梟の月 6日 最弱勇者と幻の城 その7
「世界を滅ぼす」
そういわれてもサラにはピンとこない。
それは、世界の事をよくわかっていないかもしれないし、今の望を見ている限りそんなことはないと確信をもって言うことができた。
「まぁ、気にしなくてもいいよ」
ルカリオはそう言ったが、だったら最初から言わないで欲しいものだ。
「ん・・・」
望がかすかにうめいた。
「ノゾーミ!」
サラの反応は素早い。ベッドから飛ぶように起き上がり、望の元へと駆け寄る。
彼女の見ている前で、望がかすかに瞼を動かし、ゆっくりを目を覚ます。
「よお、久しぶりだな・・」
ゆっくりとした口調。億劫そうに上体を起こすが、衰弱しての事ではない、ただ寝起きで動きが緩慢としているだけだ。
「・・・ん?お前はもしかして・・・」
「先に言っておきますが、僕はルカリオですよ」
あっさりと正体を明かし、ルカリオは果物を放った。
器用にそれをキャッチし、望は果物にかじりつく。
「いやぁ、それにしても元気そうでよかった!このまま目覚めないんじゃないかと思ってハラハラしましたよ!」
熱心に果物にかじりつく望にルカリオが抱き着いた。
「・・・・!」
その様子を、サラはうずうずとしながら見守っている。
飛びつきたい、抱きしめたい。
そんな衝動が湧き起こるが精神力のすべてを総動員して何とか押さえ込んだ。
望は周囲を見渡し、サラとルカリオの姿を改めてみると、安心したように微笑んだ。
「おかげさまで、みんな無事なのです」
「・・・のようだな。何とかうまくいったけど、成功する確率なんてあんまり考えてなかったもんな」
「よくもまあ、そんな考えで危ない橋を渡ったものです」
憎まれ口をたたくが、その顔は怒っていない。
「何にしても、二人とも無事でよかったよ」
ルカリオが呟いたその時だった。
「よお!声がしたからまさかと思ったが、やっと目を覚ましたか!」
三人が振り返るとそこには満面の笑みのワキルが立っていた。
ずっと待っていたといわんばかりに、うきうきとした感情がありありと伝わってくる。
「俺の見込んだ通り、お前たちならやってくれると信じていたぜ」
がははと豪快に笑い。起きたばかりの望の背中をばっしばっしと叩く。
望は顔を引きつらせながら、その洗礼を受け、サラとルカリオはそれを見て声をあげて笑った。
「ギルドの方でも、状況の確認をして正式にクエスト達成を了解した!」
ワキルの言葉にサラと望は手を叩いて喜んだ。
「詳細は後でじっくり伺うとして・・・」
ワキルはサラの手をつかんで、少女を立ち上がらせた。
「????」
一瞬訳が分からないという顔で、サラはワキルと望ルカリオの顔を交互に見比べる。
「一体何を・・・」
おいおい、そりゃないぜ。と、大げさにワキルはわざとらしく嘆いて見せた。
「あのなあ、お二人さんが寝込んで二日、どれだけこの街の住民がお前たちに会いたがっていたと思ってるんだ?」
ワキルの言葉の意味がいまいち理解できない。
この街の住民が?
会いたがる?
「いいか、あのクエストは確かに出先不明だったが、住民たちにとっては困り種だったことには変わりない」
ほらよ。とワキルはサラに杖を渡す。
「元凶の魔物の城を強力な魔法で吹き飛ばした英雄を、一目見ようって街中の人間が集まってきているんだ」
そういえば、閉じてはいるがなんだか窓の外が騒がしいような。
サラは恐る恐る窓際に近づく。
窓を開けた途端に歓声が街中に響き渡った。
道という道が人であふれかえっている。
部屋から声が聞こえた時に、ワキルが皆に伝えていたということだった。
「おいおい、固まってるぞ」
窓を開けたまま硬直しているサラを、ワキルがよいこらしょと担ぎ上げそのまま部屋のドアに向かった。
「一体何を・・・!」
「何?そんなの決まってんだろ」
担ぎ上げたサラに向かって、ワキルはにんまりと笑って見せた。
「偉大なる魔法使い様を街中のみんなに紹介するのさ!」
「やめてー!」
サラが上げた叫び声は、そのまま階段の奥に消えていった。
しばらく後、街中が再度歓声に包まれた。