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閑話 賢者と妖精の対話

「あの二人から感じる魔力は・・異様です。まるで釣り合いが取れていない」


 サラと望の姿を遠目に見ながらミルティーンがセリウスに告げる。

 セリウスは、相棒の妖精の言葉に静かに頷く。


 セリウスは賢者だ。四大賢者の一人として名を世に轟かせるほどの力の持ち主だ。

 その彼が驚愕してた。

 恐怖していると言ってもいい。


 海賊の氷の矢を蒸発させた炎の魔法。

 火の精霊の少ない海域での発動。

 魔法の技術で言えば、それほど大したものではない。

 持続時間は一瞬。爆発的に炎の壁を作り出し、氷の矢を消し去っただけだ。


 しかし、問題はその魔法規模だ。

 普通の魔法使いであれば、あれだけの炎を具現化するだけで魔力が尽きる。


「魔具の補助であれだけの魔術を発動させたのだろうか」


 魔力を強化する魔法使いは多い。

 サラの腕にも、そして望の腕にも同じ紋章の腕輪があった。


 火の精霊の少ない場所では、魔法の威力は純粋に術者の魔力に影響する。

 それは桶で水をくみ出す作業にいていた。

 桶でくみ出す水の量が桶の容量に比例する。

 どんなに真剣にくみ出しても、桶の大きさによってくみ出される水の量には限界がある。

 

 今回の場合は特にその影響が強い。

 精霊の数は、術に影響する。

 精霊の数が多ければそれだけ少ない魔力で魔法を使うことができる。

 しかし、海上という環境下では、その力は半減どころの話ではない。


 水の魔法に対抗するには火の魔法しかない。

 それは定石として魔法使いなら当然の選択といえた。

 しかし、あのサラという魔法使いは、火の魔法使いにとって最悪ともいえる状況で爆炎ともいえる魔法を放って見せた。

 彼女が唱えていたのは、主に風の魔法を中心とした詠唱だった。基本魔法と言ってもいい。

 火を得意とする魔法使いが他の魔法を不得手としているかというとそうでない場合もある。

 サラ・クニークルスという見習い魔法使いがいい例だった。

 水の魔法は不得手ということだが、風の魔法に関しては火の魔法と同様に得手としている。

 しかし、セリウスの知る限り風の魔法で火の魔法を強化するなど聞いたことがない。

 火と風は相性がいい。

 だが、風は水とも相性がいい。

 しかし、水と火は相反するものだ。


 あの見習い魔法使いは、風の魔法だけで水系の魔法を、しかも難易度の高い氷の魔法を放って見せた。

 しかも、大規模に、だ。

 水の妖精であるミルティーンには、水の精霊の様子を知ることができた。

 だからこそわかる。

 彼女の放った魔法には、一切水の精霊は関与していない。

 関与どころか、強制的に状態変化をさせられたようだった。

 精霊の強制状態変化。

 そんな魔法があるなど聞いたことがない。

 精霊王でない限り、それほど劇的な変化を起こすことは不可能だった。


「しかしあの腕輪は・・魔術強化の魔具ではない」


 意匠を凝らしたデザインで分からなくしてはいるが、あれは間違いなく 「罪人の腕輪」だ。

 魔法使いで罪を犯した者に着けられる魔力消去の魔具。魔法使いにとっては致命的ともいえる最終兵器。

 通常の魔法使いであれば、一つの腕輪で魔力を無くし、二つつければ命を落とすとまで言われている。

 伝説級の負の魔具。

 おおよそアクセサリーとして身に着けるものではない。


 それを二人とも両腕に着けている。

 普通ではない。

 尋常ではない。

 

 二人が罪人だとも考えられなかった。


 「罪人の腕輪」


 何かしらの意図があり、身に着けている物だ。

 

 それでいてあの魔法力。

 恐らくは即興で考案したであろう呪文の同時詠唱。

 桶で例えるなら、1杯の量は大したことはない。

 しかし、桶をたくさん用意し同時に水をすくえば問題は解決する。

 100杯でも、1000杯でも同時にすくえば山の火事でも消すことができる。


 あの見習い魔法使いが見せたのはそういうことだった。

 彼女は見事に山火事を消して見せた・・・つまりは、大海原を氷漬けにしてみせた。

 しかも、水系の魔法を使うことなく。


 規模も威力も桁違いだった。


 国家戦術級魔法。


 魔法を放った場所が、陸地であればどれほどの威力があっただろう。

 否。そうではない。

 セリウスは肝心なことを忘れていた。

 術は風の魔法を基としていたのだ。

 ならば、術の発動に、精霊の量にほとんど関係がない。

 風の精霊はどこにでもいるのだ。


 そして、不釣り合いなほどに不安定な魔法。

 大海原を氷漬けにはできたが、溶かすことは無理だと言った。


「水系の魔法は得意ではないのです」


 それは、氷結はできるは融解させるのが難しいと言っているのだ。


 ならば、火の魔法で溶かせばいいものだが、どうやらまだ加減ができないらしかった。

 凍った海の冷気は凄まじく、多少の炎では溶かすことは不可能だった。

 冒険者数人がかりでも、まったく溶かすことができなかったのだ。

 呪文の同時詠唱を行い炎を同時に出現させる。

 冒険者たちはそれを提案した。

 圧倒的な火力による氷の融解。

 しかしそれは、実行不可能な案だった。


 下手をすれば帆船を丸焦げにしかねない。

 海を沸騰させ、全てを蒸気にしかねない。


 はっきりとは言わないが、それを危惧しているということが伝わってきた。


 威力が大きすぎるが故に術を行使できない。

 あまりにもアンバランスな力。


「あの見習い魔法使いは・・危険な存在になり得る可能性がある・・」


 セリウスの言葉にミルティーンは否と首を振った。


「セリウス・・私が危険視しているのは隣のあの男です」


 ミルティーンの言葉にセリウスは耳を疑った。

 望いう男からはほとんど魔力らしいものを感じることはできなかったからだ。

 「罪人の腕輪」の効力があるにしても、セリウスほどになれば感じ取ることができる。


 力があるのに行使していないーーそれは、サラ・クニークルスに対して言った言葉であって、望に対しての言葉ではない。


 ミルティーンも自分の言葉に不思議さを感じずにはいられなかった。

 しかし、感じたのだ。

 海賊を抹殺せんと海に向かうミルティーンを望は腕を掴んで止めた。

 並みの冒険者でもミルティーンを捕まえることは難しい。

 水の妖精はその気になれば、身体を水にも蒸気にもできるのだ。

 セリウスの命を受け、それを実行しようとするミルティーンを望は止めた。

 人間よりも上位の存在である妖精を、制止したのだ。


「それに・・・」


 腕を掴まれた時に感じた違和感。

 人間でもなく、妖精でもなくましてや精霊でもない。

 異質な存在。


「あの二人には、注意しないといけません」

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