表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/70

梟の月 4日 最弱勇者と幻の城 その1

「・・・やっと着いた」


 街を出発すること四日、サラと望の二人はようやく目的地「湖の都」に到着することができた。

 途中、小さな村もなくまた街道を行く馬車などにも遭遇することがなかった。

 その代わり、二度程盗賊に出会ったが、サラと望の二人で撃退することは容易になってきた。

 盗賊のおかげで、二人のコンビネーショの確認をすることができた。望も最初はびくびくとしていたが、二度の戦闘でかなりの自信をつけてきていた。

 そのことを、サラは頼もしく思っていた。

 初めて会った時は、うさん臭さ全開の外見に早く離れたいと思っていたが、今ではその考えを少しは改めようと考えるようになっている。


 異世界から来たという話は、未だに信じられない。しかし、望が魔法を使える事は事実であったし、実際にそのおかげで盗賊を撃退できている。サラの魔法も効果を現しているが、盗賊などを相手にするとどうしても対応が遅れてしまっていた。その最たる原因が、詠唱の速度だった。

 精霊言語を操る者は総じて詠唱が遅い。それは、精霊言語を正確に発音し、また精神力を用いて精霊の力を行使するために極度の集中力を用いるからだ。

 しかし、望は違った。

 ほぼ会話レベルでの詠唱で、魔法を放つことができる。

 望は嘘か真か脳内翻訳なる、インチキ設定のおかげでほぼ思い付きだけで魔法を放つことができる(本人談)のだ。

 これははっきり言って反則技だ。

 どういう理屈で、魔法を使っているかはいまだ不明だが、ほぼ予備動作も、複雑な呪文詠唱も必要とせずに魔法を使うことができる。


 通常の戦闘において、魔法使いはあくまでも後衛の配置で戦闘が開始される。

 望の言い方をすれば、「前衛の影に隠れ、ここぞという時に強力な攻撃で敵にダメージを与える役」ということらしいが、どこでその戦術を学んだのかいまだによくわからない。

 望のいう「ゲーム」や「アニメ」や「マンガ」で学んだということだが、望の世界では、そんなものが日常的にあるということなのだろうか?

 魔法についての知識も呑み込みが早かった。

 この世界、物質世界は地・水・火・風・光・闇の六元素から成り立っている。

 その説明を聞いただけで、各元素の優位関係や相殺関係をズバリと言い当ててきたし、その話だけで、水系の魔法をあっさりと放って見せた。

 火系の魔法の応用とはいえ、あまりにもあっさりと魔法を行使してしまったため、これからいろいろと教えることをやめようかと思ったくらいだ。

 このまま色々なヒントを与えてしまっては、やがてあっさり抜かれてしまうのではないか。

 最初は、そう危惧していたサラだったが、今ではその考えも少しは変わってきている。

 何よりも、望のいう「カガク」なるモノの恩恵は、計り知れない。

 それは、精霊界のみならず、物質界の「世界の真理」に通じるものがあった。

 世界の真理とは、精霊界、妖精会、物質界において共通する真理の事で、その真理さえ解き明かすことができれば、神や悪魔さえも従えることができるとさえ言われている。

 その話をすると、望は笑って「小学生程度の知識で神様になれるんだったら苦労しない」とまた訳の分からないことを言った。

 世界の真理に通じるかどうかは、今後ゆっくりと考えていけばいい。

 サラは、目の前にある城を見てそう思った。


 二人の前には湖が広がり、その湖の中心に巨大な城があった。

 石造りの洋城。大きな城だが、人の気配というものが全くしない。

 遠目から見ても、それははっきりとわかった。


 湖畔には大きくはないが街があり、観光地としもそれなりに有名な場所であるらしい。

 しかし、城が現れ、魔物らしき姿が目撃されるようになってからは、観光客はぱったりと来なくなった。道中、馬車などに遭遇しなかったのはそういう理由からだった。

 街に立ち寄り、ギルドへと向かう。

 ギルドの受付は、ワキルという壮年の男だった。


「お前たち、あの城に行くのか?」


 書類に目を通し、ワキルはいぶかしげな眼をサラと望に向ける。


「そのつもりなのです。内容は周辺の警備及び監視ということですよね?」


 サラの言葉に、ワキルは「そうだ」と頷いた。

 話では二カ月ほど前に突如、湖の真ん中に出現し、時折城から魔物が飛び立つ様が目撃されている。

 魔物の巣窟だろうというのが、ギルドの見解だった。

 初めから、討伐を目的としない簡単なクエスト。クエストを受けた者は本国からの討伐隊が来るまでの間、周囲を警戒し、魔物が現れた場合はこれを迎え撃てばいいという内容だった。


