第一回 うるわしきうた
一七九二(寛政四)年一月。海岸の浜辺を、歩いている女性がいた。ただ海の向こうの水平線を眺め、ゆっくりと歩き続けていた。その女性の名は、「茂姫」で、十一代将軍の御台所(正室)であった。茂姫は青空を見つめていると、同伴していた何人かの女中のうち、一人がこう言った。
「御台様、そろそろお戻りになられた方が。」
そして、別の女中も茂姫に言った。
「今日は、公方様も宴に御出でになられます故。」
すると茂姫は振返り、女中たちを見ると頷き、籠の方へ歩いて行った。
茂姫は籠に乗ると、女中が戸を閉め、ゆっくりと上に上がった。茂姫は、中で名残惜しそうに外を眺めている。そして、またゆっくりと、籠は動き出したのだった。
江戸城大奥に籠が到着すると、一人の女性によって茂姫の入った籠の扉が開けられた。茂姫は顔を上げ、その女性を見た。その女性は、大奥御年寄の大崎であった。大崎は茂姫の顔を見て、頭を下げた。
その後、茂姫は大崎達を従えて廊下を歩いていた。茂姫は、
「して、上様はいつお見えになるのじゃ?」
と聞くと、大崎は答えた。
「はい。夕刻までには。」
それを聞いて茂姫は、
「そうか。では、それまで待つとしよう。」
と言いながら、歩いて行く。大崎は一度立ち止って、承知したように茂姫に頭を下げ、そしてまた姫のあとに続いていった。
暫くしてから、茂姫は城の縁側に腰かけて待っていると、
「御台!」
と言う声がするので、茂姫は振り向くと廊下に男が立っている。これが十一代将軍・徳川家斉である。茂姫はそれを見て嬉しそうに微笑み、立ち上がって家斉の方へ向かっていった。
(これは、島津から将軍家へと継いだ一人の娘の物語です。苦難を乗り越え、悲しみに負けず、まっすぐに歩き続けた茂姫の人生が、今 始まろうとしておりました。)
第一回 うるわしきうた
一七七二(明和九)年二月、江戸・薩摩藩邸。
(時は二〇年ほど遡ります。ここは江戸にある薩摩藩邸。)
どんより曇空の下、屋敷が建っている。その一室に、藩主とその妻達が集まっていた。薩摩藩主・島津重豪の周りには、正室や側室がいた。正室(継室)である綾姫が、
「殿、登城の日取りは未だ決まらぬのですか。」
と言うと重豪が、
「今、話し合っておる。急かすでない。」
そう言うと一人の側室が、心配そうに言うのだった。
「また、江戸城ですか?」
その側室は、お登勢といった。すると綾姫が、
「そのようなこと、そちには関係なかろう。」
と言うので、お登勢は下を向いた。すると重豪は上を見つめて、
「仕方ない。公坊様のお達しであるでのぅ。母上のことも、気にかけてはおるのじゃが・・・。」
そう言うと立ち上がり、部屋を後にした。お登勢をはじめとして他の側室達も、それを心配そうに見つめていたのであった。
その後、重豪は薄暗い部屋で老婆の看病をしていた。
「母上、大事ありませぬか?」
重豪が声をかけると、老婆はこう答えた。
「すまぬな、心配ばかりかけて。」
「とんでもございませぬ。」
重豪は、すぐさまそう答えた。その老婆は重豪の義理の祖母・浄岸院である。浄岸院は、
「私は・・・、ずっと徳川家に憧れておっての。」
そう話し始めると、重豪もそれを黙って見つめていた。部屋の前をお登勢が通ると、話し声が聞こえるので静かに部屋へ耳を傾けた。それに気づかず重豪は浄岸院に、
「しかしながら母上。母上は、誠におじ上のことを好いておいでだったでしょうに。それでも、徳川に嫁ぎたかったと?」
そう聞くと、浄岸院は言った。
「わからぬ。されど、私は思うでな。もしも私がここにいなければ、そなた達にあのような思いはさせなかった。」
「何を申されます。母上がいなければ、島津はお取り潰しになっていたかもわかりませぬ。」
「戯けな。そのようなことはあるまい。この先もな。」
浄岸院が言うのを聞いて重豪も、安堵した顔つきになっていた。そんな話を聞いていたお登勢も、そのまま廊下を歩いていった。
その後、お登勢は廊下に立ち止っていると、向こうから重豪が歩いて来た。重豪はお登勢のところに来ると、
「如何した?」
と聞くのでお登勢は慌てたように、
「いえ。」
そう言い、首を横に振った。重豪がそのまま歩いて行こうとすると、お登勢は急に重豪を呼び止めた。
「あの!」
重豪が振り返り、
「何じゃ。」
と問うと、お登勢は躊躇いながらもこう言い出した。
「浄岸院様のことで・・・。」
「母上がどうした?」
重豪に聞かれ、お登勢は口籠った。そして、
「ご病状の方は・・・?」
と問い返すと、重豪は言った。
「心配いらぬ。今のところは・・・。」
