Episode 2, アンカインドノワール
「ヴィアレー!!」
ブランシェは全力疾走といった感じの様子で、ヴィアレの前まで駆け寄る。そしてヴィアレの手前で猫特有のすべらかなジャンプでヴィアレに飛びつき、最終的にヴィアレに抱かれるような姿勢となった。
ブランシェはヴィアレの腕の中でまるで携帯のバイブレーション機能のように、大袈裟にぷるぷると震えている。このようにブランシェが怯える理由はただひとつ、
「フィオ、またなにかしたの?」
「いいえ? なにもしていないわよ?
わたし、ほんとおまえのこと嫌いだわ。意気地無し」
おまえ、とはブランシェを指すものだろう。
フィオがブランシェを名前で呼んだことなど、今まで一度もなかった。ヴィアレはこの事をとても気にかけているが、ブランシェに理由を問うと「わからない」、フィオに聞けば「あなたが知る必要のないことだと思う」とはぐらかされる有様であった。きっと、これからもフィオは口を割ってはくれないだろう。
「意気地無しだなんて、自分が一番わかってるもん......」
「あら、そう。物わかりが良いようで何よりだわね?
ぜひとも、その気持ち悪いなよなよした性格を治して欲しいものだわ」
しょぼくれているブランシェに追い討ちをかけるように、フィオは毒付く。鬱陶しそうにビッと舌を出すと、そばにあった塀に飛び乗りどこかへ出かけていった。
「ブランシェ、えっとね......あんまり気にしちゃダメだよ?」
「うん......」
未だ腕の中で震えているブランシェに、ヴィアレは苦い笑みを零した。フィオがあんなにも鋭い敵意を向ける相手は、ブランシェ以外にはいない。''意気地無し''その言葉は、ひどく苦い味だった。
+ + +
「うざっ......」
私はあいつの事が大嫌いだ。
本当に、心からそう思っている。なよなよしい所は女みたいだし、毎回私を見る度にヴィアレに飛びついて行くというとびきりの情けなさには背筋に悪感が走る。もちろんヴィアレのことは大好き。でもあいつのことは大嫌いだ。
そんな心の怒りや不満をぐちゃぐちゃと並べて歩く。特に目的は無い。ただ一人の時間が欲しいだけだった。
時たま出会う魔女猫達と適当に話すが、大概話は合わない。だって魔女猫は一般的には一匹。しかも黒猫だ。黒猫の理由としては、魔力の供給量が安定している個体が多いから、だそうだ。ーー結局は魔女猫としての素質なのだけれど。
そんな黒猫が多い魔女猫たちに、二匹目の白い魔女猫の話をしても共感は得られないだろう。
私たちを公平に扱ってくれるヴィアレに愚痴をこぼすほど私も馬鹿ではない。行き場のない不満をどう対処したらいいのか、それはまだ私にはわからない。
「......帰ろ」
考えても仕方がない、と元来た道を戻ろうと歩みを進めた。
第2話です。なんだかフィオが性格悪い子みたいになっちゃいましたが、一応理由あるんですよ?
今回新キャラを登場させる予定でしたが、もう少し主人公を知ってもらった方がいいかな、という判断でもう少し後にすることにしました。
もう一本作品を連載しようか迷っています。当分先にする予定ではありますけどね。
それでは、回覧ありがとうございました!