視線は彼を見てはいなかった。
ロキは早足にその場を後にする。
「んもう、後で悔しがっても面倒見ませんからね!」
クラリッサは叫ぶように言いながら、ロキの後をを追って走りだした。
ロキが向かったのは、港から少し離れた小さな漁港だった。帆船が停泊するような大きな港とは程遠い。個人の営む漁船が停泊する小さな港だ。
町のほぼ全員が港に集まっていると言っても過言ではないこの状況の中、一艘の小舟が静かに漁港に辿り着く。
乗船している者は4人。女性が一人と男が3人だった。
「港はすごい騒ぎみたいだな」
「何をのんきなことを言っているのです。この隙に早く上陸するのです」
「君たちがあんな無茶なことをしなければ、こんな騒ぎにはなっていはずなんだけどね」
「けしかけといてよく言うよ」
「何か言いましたか、望君」
「よく聞こえなかったのかな賢者様には?」
「ほほう、この貧弱な若造に、世間の厳しさというものを教えてあげないといけないみたいだね」
「二人ともやめるのです。騒いでいると見つかるかもしれないのです」
「そうだぞ、セルシー」
唐突にかけられた、第三者の声に4人はハッとしたように漁港の縁に立つ人物へと目を向けた。
「賢者セリウス!」
クラリッサが悲鳴に似た声を上げた。ロキが慌てて彼女の口をふさぎ、後半はモゴモゴとしか聞こえなかったが・・・
「ロキ!!!」
一方、セリウスは今までにない驚愕の表情で悲鳴を上げた。
「・・・知り合いか?」
望がセリウスに問いかける。
セリウスは無言のままその場に座り込む。
「なあに、そこの賢者様とはちょっとした知り合いなだけだ。昔色々あったけどね」
「なっ、賢者様!」の言葉にセリウスは蒼白のまま小さく頷く。
「これは・・・」
「いわゆる、腐れ縁というヤツなのです」
望とサラのツッコミにも何も反論できないセリウスだった。




