梟の月 3日 見習い魔女、科学の力を知る その1
「ノゾーミ、私にトリックを教えるのです!」
何度目かのやり取り。
執拗に食い下がるサラに、望は溜息をもって応えた。
もう二日間もこのやり取りを繰り返している。
盗賊を追い払ってからもうそれだけの日にちが経っていた。
まだ目的地にはついていない。
途中まで馬車で向かっていたのだが、その馬車は先日の盗賊騒ぎで操縦者を失い動かす事ができなかった。
しばらくして操縦者は戻ってきたのだが、もう嫌だと泣きながら来た道を引き返して行ったのだ。
二人を置いてきぼりにして。
仕方がないので、徒歩で向かうことになったのだが・・・。
いかんせん、望の歩みは遅い。体力は子供以下。
貧弱、もやし男とサラに罵られながら進むこと二日。精も魂も尽き果てた望にサラが常に質問を浴びせかけてくる。
道中もかなりの頻度で質問された(というより、会話のほぼ全てが魔法の事だった)
「魔法を使える秘密は何なのです?」
「知らん!」
いい加減にしろと望は投げやりに言った。
「唱えたら使えたんだからしょうがないだろ!」
本当の事だった。実際に唱えたら魔法が使えた。
「魔法を使うためには、呪文を唱えるだけではダメなのです」
サラ曰く、魔法は精霊言語で精霊に魔法の行使を促すだけでなく、精神を通してイメージを精霊に伝え具体的の行使しなければならない。
見るからに想像力の乏しいこの男が、魔法を使えるということが不思議でならなかった。
「じゃあ聞くが、お前はアニメを見たことがあるか?」
サラは首を横に振る。
そうだ。具体的なイメージはアニメとゲームで培ったものだ。
それを見れば、魔法が使えると言うのですか?
ああ、そうだ。
決して嘘はついていない。
「ファンタジーRPGを四六時中やりまくって、夢にまで出てきたことあるか?」
「な、なにを言って・・」
歩き疲れ、立っているのもやっとだが、その瞳にはゲーマーとしての魂の炎が燃え盛っていた。
しどろもどろになるサラの方を望は軽く叩いた。
「ハードゲーマーの造像力をなめるなよ」
「意味はよくわかりませんが・・それって自慢になるのですか?」
「実を言うとあんまり・・・」
それだけ言うと、望はその場にへたり込んだ。
「だああ、もう疲れた!歩けん!」
仕方ないので、休憩をすることにした。
「ンゾーミ、どうすれば魔法を強くできるのですか?」
いきなりの質問に、望は目を白黒させる。
「いや、呪文を強力にすればいいんじゃないの?例えば、語尾を変えてみるとか・・ファイアだったらファイラとか、ファイガとか・・」
「ふざけないで下さい」
本気で怒られた。
望としては意外とまともなことを言ったつもりなのだが。
魔法を強くするということは、つまるところ呪文の強化ではないのか。例えば、ワンランク上の呪文を唱えるとか。そういったことではないのだろうか。
「学園では、基本的な魔法しか教えてくれません。あとは師匠に従事して、学んでいくのです」
昔の弟子入りに似ている。学園というからには魔法学園なるものがあるのだろうが、望の想像していたものとはかなり違っていた。
てっきり、白い梟を使い魔にしたり、魔法列車みたいなものを使ってその学園や魔法世界に行ったりするのではないのか。
「魔法世界なんてそんなものはありません。魔法学園は普通にあります!」
「へー、そうなんだ」
「私は、学園でもかなり優秀なのです!」
本人の言葉を信じるならば彼女は、比較的優秀な魔女見習いらしい。
とてもそうは見えないなどと決して口にはしなかった。
「オレは、どうすれば魔法が強くなるかなんて知らない。それはオレが魔法使いじゃないからだ」
サラはショックを受けたように立ち尽くす。
望は当たり前のことを言ったまでだった。決して嘘はついていない。
「でも、別の方法でなら何とかなるかもしれない」
望の言葉に、サラは目を輝かせた。
「どうするのです。どんな修行をするのです?」
「それは、理科の実験さ」
「りかのじっけん?」
またしても、サラの知らない単語だった。