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梟の月 9日 最弱勇者と幽霊伯爵の館 その8

 周囲が暗い。

 ミランシャは暗闇の中で目を覚ました。

 護りの光がほのかに周囲を照らし、そこが岩をくり抜いたずい道のようなものだと気づく。

 それなりの高さから落ちたというのに打ち身などの痛みはなかった。

 護りの光がダメージを軽減してくれたのか、運がよかったのか・・


「ミ、ミランシャ・・・どいてくれ・・・」


 サラの下からうめき声が聞こえる。

 どうやら、望がクッションになっていたおかげのようだった。


「望、大丈夫ですか?」

「なんとか無事だ・・」


 ミランシャが立ち上がり、彼女に手を引かれ望も立ち上がった。


「サラ様とルカリオは?」


 周囲を見渡すが、二人の姿を見つけることはできなかった。

 落ちてきた穴は、垂直ではなかった。途中から穴は斜めになり、滑り落ちるようになっていた。何度か分岐点がありそこではぐれたのかもしれなかった。


「とにかく出口を探そう。二人なら大丈夫だ」


 守りの呪文の効果もあり、打ち身はなかった。

 望は手をかざす。意識を集中し、最小限の出力をイメージする。


「光の精霊よ、我らが道を照らし給え!」


 望の言葉と共に、目の前に光の玉が出現する。


「へぇ、本当に精霊言語でもないのに呪文が使えるんだ・・・」


 ミランシャが感心したようにふむふむと頷く。


「あのなぁ、オレが嘘をついていたと思っていたのか?」

「いや、いくらサラ様がああ言っていても、実際に目にしないと信じられないよ」


 サラは、前もって望の事を説明していた。そして、そのことを秘密にしておくようにと厳重に言いくるめていたのだ。

 しかし、ミランシャにとってサラの話は半信半疑だった。いかに尊敬するサラの言葉とはいえ、通常言語で呪文が使えるなど聞いたことがない。魔法使いが精霊言語で呪文を使うことは知識として知っていたが、普通の会話のレベルで魔法が使えるなど言語道断だ。


「望、あなた魔力なんてないんでしょ?」


 これはサラからの受け売りだったが、望には魔力がない。通常の人間よりも低いレベルの魔力しか持ち合わせていないらしいのだ。

 そんな望が、どうやって魔法を使っているのか、興味があった。


「ああ、俺にはどうやら魔力はほとんどないらしい」


 望はあっさりと認める。「しかし、今はルカリオの魔力が俺にはプラスされているみたいだ」と付け足した。

 サラと望はルカリオを救うため「結魂」の儀を行った。そのことによって竜族のルカリオの魔力がサラと望にも影響を及ぼしているというのだ。

 サラのパワーアップは、サラに「爆炎の魔女」の異名を広めた事件のせいで嫌でも実感している。

 ミランシャは単純な魔法なら使うことができた。それなりの素質があれば、火を起こしたり、明りをつけたりする魔法を使うことができる。それは、冒険者としての最低限の知識として使用することができるというだけのものだ。だから、精霊言語についても最低限の知識は持っているつもりだった。そのミランシャから見ても、望の能力が異常なのは分かる。


「ねぇ、何で魔法が使えるの?」

「・・・知らん」


 望の言葉はそっけない。

 あまり自分が魔法が使える事を、言いたくないのだとミランシャは察した。

 それは、ルカリオ達からも聞いている。

 下手に使える事が分かれば、世界から追われるハメになるかもしれない。ただでさえ魔法使いというのは奇異の目で見られることが多い。まだまだ魔法使いに関する偏見の目はあるのだ。


「とにかく・・・サラ様達を探しましょう」


 ミランシャが話題を変えようと、明るく声を上げた。


「そうだな・・・いっそのこと天井の岩盤を撃ち抜くか?」


 望は恐ろしいことを言った。


「・・・一応、館の物は壊さないようにって言われてませんでした?」

「それもそうだな、仕方ない諦めるか」


 仲間の事は考えていないのか?とミランシャは思ったが、そんなことはないだろうと思い直す。


「・・そういえば、この上にはサラたちもいたんだった」


 前言撤回。望は何も考えていないらしい。


「気楽に行こう」


 望が歩きだす。ミランシャは何も言わず、望の後を追った。



 ずい道はどこまでも続く。大雑把な勘で言えば既に屋敷の領地の外にいるくらいだと思われた。

 道は所々に分岐点があり、岩肌に印をつけながら進んだ。

 そうしているうちに、いきなり石レンガの通路に出くわした。


「なんか露骨に怪しいんですけど・・・」


 ミランシャが望の背中を押す。


「望様、どうぞ私の前をお進み下さい」

「自分の心に素直な奴だな・・」


 望はあきれた声で言った。


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