重豪はそう言い残すと、向こうへ去って行ってしまった。お登勢も、それを切な気に見つめていた。
浄岸院(私が病床に伏していた時、重豪殿は将軍家の公坊様に呼ばれておりました。)
重豪は江戸城で将軍の前に伏していると、当時の将軍・徳川家治が、
「面を上げよ。」
と言うので、重豪はゆっくりと顔を上げた。家治が、
「今日呼んだは、そなたに頼みたい事がある故じゃ。」
そう言うので重豪は、
「何でございましょう。」
と聞くと、家治がこう言うのだった。
「実は、儂の跡取りが決まっての。」
「跡取り、で御座いますか?」
「そうじゃ。今から、その嫁についても決めておくべきと思うてな。」
「嫁・・・。」
重豪が呟くと、家治は続けた。
「島津家の娘を、この徳川家に迎え入れたい。」
それを聞いて重豪は暫く黙り、顔を上げてこう言うのだった。
「もう暫く、お時間をいただけないでしょうか。必ずや、娘を将軍家の嫁として、育てて参ります。」
すると家治は、
「わかった。では、期待しておるぞ。」
と言うので重豪は、
「ははっ!」
そう言い、頭を深く下げるのだった。
そして薩摩藩邸では、部屋の縁側では、お登勢が花を活けていた。すると、
「お登勢。」
と声がかかり、お登勢は振り返った。すると、何とそこには浄岸院がいたのだ。
「浄岸院様!」
お登勢は手を止め、驚いたように声をあげた。浄岸院はお登勢の横に座り、
「そなた、まだ子は授かっておらぬかったな。」
と聞くのでお登勢は、
「はい。」
と答えた。浄岸院は、続けてこう言うのだった。
「少し厚かましいかもしれぬが、聞いてはくれまいか?」
「そのような・・・。」
お登勢もそう言って、浄岸院を見つめた。そして浄岸院は、話し始めた。
「もしそなたに子ができれば、もしも娘が生まれたら、その子は徳川に縁のある家に嫁がせてやって欲しいのじゃ。」
「徳川に、縁のある?」
お登勢が聞くと浄岸院は、
「あぁ、そうじゃ。頼む。」
そう言うのでお登勢は暫く黙って考え、浄岸院を見て答えた。
「わかりました。浄岸院様のお望みとあらば。」
するとお登勢の言葉を聞いた浄岸院は安心したように、
「そうか、良かった・・・。これで私の夢がかなっ・・・。」
そう言いかけると、その場に倒れ込んだ。それを見てお登勢は驚き、
「浄岸院様!!如何なさいました!?」
と叫ぶと、周りに女中やお登勢と同じ側室達が飛んで来たのだった。
ある日、江戸の別の屋敷に重豪はいた。重豪が部屋で文を読み、
「なぬ?」
と呟くと、傍らの綾姫が怪訝そうに、
「如何なさいました?」
と聞くと、重豪が顔を上げてこう言うのだった。
「母上の具合が・・・。すぐに帰らねばならぬ。」
一七七二(安永元)年一二月五日、夕刻に藩邸に戻った重豪と綾姫は、縁側の廊下を急いで歩いて、浄岸院のいる部屋へ向かった。部屋に着くと、浄岸院は寝かされていた。重豪がしゃがんで病床に伏している浄岸院の手を取ると、
「母上。如何にございましょう、お加減の方は。」
そう聞くと浄岸院はゆっくりと目を開け、
「おぉ・・・、帰ったか。」
そう呟くようにして言った。
「はい、母上。」
「そなたの、まことの母親でない私を、そなたは今まで受入れなければならなかったのじゃな。すまぬかった。」
浄岸院はそう言うと重豪が取り消すように、
「違います。私は、貴方をまことの母上として今まで見ておりました。これからも、その思いは変わらぬでしょう。」
そう言うと、
「そうか・・・。それは良かった・・・。私は、江戸に向かう時も、そなたが心配でならなかった。されど、今思えば、そなたほどしっかりしておれば、何も心配いらぬかった。私も、安心して旅立つことができる・・・。それから・・・。」
浄岸院はそう言うと手を伸ばし、重豪の手を強く握ると、その力は次第に弱くなっていった。そして、浄岸院は目を閉じた。
「母上・・・、母上・・・!!」
重豪は、そう呼び続けた。それを後ろから見ていた女達も、泣かずにはいられなかった。その中でお登勢も、裾で涙を拭いていた。
浄岸院(私が世を去って、次の年が明けておりました。重豪殿は、何年かぶりに薩摩に帰っておりました。)
一七七三(安永二)年一月。重豪とお登勢は、縁側から深々と降る雪を眺めていた。重豪は何気に、
「母上は、私に何を伝えたかったのであろう。」
そう言うと、お登勢は躊躇ったように、
「もしや、あの事では・・・。」
そう言うと重豪は振り返り、お登勢にこう聞いた。
「あの事じゃと?」
するとお登勢は、答えた。
