黎明の月 20日 迷惑探偵ロキ 001
一人の男が、丘の上にたたずんでいた。
白いひげをたくわえた初老の男。
彼の目の前には、扇状に広がる港町。
太陽の光を反射して、波間からきらきらとした光が目に刺さる。
光に目を細め思わず手をかざした。
「領主様!」
背後からかけられる声に、領主と呼ばれた男は振り返った。
「どうしたのかね?」
領主と呼ばれた男は、険しげな表情で声をかけてきた若い男に問いかける。答えは分かっていた。ここ最近のとある「事件」に関してのことだ。
「この丘の向こう、ベルク通りの魚屋で火事です」
「・・・またか・・」
ここ最近の連続放火に港町の住民たちは恐れおののいていた。
犯行はたいてい昼間、今日のように天気のいい日に犯行は起こる。
夜ではない。そこがまた不思議だった。
そして、火を放った不審者の目撃情報もない。
ギルドもこの難解な事件に情報を求めているが、冒険者たち、そして港町の衛兵たちの目をかいくぐり犯行は繰り返されていた。
すでに8件、今の放火を含めれば9件になる。
ここ半月ばかりで起こった放火の件数だ。
時間帯が昼間ということもあり、死傷者が出ていないということが幸いと言えば幸いだった。
「そういえば、あの探偵はいったい何をやっているんだ、これだけ連続で事件が起こっていれば手がかりの一つも見つけているんだろうな」
「・・・えい、それがその・・・」
怒気をはらんだ声に、男は恐縮した表情で口ごもる。
「どうしたんだ? まさか諦めて逃げ出したんじゃないだろうな?」
「いえ、犯人についてある程度目星がついたというか・・・なんというか」
「犯人の目星がついたのか!!」
期待を込めた領主の言葉に、男は困った表情のまま口を開いた。
「探偵曰く、「放火の手段はさっぱりわからないが、犯人は必ずこの町にいる」だそうです」




