梟の月 8日 最弱勇者と幽霊伯爵の館 その1
事の起こりは夕日の眩しい夕方に起こった。
昨晩の出来事は、規模が規模だけに大ごとになるかと思われたが、街がお祭り騒ぎだったこともあり、衛兵を呼ばれるまでには至らなかった。
「なんでも、その館に新しい領主が就任したらしいんだが、これが曰くつきの領主でね」
ギルドのワキルが依頼書の書面を眺めながらにやりと笑う。
終日、事件のあらましをギルド本部に報告した後での事だ。
その後、昨晩の出来事について少しばかり小言を言われもしたが・・・
ギルドへの報告は城に関する事だったが、ルカリオや望の事は触れられていない。
それはサラとルカリオ、望の間で決めたことだった。
ルカリオと望の件を伏せた事には理由があった。
まずは、望の存在がこの世界においてかなり危険をはらんでいると判断したからだ。
望の存在は魔法世界の常識、通説を根底から覆す恐れがあった。そもそも精霊言語なしに魔法を発動させるということからも既に世界の中で異端だ。
異端というよりも危険だった。
「脳内翻訳(望談)」なるもののはらむ危険性は大きい。それは今回の戦闘においても十二分に立証された。
魔法の精霊言語による詠唱と魔術の具現化、それを望はほぼ何の予備知識もないままに発動させた。
「あんなもの、勘で何とかなるだろ」
ゲームで培った知識で、呪文を唱えたら発動した・・・そんな、無茶苦茶な理屈で魔法が発動すれば、世の中大パニックだ。
もしそれが、望の固有能力だったとしても、問題は解決しない。
極端な話、人質を取るなどして望を脅迫し、呪文を唱えさせるという手段も考え得る。
「望は「結魂」の儀すら、独自の方法で行ってしまったからね」
ルカリオは神妙な顔つきでそう説明した。
「結魂」の儀とは、魂と魂を結ぶ儀式だ。もちろん正当な儀式などではない。今は失われてしまった「禁呪」の一種だった。
ルカリオがこの「結魂」の儀によって、王家に無理矢理「契約」されたのは、三百年前の王家のさらに何世代も前の事だという。事の詳細をルカリオは話したくないらしく、その辺の追及は行わなかったが、その「結魂」の儀式を行うために、百人単位の術者が犠牲になった。かつての魔術の術者のレベルは、現在の比ではない。
その術者が数百人、命を賭して行った儀式を望はサラの援助をもらったとはいえ、ほぼ一人でこなしたのだ。
望の魔力の源も不明だった。サラが視ても、ルカリオが視ても望の魔力の根源は不明だった。「ケイタイ」なる物が、少なからず関与しているらしい。ということまでなんとなく分かっているが、それがどういった原理なのか全くわからない。
この「ケイタイ」も不可解な代物だった。異世界のアイテムらしいが、その原理も使い道も全く不明。時折、望が教えてくれた「世界の真理」もその「ケイタイ」の中に収められているということだった。
しかし、サラやルカリオが「ケイタイ」を手にすると、途端に「画面」は光を失い。何もすることができない。
全てが、未知数。理解不能の出来事だった。
また、ルカリオの存在も公表するわけにはいかない。
それは「竜とお友達」という簡単なレベルではない。
竜は物質界、妖精界、精霊界の世界において最強といわれる種族だ。
その種族とお友達という話も、もはや冗談でも言える話ではない。
望とルカリオが、サラの三人がその気になれば、世界を滅ぼすことも可能なのだ。
それは昨晩の事で十分理解できた。
「・・・で、その新しい領主なんだが、一か月前から失踪しているんだ」
口調は柔らかいが、内容は穏やかではない。
「城との関係は?」
可能性がないわけではない。生贄として連れ去られた可能性も十分に考えられた。
城で生贄になった冒険者の件もギルドには報告してある。氷漬けになっていた冒険者たちは、ほぼ全員無事に「解凍」することができた。
死者が出なかったとはいえ、ギルドにとってもそれはいい話ではなかった。このクエストに参加し、この都に来る途中、野盗に襲われ命を落とした者も少なからずいる。ギルドには冒険者の親族に報告する義務があった。どれだけの冒険者が犠牲になったかは分からないが、調査を行い連絡をしなければならない。
冒険者は危険と隣り合わせの職業だ。命を落としても文句は言えない。
だからこそ、冒険者はギルドには必ず定期的に連絡を入れるようにしている。
それが唯一の親族への便りの代わりとなるのだ。
自分に何かあった時には、ギルドに預けておいた品物やお金をある一定の期間以降送る決まりになっている。
クエストの内容によっては、死ぬどころか死体すら残らない場合もある。
そんな万が一の場合の事を考えて、ギルドにお金や物品を預ける冒険者は多かった。
「・・・だから、城と関係があるお前さんたちにこの依頼を受けてもらいたいんだよ」
ワキルは、依頼書をサラたちに見せながらそう言った。




