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黎明の月 11日 大海原と大海賊 その11

「いいか、お前たちは今日からこの帆船の船員として働くことになった」


 ロワイユ船長の声が、甲板に響き渡る。

 13人の少年たちは、困惑した表情のまま船長の言葉を聞く。

 それは当然といえた、ついこの間まで海賊だった少年達だ。

 それがいきなり一般の帆船の船員になるなどと聞いたことがない。


 ウエーバー海賊団。

 かつては、海の中で最強最悪と言われたいた海賊団だ。

 しかし、20年ほど前に片腕だった男が死に、ウエーバー海賊団はその勢力を急激に落としていったと聞く。


 今はその海賊団も、船長だったウエーバーが死に壊滅してしまった。

 ウエーバーにとどめを刺したのは、ニッキという青年だった。

 ウエーバー海賊団の中で魔法を使うことのできる唯一の人間だった。


「いいか、お前たちはこれから立派な船員となって人の役に立つんだぞ!」

「誰がなるか! 俺たちは親父の跡を継いで立派な海賊団になるんだ!」

「そんなことはさせん!」


 いきり立ったニッキをロワイユ船長は怒鳴りつけた。


「俺たちがその気になれば、こんな船簡単に乗っ取ることができる」

「なにを!」


 ニッキの言葉にロワイユ船長が怒りをあらわにした。


「何なら今からでも戦闘再開しようか?」


 ニッキの言葉に周囲にいた船員たちが殺気立つ。


「やっぱりこいつら海賊団の仲間じゃねぇか!」

「船長、こんな奴ら信じちゃいけねぇ。こいつらきっと裏切るぜ!」


 船員たちは一気に色めき立った。


「うるさい!」


 ロワイユ船長は船員たちに怒鳴った。


「おいそこの砂糖坊主!」

「なんだと!」


 海の男は塩をかぶり育つ、故に「塩」だ。

 しかし、砂糖と呼ばれることは海の男にとって侮辱の言葉に他ならない。


「お前、ウエーバーの事は好きか?」

「当たり前だ! 親父は俺たちの誇りだ!」


 ニッキは拳を振り上げた。

 他の少年たちも静かに頷く。

 少年たちはウエーバーを誇りに思っていた。

 

「ならば、お前たちはその誇りを胸にしまい込んで生きてみせろ!」


 ロワイユ船長はニッキを殴る。他の少年たちも同じく殴りつけた。


「やりやがったな!」


 ニッキも殴り返した。


「おい、船長に何しやがる!」


 周囲で見ていた船員たちが船長を助けようと駆けつけた。


「手前らは手を出すな!」


 ロワイユ船長が船員たちを制止させる。

 

「・・・しかし・・・」

「こんな砂糖坊主に儂は負けん!」

「また言いやがったな、クソジジイ!」


 ロワイユ船長の拳がニッキにヒットした。負けじと繰り出すニッキの拳をロワイユ船長はやすやすと避けるが、その隙をついて他の少年たちがロワイユ船長に殴りかかる。


「砂糖坊主の拳なんぞで儂が倒せるものか!!」

「俺たちは負けねぇ! ウエーバー海賊団は誰にも負けねえんだ!」


 ニッキは叫んだ。泣きながら叫んだ。


「寝ぼけたこと言ってんじゃねぇ! ウエーバーは死んだんだ!」

「そうだ!そうだとも!オレが殺したんだ!親父を殺したんだ!」


 ニッキの言葉に、周囲の少年達の動きが止まった。

 静けさが満ちる。

 その中で、ニッキの声だけが響く。


「オレが殺した・・・みんなの大事な親父を・・・ああするしかなかった。嫌だった。親父を殺したくなんかなかったのに!!!」


 ニッキは子供のように泣きじゃくる。


「だから甘いってんだ、この砂糖坊主!!」


 そんなニッキをロワイユ船長は殴りつける。無言のまま、ニッキは殴り飛ばされた。


「お前の親父は泣けと言ったか? 哀しめと言ったか?」


 ニッキの襟首をつかみあげる。


「あいつは何のために死んだ? 誰のために死んだ?」


 海賊団の船長。

 皆を守るため、仲間を守るため。

 すべての罪を背負い込み死んだ男。


「奴の遺志を継ぐのがお前たちだろうが!」


 張り手をかました。しかし、威力はなく優しくなでるようだった。


「お前たちの生き様を見せてみろ! ウエーバーが羨むぐらい輝いてみろ!」


 嗚咽が漏れた。

 ニッキと少年たちの。


「そんなことわかってる!!!」


 ニッキはそれだけ叫ぶと、その場に崩れ落ちた。

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