梟の月 9日 最弱勇者と幽霊伯爵の館 その16
「これでようやく落ち着いたな」
傷だらけになりながら、それでも晴れやかな顔で望が呟いた。
「そうなのです。ノゾーミの無駄な犠牲も、これでようやく日の目を見るのです」
「もう少しオブラートに包んでみようか?」
「・・・ノゾーミがいなければもう少し早く事件は解決した?」
サラは一生懸命に言い直す。
「・・・さっきの言葉の方でいいです」
望はがっくりと肩を落とした。
「二人の話はまとまったようなので・・こちらの話をしましょうか、ハンブルック卿 」
「は、はひぃ!」
ルカリオに名を呼ばれ、ハンブルック卿が悲鳴に近い返事をした。
彼の顔は殴られたせいで腫れ上がっていた。
「どうしたんですか、そんなに顔を腫らせて・・転んだんですか?」
「これはお前たちが・・・ぎゃふ!」
みなまで言わせずに、ミランシャの拳がハンブルック卿の頭にさく裂。
ミランシャは怒っていた。激昂していると言っていい。
(あんなに恥ずかしい思いをするなんて、しかもサラ様の前で!)
ミランシャは羞恥に顔を赤らめながら、再度ハンブルック卿の頭を殴りつけた。
「あの・・旦那様もこのように反省しておりますし、そろそろ許していただけないでしょうか?」
今にも泣きそうな顔で、クロークが頭を下げた。
ハンブルック卿の起こした騒動はこれまでも多々あったのだろう。
その度に、この執事が火消しに回っていたかと思うと哀れにも思えてくる。
しかし、ここで甘い態度を見せてしまったら、更に増長してしまう可能性もあった。
ここは心を鬼にして、しっかりと躾けなければならない。
ミランシャはそう心に決めた。
「今までクロークさん達が甘やかすから、こんなに甘ちゃん坊やになってしまったんですよ!」
びしぃっ!とミランシャがハンブルック卿を指さす。
おお、とクロークとメイド達が声を上げた。
「だって楽しかったんだもん・・」
「お前は子供かぁ!」
ミランシャの拳が再度さく裂。
十歳近く年の離れた男性に対して、ミランシャはあまりにも堂々としていた。
「ミランシャはすごいのです。女なのにノゾーミよりも男らしい!」
「あの・・サラさん」
「本当ですなぁ」
「クロークさんまで・・・」
もはや反論する気も失せたのか、望は静かになった。
「まぁ、そんなことはどうでもいいのです」
「・・・どうでもよくない!」
「まあまあ、今はそんなことより、今回の依頼の件ですよ」
「そんなことって、ルカリオまで・・・」
「ハンブルック卿、今回のこの依頼は完了ということでよろしいでしょうか?」
笑顔ではあったが、目は全然笑っていなかった。
いわば、冒険者をだましていたということだ。被害が出なかったとはいえ、冗談では済まされない被害が出ていた可能性もあった。
ルカリオ達をはめた幻覚魔法は並みのものではない。
下手をすれば、抜け出せなかった可能性もあった。
「あんな強力な幻覚魔法で冒険者をだますだなんて、許せないのです」
「幻覚魔法ですと!?」
「それは・・何のことだ?」
ハンブルック卿と執事のクロークが驚きに目を見開いた。
二人の驚き様から、それが演技でないことは明白だった。
ならば、何故このようなことが起こったのか、幻覚を仕掛けた犯人は別にいるということなのだろうか。
たしかに、幻覚魔法以外の罠は稚拙なものばかりだった。
引っかかった望には悪いが、怪我をするほどのものでもない。
種明かしをされれば、怒る程のものでもない。そんな些細なものだ。
「私どもは確かに、冒険者をだましておりました・・しかし、それは館の仕掛けのみ、決して怪我をするような大がかりなものではございません。それに多少のスキルがあれば、あの程度の子供だましの罠にかかるなど」
「私は、冒険者に息抜きをしてほしかったのだ・・そして、知って欲しかった。この街の素晴らしさを・・」
「旦那様・・妙な城が現れ街からは活気が失せました。せめて、この館を訪れた冒険者にはある意味楽しんで欲しかったのです。そして、この街の素晴らしさを伝えて欲しかったのでございます」
クロークがそっと涙をぬぐう。
城が現れたことによって湖の街空は活気が失せた。
観光を拠り所としていた街にとって風評被害は、致命的だ。
それを払拭するために、この領主は動いたのだ。
冒険者にクエストを依頼し、この館へと誘い込む。
怒る冒険者もいるかもしれないが、楽しんでくれる冒険者もいるはずだ。
それを繰り返しながら、明るい話題を広めようとしたのだ。
このクエストは、報酬もかなり良かった。
これは宣伝費と考えれば、安いものだ。
これから先、悪い噂は消えていくだろう。
城は、サラたちによって消え失せた。
これからはこの湖の街も観光客があふれる賑やかな街になるだろう。
「そんなことならオレ達に任せな!この街の事を宣伝しまくってやるぜ!」
「私たちに、全部任せるのです!」
望が意気込んで叫んだ。
「おお、なんと頼もしい!旦那様、やはりこの男、旦那様の見込んだ通りの男でございましたぞ!」
「そうだなクローク。あの見事な罠へのはハマりっぷり!お前と私とで考えた罠に全て引っかかってくれただけでなく、こんなに簡単に騙され・・・げふげふげふ」
「本当に単純な男で助かりましたなぁ」
「「はっはっはっは!」」
二人とも大いに笑ってくれた。
半分は趣味なんだろうか。
望とサラは二人の会話に気づかずに、湖の街の街を宣伝することに決意を新たにしている。
ルカリオは聞こえないふりをし、ミランシャなあきれたように望とハンブルック卿とを見比べていた。
「謎はありますが、とりあえずは解決ということですかね」
幻覚魔法をかけた犯人はまだ分かっていない。
恐らくは、邪神アヌールを崇拝する者の仕業ではないかという危惧があった。
しかし、やり方が直接的ではない。
しかも、四人を幻覚魔法にかける程の力がありながら、その後何もしてこないのが気になった。
「ルカリオどうかしたの?」
心配そうな顔で、ミランシャが聞いてきた。
「いえ、なんでもありません」
ルカリオはミランシャを心配させないように、優しく笑いかけた。