「はい。浄岸院様は、私にこう申されました。もしも娘御を授かれば、徳川家に縁のある家柄に嫁がせて欲しいと。」
それを聞いた重豪は、
「何と・・・。」
と呟いた時、お登勢が急に、
「うっ。」
そう声をあげてしゃがみ込むと重豪が支え、
「大事ないか?」
と聞くとお登勢も、
「はい・・・。」
そう言って答えるのだった。
「三月・・・。」
布団に座っていたお登勢が聞くと医師が、
「おめでとうございます。」
と言うので喜びを隠しきれず、重豪に笑いかけると重豪も、お登勢を見て嬉しそうに頷くのであった。
その後、お登勢が大きくなったお腹を擦っていると、その隣で重豪が、こう言った。
「前にそなた言うておったな。」
「はい?」
お登勢はそう言って重豪を見ると、重豪は続けた。
「娘が授かれば、徳川家縁の家柄に嫁がせたいと母上に言われたと。」
「はい。」
お登勢が聞くと、重豪は言った。
「心当りがあるのじゃ。」
「お心当たりが、お有りになるのですか?」
お登勢が驚いた表情で聞くと重豪は、
「あぁ。」
と言い、家治に言われたことを話した。
『島津家の娘を、この徳川家に迎え入れたい。』
「それは・・・、将軍家の話にございましょうか。」
お登勢はそれを聞いて、そう言うと重豪も言った。
「あぁ、そうじゃ。将軍の妻として育てれば、きっと良き娘に育つであろう。」
しかし、お登勢はこう言うのだった。
「されど、私には荷が重すぎまする。お腹にいる子が、娘かどうかも分かりませぬのに・・・。」
「そうか・・・。」
重豪は言うと、お登勢は手をついて重豪にこう言った。
「恐れながら、申し上げます。」
「何じゃ。」
重豪も、姿勢を正してそう言った。そしてお登勢は、
「その話、お断りして頂きたいのです。」
そう言うので、重豪が聞いた。
「何故じゃ。」
すると、お登勢はこう言うのだった。
「将軍の正室として皆に崇められるのは、私とて嬉しゅうございます。されど、それがかえってその子の苦痛になるのではないかと、心配になるのです。何卒、お願い申し上げます。」
そう言うと、お登勢は頭を下げた。
「分かった。断わって参ろう。」
「まことにございますか?」
お登勢は顔を上げると、重豪を見た。重豪は、穏やかな顔付きでお登勢を見ている。お登勢もそれを見ると、安心した表情になっていた。
その後、江戸城に出向いた重豪は、家治と対面していた。家治が、
「そなた、もうすぐ子が授かるそうじゃな?」
と聞くと重豪が、
「はっ。」
そう言うと、家治が言った。
「どうじゃ?わしの言うたこと、覚えておるであろう。」
「覚えております。」
重豪は答えた。その様子を、部屋のわきで老中の田沼意次も見ていた。家治が、
「島津家にとって、これほどの誉れはないであろう。家基も、良い影響を与えるのではないか?」
そう言うと、田沼が補足した。
「家基様は、家治様の子の中で一番のしっかり者にございますからなぁ。」
すると重豪は家治に頭を下げて、
「申し訳ございません!」
と言った。家治が、
「如何した?」
そう聞くと、重豪がこう話した。
「娘が生まれても、徳川家には嫁がせられぬのです。」
すると田沼が膝立ちになり、
「貴様、公方様からの願いを断わるのか!」
そう言うと家治は、
「待て!」
と田沼を静め、重豪を見てこう言った。
「本当に良いのじゃな?」
「・・・はい。」
重豪も答えた。そして家治は、
「分かった。ならば仕方あるまい。」
と言って俯くと重豪も、
「申し訳、ございませぬ・・・。」
そう言って、もう一度深々と頭を下げたのだった。
浄岸院(そして・・・。)
一七七三(安永二)年六月一八日、薩摩の鶴丸城での一室では、布団の上でお登勢が赤ん坊を抱いていた。
浄岸院(薩摩の鶴丸城で、新たに赤子が誕生したのでございます。)
お登勢の横には、重豪が寄り添っていた。二人は赤子を見ると互いに、微笑みあっていたのであった。
浄岸院(そして、三年の時が流れ・・・。)
「母上!」
元気に女の子が、お登勢の胸に飛び込んだ。すると重豪が出て来て、
「いつも賑やかじゃのぅ。於篤は。」
そう言うのでお登勢はその子を見つめて、
「そうですね。それが、於篤の良いところなのかも知れませんね。」
と言うのだった。
浄岸院(その娘は、於篤【おとく】と名付けられておりました。)
お登勢が於篤を抱いて楽しそうにしているのを見て、重豪は真面目な顔になった。
その後、城の一室でお登勢にあることを話した。
「縁談?」
お登勢は息を呑み、真っ青になって聞いた。すると重豪は、
「あぁ、そうじゃ。」
と言うので、お登勢は相手を尋ねた。