「つまりは、この近辺で見張っていて、魔物が現れた時に連絡なり攻撃なりすればいいってことか?」


 サラの説明したクエストの内容を聞いて、望は胸をなでおろす。

 彼はてっきり、討伐が目的だと思っていた。サラがロクに説明もせずに連れ出し、その後も何の話もなかったからだ。その間はほぼ魔法の話ばかりだった。


「ここで、討伐隊が到着するまで待っていればいいんだな?」

「そうなのです。周囲を警戒しながら時間が経つのをただ待っているだけの簡単な仕事なのです」


 サラはこともなげにそう言った。


「・・・お嬢ちゃん。そいつはちょっと違うな」


 ワキルの言葉に、望はぎくりとしたように彼を見た。


「いいかい。このクエストは一見すると簡単そうだ。実際、今わかっているだけで四十組の冒険者の登録がある」


 その数字は、思っていたよりも多かった。


「その内、十件ほどがここにたどり着く前に盗賊に襲われているんだ」


 周辺の街でクエストを受領し、以来の場所でクエストを行う。そのためには当然のことながら、その場所まで移動しないといけない。

 その道中に盗賊が現れる。しかも、十件という数字は多い。報告されているだけでその数字だ。クエストの内容を考えれば、おそらくは初心者の冒険者もいただろう。途中で襲われ、この街まで辿り着けなかった者たちもいたはずだ。


「お前たちの話では、途中で三回盗賊に出会ったんだよな」


 ワキルの言葉に二人は頷いた。

 ぞくりっと、背筋が寒くなる。

 ワキルはずいと、二人に顔を近づけた。

 息が臭い。

 サラは顔をしかめた。


「つまりお前たちは・・・」


 望がごくりと唾をのみこんだ。


「それだけ運が悪いってことだ」

「・・・はい?」

「なんか含みのある言い方をしておいて、それかよ!」


 がっくりと肩を落とした。思わせぶりなことを言っておきながらこの男は、とワキルを睨みつける。


「おいおい、そんな顔するな。確かに、このクエストは簡単だと思う。初心者向けだと思うが・・」


「・・・?」


 サラが首を傾げる。


「実はこのクエスト、噂では依頼主不明のクエストなんだ」

「依頼主がいない?」


 通常のクエストは、依頼主が存在する。報酬などが発生する以上、それは当然のことといえた。

 しかし、このクエストには依頼主がいない。

 発信元は、この街だということだが、ギルドの誰も受理をした者がいない。

 しかし、報酬分とされる金貨が、大袋に入れられ、ギルドの金庫に入れられていた。

 それを冒険者に振り分けることで報酬とする旨の手紙が添えられていたということだった。

 街の有志が匿名でクエストの依頼を行ったのだろうということになり、クエストがギルドを通じて、発信されたというのだ。


「依頼主不明の謎のクエスト・・」


 サラはつぶやくようにその言葉を反芻した。

 何かひっかる。第六感が危険だと囁いている。

 しかし。


「ま、何とかなるのです」


 第六感を一蹴し、サラは誓約書にサインした。これでクエストを正式に受理したことになる。


「何もないと思うが、気をつけな。それと、たまにでいいから定期連絡をよこすように」


 ワキルの言葉に望は頷いた。


「クエストついでに、もう一つ頼まれてくれないか」


 ワキルが金貨を一枚サラに握らせた。


「サインなら今すぐ書くのです」

「いや、見習い魔女のサインなんかいるか・・・そうじゃなくって」


 ワキルは、ふんと腕を組んだ。


「他の冒険者たちに出会うことがあったら、ギルドに顔を出すように言っといてくれないか」


 ワキルの言葉にサラと望は首を傾げた。

 しかし、次の一言で二人は凍りつく。


「さっき言った四十組・・そのほとんどと連絡が取れていないんだよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