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梟の月 8日 最弱勇者と幽霊伯爵の館 その2

 街の中を四人の若者が歩いていた。

 一人は一目で魔法使いとわかる格好の栗色の髪の少女とその後ろを歩く黒髪の青年。

 魔法使いの少女の隣には大きな荷物を抱えた少女が歩き。その少し後ろを赤髪の青年が歩いている。

 街の者たちは、この奇抜な取り合わせを奇異の目で見ることはなかった。むしろ誇らしげな面持ちで、気さくに声をかけてきたり、遠くから声援を送る者さえあった。

 二カ月前に、突如現れた怪しげな城。

 城には魔物の目撃情報があり、観光を生業としていたこの街は窮地に追い込まれた。

 そこに颯爽と現れたのが(見習い)魔法使いサラ・クニークルスとそのお供の者だった。

 魔法使いサラ・クニークルスは千の魔法を操り、城に巣くう亡者と呪われた竜を退治したと言われている。

 現に、怪しい城は光と共に消滅し、今では城まで通っていた石橋の一部が残るのみとなっている。

 かつて、この湖には王族の住まう城があり、その城は約三百年前に竜の呪いによって、闇の世界に引きずり込まれた・・・それが、今この街に広まっている噂の概要だった。

 事件の詳細は、ギルドにしっかりと報告し、ことあるごとにサラたちも話をしているのだが、どこにでも人づてに情報が広まれば、尾ひれが付き当事者たちにの耳に入る頃にはびっくりするような英雄譚へと変貌してしまっていた。

 通りを歩くたびに道行く人が歓声を上げ、指さして声をかけてくる。握手を求めてくる者もあった。

 その英雄のサラは、ずかずかと街の路地を歩く。もともと人にちやほやされるのに慣れていないのだ。

 見習いとはいえ、サラは魔女。

 一般的な旅人がよく着ている皮の衣に、皮のマントと比較的おとなしい格好だ。それが、漆黒色でなければ彼女が魔女であると誰も分かるまい。大きなつばのとんがり帽子に、樫の木の杖。腕には魔法の力を付与したと思われるマジックアイテムの腕輪がのぞいていた。

 いつもの格好。何も変わっていない。

 魔法使いはどこの国でもそれほど多くはない。故に、様々な噂が飛び交い、誤解されることも多い。怪しげなイメージが常につきまとい宿屋を断られたり、食事を断られたり、、そういったことが今まで少なからずあった。

 しかし、先日の事件を解決したことで、彼女に対する街の評価は驚くほどに変わった。

 魔法使いに対するイメージが払拭されたといってもいい。

 それ程の偉業を達成したサラだが、その居心地の悪さに少し疲れてきていた。

 どこに行っても、注目の的。何をしても注目されてしまう。


「おい、向うで子供が手を振っているぞ」


 サラがあまりに周りに反応を示さないので、見かねて望が声を賭けたが、それにもサラは返事をしない。


「何を言っているんですか。サラ様は今や有名人!街の人たちの注目の的ですよ!」


 サラの隣を歩く少女が元気な声で言った。

 彼女の名は、ミランシャ。吟遊詩人だ。

 サラに心酔し、最近ずっとサラの隣にいる。

 この街に滞在中、サラの噂を聞きつけ彼女に会うために街中を走って奔走していたところ、「運悪く」望とぶつかってしまい。その結果、望を宿で看病したという経緯があった。

 そこでの縁を最大限に活用し、今では当たり前のようにサラたちと行動を共にしている。

 宿も同じところにしてしまっているので、少しでも宿泊費を安く。ということで、四人部屋になってしまたのは昨日からの事だ。

 宿を出る際に、宿屋の主人の、


「おはようございます。

 ゆうべは おたのしみでしたね」


 という一言が妙に印象に残った。



 朝の内から、四人は出発していた。

 クエストの情報収集のためだ。

 依頼は、「一か月前に失踪した領主の行方を捜す」というもの。

 依頼主は、領主の屋敷の執事からだった。

 依頼主から直接依頼内容を聞くのが一番手っ取り早いが、そのことについて一番最初に手を挙げたのはミランシャだった。


「その依頼、内容が内容だけにいきなり屋敷に向かうのは得策ではないと思います」


 その意見に、全員が納得する。

 この事件、あまりにもうさん臭い。下手をすると事件の片棒を担がされる恐れもあった。

 つまり、屋敷の人間が新しい領主を殺してしまい、別の証拠をでっちあげ、クエストを受けた冒険者に事件性がないことを証明させる。というものだ。

 クエストには当然のことながら、ギルドがかかわっている。冒険者が事件性がないと判断し、それがギルドの判断となってしまえば、この件は、迷宮入りしたままになってしまうのだ。


「望・・・俺たちは、別の所で情報を集めてこよう」


 ルカリオの言葉に望は従うことにした。

 サラと行動を共にしたいが、いかんせん彼女は目立ち過ぎる。


「ミランシャ、すまないがサラに街娘の格好をさせてもらえないかい」


 ルカリオの言葉にミランシャは「はいな!」と元気な返事をした。

 ミランシャはサラの腕に自分の腕を絡ませる。


「ふふふ、サラ様一緒にお着換えしましょうね!」


 ミランシャの目が、獲物を狩る獣のそれに変わった。


「・・・よ、よろしくなのです」

「着替えが済んだら、サラたちは街の噂話を集めてくれ、僕たちは丘の上にある領主の館に行ってくるよ」


 ルカリオの言葉にサラは頷いた。


「夕方、「酔魚亭」で待ち合わせよう」


 望とルカリオは、丘の上にある館へと向かうことにした。

新しい仲間も増え、いよいよ新展開スタートです。


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