「お相手は、誰なのですか?」
すると重豪は、こう答えるのだった。
「徳川御三卿の一つ、一橋家のご当主、一橋治済様のご長男、豊千代様じゃ。」
それを聞いたお登勢は驚いたように、
「それは・・・。」
と言葉を詰まらせると、重豪が言った。
「あぁ。母上様の、遺言を思うてじゃ。」
『もしそなたに子ができれば、もしも娘が生まれたら、その子は徳川に縁のある家に嫁がせてやって欲しいのじゃ。』
「徳川御三卿ともあらば、徳川将軍家に直接繋がりがあろう。」
するとお登勢が思い悩んだ表情をし、
「されど・・・、まだ四つにございます故・・・。」
そう言うので、重豪がこう言った。
「判っておる。されど、あちらはもう既に準備を始めておられるらしい。」
「お返事は?」
「これからじゃ。されどあちらの動きから見れば、断わるわけにはいかぬ。」
「はい・・・。」
お登勢は、少し残念そうな顔をした。
浄岸院(更に二年の月日が流れた安永七年のこと。お城では、出立の準備が着々と進められておりました。)
その日、重豪が部屋にお登勢と於篤を呼んでいた。重豪が於篤を正面に座らせ、こう言っていた。
「間もなく、出立である。そなたは、名門一橋家のご当主とお成り遊ばすであろうお方の妻となる。心して、参るよう。」
すると於篤が父の重豪を見つめて、
「それは、凄いお方なのですか?」
と聞くと重豪は微笑み、
「あぁ、そうじゃ。」
そう言うのを横で、お登勢も見ていた。於篤は、その後も父を見つめ続けていた。
その後、於篤は縁側に座っていた。するとお登勢は、静かにそこへやって来た。於篤の隣に座るとお登勢が、
「於篤。」
と呼びかけた。すると於篤は、こう言った。
「父上は、何故私を嫁に行かせるのですか?私でなくては、ならないからですか?」
「それは・・・。」
お登勢は、返事に戸惑ってしまった。
「父上は、私を大事に思っておられぬのでしょうか・・・。」
於篤が言うのを聞いてお登勢は咄嗟に、
「それは違います。お父上は、そなたが可愛くて仕方ないのです。それ故、そなたを良い家柄に嫁がせたいだけなのです。」
そう言うので於篤は、
「でも、嫁に行ったら、父上とも、母上とも、別れてしまうのですか?」
と聞くのを聞き、お登勢は黙ってしまった。暫く互いに黙り合っていると、お登勢が思い付いたように話を変え、こう切り出した。
「於篤。そなたは、外の景色を見たいと思いませんか?」
「外ですか?」
「はい。今度、父上の留守を見計らって、行きましょう。どうしても、そなたに見せたいものがあるのです。」
於篤は、そう言うお登勢を下からじっと見つめていたのだった。
ある日のこと、お登勢は於篤と数人の侍女を連れて岸辺に出て来た。そこから、綺麗な島が見える。それに見とれる於篤に、お登勢はこう語った。
「於篤。あれが、桜島です。」
「桜島・・・?」
「はい。桜島は、一日に七色もの色に染まります。そして桜島はいつも、薩摩のことを見守ってくれているのです。」
そしてお登勢はしゃがみ込み、於篤の両肩を持つと、
「いつか、あの島をそなたと見たいと思っておりました。私は、あの島のようにいつまでもそなたを見守っております。」
そう言うので於篤は、
「母上・・・。」
と、呟いた。お登勢は於篤の向きを変え、手を握るとこう言った。
「そなたは一人で生きているのではありません。たとえ離れても、私はそなたを守り続けます。だから、もう怖いものなどありませんよ。」
それを聞いて於篤は元気に、
「はい!」
と返事をするので、お登勢も涙を浮べていた。
その夜、城に帰ってお登勢は重豪に於篤と外へ出たことを打ち明けた。
「桜島を見に?」
重豪が聞くのでお登勢が、
「申し訳ございません。」
と言い、頭を下げた。すると重豪が書を読みながら、
「それで、於篤はどうであった?」
そう聞くのでお登勢が、
「目を輝かせておりました。」
と答えると、重豪が顔を上げると、
「そうか・・・。それは良かった。」
そう言い、笑みを浮べた。すると重豪がお登勢を見つめ、
「彼奴は、わしよりもそなたと一緒にいたいらしい。どうじゃ?彼奴のためにも、そなたが江戸まで付いて行ってやってくれぬか?」
そう言うのでお登勢が、
「私が・・・。」
と言うと重豪が、
「頼む。」
そう言うのでお登勢は微笑み、嬉しそうに、
「はい。」
と、返事をすると重豪も笑って頷いていた。
その後、於篤は眠れずに廊下へ出た。暫く廊下を歩くと、琵琶の音色と細い歌声が聞こえてくる。気になって行ってみると、廊下でお登勢が琵琶を弾きながら歌を歌っている。於篤はその夜、暫くその様子を遠くから眺めていたのだった。
