黎明の月 8日 大海原と大海賊 その7
「猛き風の流れよ・・・」
大海原の帆船の上で、サラの詠唱の声が響く。
「あれは・・風魔法・・・」
セリウスの目が細まる。
「一体何をしようとしているのです。風を吹かせて周囲一帯を冷やそうというのですか?」
周囲の冒険者の間から失笑が漏れた。
先ほどの火系の魔法は冒険者たちも目の当たりにしている。サラが見習い魔女の中でもそれなりの実力を持っていることは理解することができた。
しかし、火系の魔法使いが水系の魔法を得手とすることはない。
それを分かっているからのセリウスの案。
しかし、目の前の見習い魔女は、その案に真っ向から立ち向かおうとしているのだ。
「・・み、耳が・・・痛い」
何人かの冒険者が耳を押さえた。
「何が起きているんだ。おい、彼女は何をしようとしているんだ?」
「耳が痛いのは、周囲の気圧が上がっているからだ。大丈夫、これはただの余波・・・本当にすごいのは海面すれすれの部分だ。今、海面の少し上の部分に高圧に圧縮された二酸化炭素が集まっている」
望の言葉を周囲の誰も理解することができなかった。
「圧縮された二酸化炭素を噴射するとどうなるか、加圧された二酸化炭素は液化し、これを急激に大気中に放出するとどうなるか・・・」
望の言葉が終わってすぐ、サラの呪文が完成した。
空気が圧縮され、勢いよく噴き出す音が響く。
モウモウとした煙が発生し、周囲は白い靄に包まれる。
「水系の魔法が使えないからどうした!」
望の声が煙の中から響く。
「ノゾーミ、完成したのです」
「ああ、サラよくやった。実験は大成功だ!」
「何が起こっていというのですか!」
靄が晴れていく。
風が煙を吹き飛ばし、視野が回復する。
視野が回復すると、船員も冒険者も、そしてセリウスですら我が目を疑った。
「これが・・俺たちの魔法だ!」
帆船に乗った者たちの目の前で、今まで白波を立てていた大海原。
すべてが音を失っていた。
すべてが動きを失っていた。
全員の目の前。
周囲一面氷の大地が広がっていた。




