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梟の月 9日 最弱勇者と幽霊伯爵の館 その7

「これは・・よくない感じがします」


 館に一歩踏み込んだ時から感じる違和感に、ミランシャが囁くように言った。

 この館には窓がない、故に入ったはいいが周囲は真っ暗だった。


「明りの魔法を使うのです」


 サラが詠唱を開始する。


「あ、魔法を使う時は気を付けて・・」


 はっと何かに気づきルカリオが声を上げた。

 しかし、タイミング遅く、サラの呪文は完成した。

 突然、サラの杖が激しく輝く!

 光はおさまらず、目を閉じようと、手をかざそうと、眩しさはさほど軽減されなかった。


「ぬおおお!目がぁ!目がぁっ!」


 不幸なことに、その光の恩恵をもろに受けてしまいその場でのたうち回る不幸な男が約一名。望だった。


「あなたの魔法は強化されています。ちょっとしたものでもその威力は何倍・・いや何百倍になっていると考えて下さい」


 ルカリオの言葉に、サラは明りの魔法を抑えながら頷いた。


「おいおい、これって何かあった時に魔法を使っちゃまずいんじゃないのか?」


 未だ望の視力は回復していない。壁に手をつきながらよろよろと立ち上がる。

 クロークからくれぐれも館を壊さないようにとの通達を受けていた。

 明りの魔法ではなく火系の魔法であったなら、今頃全員丸焦げだっただろう。


「魔力の流入を抑えられないのか」

「お互いにまだ慣れていませんからね・・しばらくすれば、調整ができると思うのですが」


 ルカリオの言葉にサラと望は頷くしかない。しばらく魔法は使えないと考えた方がよさそうだった。

 下手をすれば、壊れた屋敷の下敷きになりかねない。


「あー、くれぐれも建物は壊さないようにお願い致します。何せ歴史ある建物なので」


 遠くから、クロークの声が届く。


「無茶を言うなよ・・・」


 望が愚痴った。これでは魔法を封じられたようなものだ。

 魔法を使えないってのは辛い。いざという時に、ただ逃げることしかできない。


「大丈夫なのです。望は私が守るのです」


 サラが望の手を握ってきた。


「はいはい。サラ様は私が守ります!」


 サラと望の手を振りほどき、ミランシャはサラと手をつないだ。


「いや・・それはいい考えだ」


 望はぽつりと呟き、直後詠唱を開始した。


「光の精霊よ。我が盾と成り給え!」


 光が四人の身体を包み込む。


「これで大丈夫だ。何かあっても何とか持ちこたえられるだろう」


 望は余裕の顔で一歩目を踏み出した。

 踏み出すと同時に、廊下が割れる。


「えっ・・・?」


 四人が顔を見合わせたまま凍りつく。


「なんなんだよ!この館はーーーー!」


 望の声が尾を引いて、廊下に空いた穴の中に消えていった。

 四人の気配が消えた後、廊下の床板が何事もなかったかのように閉まり、館に再び静寂が訪れた。


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