翌朝、重豪がお登勢と於篤を部屋に呼び、於篤にこう言った。
「出立の日が来た。そなたは江戸で、学業に励むとよい。それから、呉々もあちらに迷惑はかけぬよう。わしも、日取りが決まればすぐに参る。」
それを聞いて於篤は、
「はい。」
と言い、頭を下げた。重豪も、ゆっくりと頷いた。
その後、見送りに出た重豪はお登勢に、
「後のことは、宜しく頼む。」
そう言うとお登勢は、
「はい。」
と答えると、於篤の手を引いて籠のところまで行き、籠に於篤を乗せると、自分も籠に乗った。重豪も、それをしっかりと見ていた。
間もなく、二人を乗せた籠がゆっくりと持ち上がった。そして城の門が大きく開かれ、長い行列が出て来た。於篤は、籠の中で揺られていた。同様に、お登勢も籠の中で揺られていたのだった。行列は橋を渡り、やがて城が段々と遠ざかっていった。
浄岸院(於篤を乗せた行列は、三〇日ほどの長旅をすることになるのです。)
一七七八(安永七)年八月、一行は、江戸・一橋家の門をくぐっていた。籠が地面につくと、ゆっくりと扉が開けられた。於篤は外に出て顔を上げると、侍女達が縁側に並び、頭を下げている。そしてお登勢に手を引かれて、屋敷に上がった。
襖が開くと、そこには様々な嫁入りの道具が並べてあった。於篤は、それらを無表情で見つめていた。
そして於篤は座らされ、部屋に何人かの女中が入って来た。その中の一人は、座るとこう言った。
「これより、姫様のお世話役を仰せつかった、里山と申し上げます。何卒、宜しゅうお願い仕ります。」
そう言うと、里山とその後ろにいた侍女達は頭を下げた。於篤の横に座っていたお登勢も、それに乗じて礼をした。しかし於篤はやはり無表情のまま、皆を見つめていた。すると里山は、
「時に、姫様は薩摩のご出身とお聞きします。されど、ここでの作法、仕来りに従ってもらいます故、そちらの手解きをさせて頂きますので、どうぞご理解下さい。それから、聞き及びと存じまするが、学業にも励んで頂きます。」
そう言うので、於篤は小さく頷いた。そして里山は続けて、
「それから姫様、近いうちに、こちらのご当主の長男、豊千代様にお会いになって頂きます。」
そう言うので聞いていたお登勢が思わず、
「えっ・・・。」
と、小声を漏した。里山は、
「そちらも、心してお臨み下さいませ。」
そう言うと頭を下げ、立ち上がるとまた侍女達を連れて部屋を出て行った。お登勢がそれを見送ると、於篤を不安そうに見つめた。案の定、於篤は俯いたまま表情を変えずに黙っていたのだった。
その後、於篤は縁側に腰かけて空を見上げていた。そこへお登勢が来て、
「於篤?」
と声をかけると、於篤は黙っていた。そしてお登勢は寄り添うようにして、於篤の側に座って互いに黙り合っていた。
浄岸院(そして、未来の夫との体面が始まったのでございます。)
於篤はお登勢や数人の侍女と共に部屋に入り、下座に座った。すると同じく下座に座っていた豊千代の実母のお富が、
「若君は、良き心をお持ちになっております。姫様も、若君のようにご成長遊ばされるよう、日頃の学問でお心を鍛えて下さいませ。」
そう言うのを聞いても、於篤は俯いたままであった。すると、
「若様、お成りにございます!」
と声がかかり、皆一斉に頭を下げた。於篤もそれを見て、慌てて頭を下げた。すると於篤と同じ年頃の男子が、男性に連れられて入って来た。男子は上座に座ると、皆にこう言った。
「面を上げられよ。」
それを聞いて於篤が、恐る恐る顔を上げた。すると豊千代が前に座っていた。
浄岸院(これが、於篤と豊千代様との運命の出会いでございました。)
豊千代は於篤を見て、
「そなたが島津本家のの姫か。年は、わしと同じと聞く。江戸はどうじゃ?」
そう言うのを聞き、於篤は黙っているとお登勢が、
「於篤。」
と、注意を促した。しかし於篤は一言も喋らずにいると、お富がこう言った。
「姫は、緊張されていおいでなのでしょう。」
するとお登勢に耳打ちし、
「どうなっておるのじゃ、そなたの娘は。」
そう言った。お登勢も、
「申し訳ございません。」
と返した。豊千代は於篤に、
「左様に硬くなることはない。そなたは、どのような書が好きか?」
そう聞くと於篤は耐えきれず、立ち上がって部屋を勝手に飛び出して行ってしまった。すると部屋の中は騒然とし、侍女や女中達は互いにささやき合った。するとお富は驚いたような表情で、
「何と無礼な姫じゃ。若君の目の前で。」
そう言うのでお登勢が、
「申し訳ございません!」
