梟の月 9日 最弱勇者と幽霊伯爵の館 その6
日が昇り、冬にしてはわりと強い日差しが照りつける。
普段であれば、のんびりとして過ごしたいポカポカとした陽気だったが、四人の目の前には異様さを漂わせた洋館が建っていた。
遠目にはわからなかったが、近づくとその異様さを感じずにはいられなかった。
まずは、窓がない。これでは光どころか、風すら入り込めないだろう。
外観からすれば、中は三階くらいだろうか。確かに大きい洋館だが、ここで失踪して見つからないというのはいささか考えにくかった。
「もしかしたら、隠し部屋とかあるのかもしれませんね」
もっともなことをミランシャが口にした。
「はて、あるかもしれませんし、ないかもしれません・・何せ、この館ができて三百年は経っておりますので・・」
クロークが言葉を濁す。
「ん?失踪した時、建物の中は確認したんだよな?」
「いえ、確認しておりません」
クロークの言葉に、望たちは愕然とする。
領主が失踪した。行動を見れば奇異な主かもしれないが、それでもこの館、この地域の領主だ。それが失踪したということは大事件、その失踪したかもしれない建物を調べていない?
「なにしろ、この館は曰くつきの館でして、使用人たちは怖がって中に入らなかったのでございます」
(そういうあんたも入らなかったんだよな)
望は館とクロークを眺めため息をついた。
「とりあえず、中に入ってみますか・・」
館の入り口は一つしかない。使用人たちの話では、この館には裏口も存在せず、入り口は正面の扉だけということだった。
「ああ、言い忘れておりましたが・・」
クロークが何事か言いかけたのは望が館の扉の取っ手に手をかけ「ん?」と振り返った時だった。
「望!」
ルカリオが叫ぶのと、扉の奥から現れた巨大な拳が望の身体を吹き飛ばすのはほぼ同時だった。
「お約束過ぎーーー!」
望の声が遠ざかっていく。
べっちっ!と遠くの芝に落ちた。
「館には、ハンブルック様が余興で作られたトラップがありまして、私共も怖くて入れないのでございます」
「使用人たちが、入りたがらないわけね・・」
ミランシャがよろよろとこちらに帰ってくる望を見ながらあきれる。
「・・・なので、入る際には十分にお気を付けください」
「遅いわ!!」
望が叫んだ。
「あんなに吹っ飛んだのに、よく平気ですね」
望はミランシャの言葉を聞きながら首をひねった。
拳は布製で、中には綿が詰められていた。
「いやはや、ハンブルック様の遊び心にはいつも感心させられます」
どこか遠くを見ながら、どこか懐かしむようにクロークが呟いた。
「見てないで止める奴はいなかったのかよ!」
望は叫んだ。そうしている間に、巨大な拳はゆっくりと戻っていき、天井部分に収納される。
「行くぞ」
望が走って中に入る。
「ちょっとは警戒しないとだめなのです」
「警戒してたら、先みたいに吹き飛ばされるぞ!」
「あんな間抜けな罠に引っかかるなんて、望は本当に鈍いんだから!」
「うるせー!」
「君といると、退屈しませんね」
四人が四人共、好き勝手なことを言いながら館に入っていった。
すると、誰が触るまでもなく扉がゆっくりと閉まっていく。
「さて、獲物は魔物の口に自ら入り込んでいった・・どうするかな、冒険者たちよ」
クロークの呟きは、小さく吹いた風に吹き消されていった。
いよいよ本格的に話がスタートいたしました!




