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梟の月 6日 最弱勇者と幻の城 その6

 日が昇り、朝が来る。

 まどろみからの覚醒。

 久しぶりに熟睡できた。と目をあけながらサラは思った。

 今まで野宿ばかりで、正直あまり眠れていない。

 久しぶりの快適な睡眠にこのまましばらくそうしていたいという誘惑が起こる。


(もう少ししたら、起きるのです)


 起きたら、朝食を食べてゆっくりと準備をしよう。その前に買い物に出かけるのもいいかもしれない。そうだ、せっかくだからノゾーミも連れていこう。色々なことを教えてあげなければあの男はいつまでたっても自立できない。早く、クエストを終わらせて・・・?


「クエスト!?」


 城での出来事が走馬灯のように脳裏をよぎるサラは飛び起きた。

 サラはベッドの上にいた。

 室内は広く、白壁が朝日を反射して起きがけの目に眩しい。


「ノゾーミ!」


 周囲を見回す。そしてすぐに、隣のベッドですやすやと寝息を立てる望を発見した。

 とりあえず、望がいることに安心し、続いて竜の事を思います。


「そういえば、ルカリオは?」


 部屋のドアが開いた。

 見ると果物の入ったカゴを抱えた赤髪の青年が入ってくるところだった。


「やあ、目が覚めたみたいですね」

「誰なのです?」


 目は男を見据えたまま、右手で杖を探る。


「そんなに警戒しないでください」


 青年はあきれたようにため息とつくと、果物のかごを二人の間のテーブルの上に置いた。

 ここまで運んできたのにひどいじゃないですかといじけて見せる。


「この街の住民たちからの差し入れです」


 かごの中から赤い木の実を取りだし、サラへと手渡す。


「あ、ありがとう」


 受け取りながらも、サラはまだ警戒心を解いていない。

 その様子を赤髪の青年は面白そうに見ていたがやがて、


「僕は、ルカリオだよ」


 と正体を打ち明けた。


「・・・!」


 果物を口にしたサラがむせる。


「大丈夫かい?」


 水差しからコップに注がれた水を一気に飲み干し、


「あなたがルカリオ?」


 と素っ頓狂な声をあげる。


「さすがに、竜の姿はまずいだろと思ってね」


 ルカリオはこと無げに笑う。


「・・・ということは」


 サラは改めて、ルカリオを見た。

 城の中では赤竜だった。赤い髪も赤竜の色に似ていなくもない。

 ルカリオはやれやれとわざとらしくため息をつくと右腕を伸ばす。見る見るうちに指先の色が変わり、紅の鱗と鋭利な爪がついた竜の手になった。


「変身の魔法ですよ。これくらい簡単です」


 ルカリオは事も無げに言った。

 それだけの証拠を見せられれば、サラも納得せざるを得なかった。


「君たちのおかげで今の僕はいる。「結魂」の儀は、無事に終了したということだ。改めて礼を言おう。ありがとう」


 その言葉に、サラは胸をなでおろした。


「そういえば、ノゾーミは?」


 ルカリオはサラを見、心配ないと笑った。


「消耗が激しくて、しばらく眠っているだけだ。あれだけの魔法戦闘をして、そのあと「結魂」の儀まで行えば、消耗しない方がおかしい」


 上級魔導士との戦闘。考えてみれば無謀な戦いをしたものだ。普通に考えれば、サラたちの勝つ可能性はほとんど買う無だった。それを乗り切れたのは、望の魔法あってのことだった。


「サラ、この男は一体何者だい?」


 ルカリオの問いかけに、サラは首を横に振った。

 それはサラにも分からない。


「本人は異世界から来たと言っているのです」


 魔法の存在しない世界。そんな世界が本当にあるというのだろうか。

 望の事は信じている。彼はそれを命がけでサラに示してくれた。

 それが今はとてもうれしく。そして誇らしかった。


「異世界から来たか・・納得できる話ですね」


 サラはこのことに関しては、未だに半信半疑だ。

 しかし、そうでなければ説明できないことが多い。否、そうでなければ納得できないことの方が多いといえよう。


「この男の存在は危険です・・この世界にとって」


 ルカリオの言葉に、サラは驚いた。以前、サラも同じことを考えたことがあったからだ。

 今回の戦闘において、今更ながらその可能性を考えずにはいられない。

 上級魔導士に引けを取らない戦闘魔法。

 盗賊との戦闘を除けば、今回が初めての本格戦闘となる。

 初めてにしては、上出来だった。上出来すぎた。

 サラが出会った時とはまるでまるで別人だ。


「ノゾーミは世界の真理を知っているかもしれないのです」


 サラの言葉に、ルカリオは驚きの表情を見せた。


「まさか・・・それではまるで・・・」


 ルカリオは口を閉じる。それ以上の事は口にしてはいけない気がしたからだ。


「いいか、よく覚えておいて下さい」


 ルカリオは真摯な顔でサラの肩に手を置いた。


「これは僕の直感であって、未来予測ではありません。何の根拠もなければ、なんの確証もない、ただの戯言だと思ってください」


 その言葉に、サラは頷いて応える。


「望と「結魂」した時に、僕は感じました彼の魂の輝きを、底知れない魔法の力を」


 それは知覚できるものではなかった。魂と魂の結合。失われつつある魂を儀を以ってこの世界につなぎとめる。


「僕は直感しました・・・この男は世界を滅ぼす。とね」


 戦慄がサラの背を伝う。


「物質界、妖精界、精霊界・・・完膚なきまでに滅ぼしつくす・・・彼がどうのと言っているんじゃない。世界が彼にそうさせるんです」


 ルカリオは、静かな声でそう言った。


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