と言って頭を下げると、於篤を追っていった。
しかし、於篤は部屋だけでなく屋敷まで飛び出して行った。お登勢が、
「於篤!」
と叫んで探し回っていると、於篤が門を飛び出す姿が目に入った。お登勢が驚いて、
「於篤!」
と言って外に飛び出した時には、於篤の姿は何処にもなかった。
於篤は、知らぬ街を彷徨っていた。於篤が街のはずれまで来て、どうしようか悩んでいると、遠くの川辺で三人の男子が一人の男子を川に沈めているのが見えた。それを見た於篤が丘を駆け下り、川に沈めている三人の間に割り込み、沈められていた男子を引き上げた。すると三人のうちの一人が、
「おい、何すんだ。」
と言うので於篤は、三人を次々に川へ突き落とした。その間に、於篤は男子の手を引いて安全な所まで連れて行った。於篤が、
「大丈夫か?」
と尋ねると、男子は小さく頷いた。
その後、二人は茶屋の椅子に腰かけていた。於篤が横に座っていた男子に、
「何処の子じゃ?どうしてあのようなことをされていたのじゃ?」
そう問いかけるも、男子は何も言わなかった。すると於篤は、
「私は、薩摩の姫じゃ。されど、私は江戸はあまり好きではない。生まれたお城に帰りたいのじゃ。」
そう言うのを聞いて、男子は驚いたように於篤を見つめていた。そして於篤は続けて、こう言った。
「薩摩には、桜島という島があっての、江戸に来る前に母上が見せてくれたのじゃ。私は、薩摩を離れとうなかった。」
男子は於篤の話を聞き、小さな声で、
「はい・・・。」
そう言っていたのだった。
夕方、於篤は屋敷まで返って来ると、門の前にお登勢が立っていた。お登勢は、
「於篤!」
と言い、於篤に駆け寄ると於篤を抱きしめた。お登勢が於篤を抱きしめながら泣いていると、於篤も、
「母上、御免なさい。」
と言っていた。お登勢は、
「於篤・・・。」
そう言いながら、泣き続けていたのだった。
その夜、寝床で於篤とお登勢が話をしていた。お登勢が、
「於篤。そなたは、いつか徳川一橋家の妻となるのですよ。二度とあのような粗相があってはなりませぬ。」
と言うので於篤は、
「はい・・・。」
そう言っていた。するとお登勢は表情を緩めて、
「でも・・・、無事で良かった・・・。」
と言い、お登勢は於篤の手を握った。
「母上・・・。」
於篤はお登勢を見つめると、お登勢は布団をめくって於篤を中に入れ、
「今夜は、ゆっくりとお休みなされ。」
と言うと、於篤は頷いて横になった。そして目を閉じると、お登勢は愛おしそうにそれを見つめていた。
その後、お登勢は縁側に座り、満月を眺めながらまたあの歌を口ずさんでいた。於篤もその歌声を、布団の中で目を開けて聞いていたのであった。
浄岸院(間もなくして、島津重豪殿が江戸に到着されたのです。)
「父上が?」
於篤は喜び、お登勢も笑顔で頷き、
「はい。」
と答えると、於篤は廊下を走って行った。
重豪がある男と部屋にいると、
「父上!」
と言って、於篤が部屋に駆け込んで来た。
「おぉ、於篤。聞いておったか。」
重豪がそう言うと、於篤を抱きかかえた。するとそれを見ていた男が、
「おぉ、それがそなたの娘御か?」
と言った。その男は、一橋家の当主・一橋治済であった。重豪は於篤を抱えながら、
「はい。どうですか、こちらでの様子は。」
そう言って聞くと治済が、
「とても元気が良いと、妻から聞いております。」
と言うので重豪は、
「そうですか。」
そう言い、嬉しそうに於篤を見た。於篤も笑顔で重豪を見ていた。
その後、重豪は別室でお登勢と話をしていた。
「そうか・・・、そのようなことが。」
重豪はお登勢の話を聞き、少し残念そうに呟いた。お登勢は、
「でも、あの子にはちゃんと言って聞かせました。ですから、もう大丈夫かと思います。」
そう言うので重豪は心配そうに、
「うむ・・・。明日、兄弟達と対面させようと思うておったがの。そのようなことがあっては・・・。」
と言うのでお登勢は、
「それなら、心配いりませぬ。於篤も、殿が来るのを心待ちにしておりました故。」
そう言うのを聞いて重豪も、
「そうか。それなら良いであろう。」
と言い、お登勢も微笑んでいた。
浄岸院(翌日、於篤は、薩摩藩邸にて兄弟や他の側室達と対面したのでございます。)
部屋には子供と数人の側室、そして侍女達がいた。重豪が、於篤の二人の兄弟を紹介した。重豪は一人の娘を指して、
「これは、明子(のちの雅姫)である。先日、島津家の養女としてもらい受けた。」
そう言うと、その娘は於篤を見て静かにお辞儀をした。重豪は続けてすぐ隣にいた男子を指して、
「そしてこれが、虎寿丸(のちの島津斉宣)。」
そう言うと、虎寿丸は姉の於篤を見た。於篤はそれを見て、驚いた表情をした。それは、以前、於篤が一橋家から逃げ出した時、助けた男子であったのだ。於篤は虎寿丸に、
「そなた、あの時の・・・。」
と言いかけると、虎寿丸は立ち上がって部屋を出て行った。於篤も、それを追いかけて行った。それを見てお登勢が、
「於篤!」
と言って後に続こうとすると、重豪にこう呼び止められた。
「良い。そっとしといてやれ。」
お登勢は、心配そうに於篤が走って行った方を見ていた。
その頃、於篤は虎寿丸の手を掴むと、
「何故逃げる。」
そう言うので虎寿丸は振り向くと、暫く黙った後こう言った。
「あの、この前は、有り難うございました。」
するとそれを聞いて於篤が、
「私達は、姉弟じゃ。そのように、硬くなるでない。」
と言うので虎寿丸は、
「はい、姉上!」
そう元気そうに言うと、於篤も笑っていた。
浄岸院(これが、於篤が弟と初めて交わした会話でした。)
そして一方、一橋家ではお富がうつ伏せになっている治済の背中に艾を置き、火を点けて扇子で扇いでいた。治済が、
「あぁ~、まるで生き返るようじゃ。」
と言っているとお富が呆れたように、
「困りますよ、一橋家のご当主がそのようでは。」
そう言うと、治済がこう言った。
「あぁ~。良いではないか。時に、姫は如何した?」
するとお富も手を止めると、こう言うのだった。
「今日は、薩摩藩邸で身内と御対面とか。されど、あのような無礼千万の小娘、若君には相応しゅうないと思います。何と言うか・・・、その、もしもこの先、若様が将軍家にでも・・・。」
そう言いかけると急に治済が、
「アチーーーーー!!」
と叫んで起き上がり、わめき出した。それを見てお富が、
「何なのですか、床が焦げるではありませんか。」
そう言うと治済はお富を睨むと、
「その前にな、わしが焦げるではないか。」
と言った。
浄岸院(その年の暮れ、重豪殿は再び江戸城へと登城したのでございます。)
重豪は将軍の前に平伏していると家治が、
「来るしゅうない、面を上げよ。」
と言うので、重豪は顔を上げた。家治は重豪を見て、
「今日そなたに来てもろうたは、会わせたい者がおる故じゃ。」
そう言うのを聞いて重豪は、
「はい?」
と、思わず聞き返してしまった。家治は横を向き、
「入れ。」
と言うと襖が開き、青年がゆっくりと頭を上げた。その青年が部屋に入ってくるなり、家治の近くに座った。重豪が呆気にとられていると、家治が前を向いてこう言った。
「この者が、わしの唯一の世継ぎ、家基である。」
すると徳川家基は、静かに頭を下げた。
「このお方が、前にお話しされていた・・・。」
重豪がそう言いかけると家治が、
「そうじゃ。驚いたであろう。近頃、政にもひどく食いついてくるようになっての。嬉しい限りじゃ。」
と言うので家基が、
「父上の方が、先に私に政に興味を持てと申されたのですよ。」
そう言うのを聞いて家治が笑いながら、
「おぉ、そうであったな。」
と言っていた。重豪も微笑みながら、
「時に家基様は、お父上の後を継いだらどのようなことをされたいと思うておいでにございますか?」
と聞くと家基は真面目な顔をして、
「異国を見てまわりとうございます。」
そう言うので家治が、
「何を言うか。いかんぞ、天下の将軍が、異国などと言うたら。」
と言うので家基は気がついたように、
「あ、はい。」
と言い、笑って頷いていた。すると家治が話を変え、
「時に、そなたの娘はどうなっておる?」
そう言うので不意な質問に重豪は少しだけ戸惑い、
「あ、いや・・・。於篤は・・・。」
そう言って、話し始めた。
その頃、於篤は薩摩藩邸の縁側に腰かけていた。すると虎寿丸が来て、
「姉上、綺麗な花を見つけました!」
と言って、花を差し出した。するとそれを見た於篤は、
「綺麗じゃ。何処で見つけたのじゃ?」
そう聞くと虎寿丸は向こうを指差して、
「彼処に生えておりました。」
そう言い、於篤の手を握ると、連れて行った。その様子を廊下からお登勢も見ていた。隣にいた虎寿丸の生みの母・お千万も見ていて、お千万が、
「仲が良うございますね。」
と言うとお登勢も、
「はい。やはり身内の方が、心を開きやすいのかも知れませんね。」
そう言って微笑んでいた。於篤は花を弟の虎寿丸と分け合って、とても楽しそうにしていた。於篤は、
「そなたは、いつもそのようなことをしておるのか?」
そう虎寿丸に聞くと虎寿丸は、
「はい・・・。」
と自信がなさそうに言った。
「剣は持ったことはあるか?」
於篤が聞くと虎寿丸は、
「一度だけ・・・。」
そう言うのを聞いて於篤が不思議そうに、
「何故、やめてしまったのじゃ?」
と聞くと、虎寿丸はこう答えた。
「己は、剣が嫌いにございます。戦っても、すぐに一本取られてしまいます。」
それを聞いて於篤が暫く考え、こう言い出した。
「ならば、そなたの相手をしよう。」
「姉上、剣を持ったことがあるのですか?」
虎寿丸は驚いて聞くと於篤は、
「ないが、父上の稽古を何度か見たことがある。」
と言い、竹刀を取りに行ってしまった。
その後、お登勢とお千万が心配そうに見守る中、二人は庭に出て、頭に白い鉢巻を巻いて稽古をしていた。虎寿丸はすぐに倒れるので於篤は、
「駄目じゃ、そのようなことでは。虎寿丸。」
と言って虎寿丸を起き上がらそうとすると、
「何をされておるのですか。」
と言う声が聞こえた。於篤は、前を見ると立っていたお富がこう言うのだった。
「近頃、姫様が薩摩藩邸に出入りしていると聞き、気になって来てみたら、弟を虐めているのですか?」
すると於篤は怒ったように、
「虐めているのではありませぬ!」
と言うとお富が、こう言うのだった。
「そなたは、よもや徳川の姫となるのですよ?そのようでは困ります。しかも何なのです?剣なんかお持ちになって、野蛮な。そのような姿、豊千代様が見たらきっと悲しまれます。そなたは、学問さえやっておればそれでよい。」
お富の口調が、少しずつ強くなった。
「そうと分かれば、早く来なされ!」
お富のそう言い捨てると於篤の後ろの襟を掴み、引きずった。するとお登勢が飛んで来て、
「何をなさるのですか!」
と言うとお富は、お登勢を振り払った。
「うるさい!それもこれも、全てこのような娘に育てたそなたの責任であろう!」
そう言ってお富は於篤の襟を掴んだまま、屋敷を出た。
一橋家に戻って来ると、於篤が痛そうに、
「離して下さいませ!」
と叫んでいるのも気にせず、部屋の扉を開けると、お富は廊下から於篤を投げ入れた。そしてお富は、
「ここが、そなたのまことの家にございます。ここでそなたは今の豊千代様の足となり、一家をお守りする手伝いをすることになります。そのこと、呉々もお忘れなきよう。」
そう言うので、於篤はお富を睨むように見た。お富はそれを見ると、
「何じゃ、その目は。私は、当然のことを話しているだけです。さっきも申したように、姫が今の調子では非常に困ります。そのままでは、一橋家の名に深い傷がつきます。そなたのせいで、一橋を汚すわけには参らぬのです。」
と言うので於篤はお富を見続けているとお富がそれを見て、
「まだお分かりでないようですね。それから、約束して下さいませ。今後一切、この屋敷から出てはなりませぬ。それと、そなたが慕うのは弟ではなく豊千代様だけであるということを・・・、忘れるでないぞ。」
そう言い、お富は一歩下がって背を向けると最後に、
「二つのことが守られぬ場合、今すぐにでも故郷の薩摩へと帰って頂く他ないのぉ。ほんに、とんでもない姫君じゃ。見たことも聞いたこともない、まったく一体どんな教育を受けて来たことやら。」
そう言い残すと、襖を強く閉め、向こうへ行ってしまった。於篤は、薄暗い部屋に残され、涙を堪えていた。
夕方、於篤は縁側に出て泣いていると、お登勢が戻って来て於篤の隣に座ると、お登勢は於篤を抱き寄せた。於篤は、お登勢に寄り添って泣き続けた。お登勢もそれを必死に受け止め、共に泣いていたのだった。
次回予告
お富「どうやら嫁ぐことをまだ分かっておらぬようじゃな。」
島津重豪「豊千代様を、次の将軍にですと?」
田沼意次「何故、このようなことに・・・。」
於篤「私は、嫁にはなりませぬ!」
お登勢「於篤!」
於篤「私は・・・、何ゆえ女子に生まれて来たのですか?」
豊千代「女子だからじゃ。」
於篤「何故、この世界には!男と女がいるのですか!」
お登勢「父上様に言われました。私が、そなたをお守りします。」
於篤「母上~・・・。」
重豪「そなたの戦場は、城にある。」
「しっかりやるのじゃぞ。」
次回 第二回「江戸の姫君」
茂姫「私は、もう子供ではない。」
重豪「御台所か・・・。」
お登勢「はい。」
徳川家治「そなたが、あの者を幸せにするのじゃ・・・。」
松平定信「公坊様の糧に・・・。」
茂姫「私が、家斉様の代りになります!」
お楽「あなた様が嫌いにございます。」
島津斉宣「世継ぎを?」
徳川家斉「ほんに、面白き奴じゃ。」
この先の「茂姫~うるわしき日々~」も、どうぞ、ご期待下さい!!