じめじめ湿度とベタベタ汗
蒸し暑い。だから梅雨ってやつは・・・・。
額をうっすらと伝う汗。少しくったりとしたスーツを着た浩二は、駅のホームで列車を待つ間、そんな愚痴を内心ではこぼしながらも、姿勢を保ったまま、ホームに立っている。
「まったく、蒸し暑いったらないわ。だから梅雨って嫌ね・・・・」
隣の聡子さんのつぶやきに、浩二は相づちを打つ。普段は壮快な笑顔の彼女も、さすがに少しダルそうに見えた。
聡子は浩二にとって職場の先輩であり、一応上司だ。今日も一緒に得意先を回って、今は会社からの帰宅中である。
蒸し暑い夕暮れ。人もまばらな駅のホームに、二人は佇んでいる。日差しはかげっているのに、まだまだ暑いのだ。
そんな二人を更にうんざりさせるように、湿った生暖かい風がホームを吹き抜け、不快指数をさらに上げて行く。暑さと湿度のせいで、思考も鈍り会話も湿りがちだ。
「そろそろビアガーデンとか行きたいですね」
なんとなく、課長っぽい言い草だなと、例の口癖を思いつつ、浩二はい言ってみた。飲めない浩二だったが、こんな日はそんなことも思ってしまう。
「ああ、いいわねビアガーデン。そういえば、一昨日、今年始めた冷やし中華食べたわ」
なんとなく涼しいことを話しながらも、蒸し暑い風が流れ、シャツの下、背中を汗が伝っていく。
ふと見ると、聡子さんのうなじにも後れ毛の間から、つつと汗が滴っている。
夏の訪れを予感させるような暑さと、梅雨ならではの湿度が、夕暮れのホームを妙にアンニュイな空気で満たしていた。
「3番ホームを電車が通過します。パンパンポンパン」
そんな時、愉快な音と共にアナウンスが流れる。
ゴー。ガタンゴトン、ガタンゴトン。
豪快な音をたてて、勢いよく列車がホームを通過していく。貨物列車だ。
猛スピードで通過する列車は、風圧で、気怠いホームの空気も吹き飛ばしていくようだった。
貨物車の車両は長く、いつまでも続いていく。最初はコンテナが積んであったが、次第に何も積んでいない車両が続いていった。
「こういう、何も積んでない貨物列車みてると、なんとなく飛び乗れるんじゃないかて思うんですよ。そういう感じしませんか?」
「あー、わかるわ。あの辺りとか、ひょいっと飛び乗ったら、そのまま遠くまで運んでもらえそうな気がするわよね」
相づちを打つと、聡子さんはそう答えて。絶対気のせいだと思うけれど、と付け加えた。
「ですよねぇ‥‥」
一時だけ涼しい風をもたらせた貨物列車は、轟音とともに遠ざかっていった。
再びホームはじめじめとした暑さに戻る。
「う~ん、行こっか、ビアガーデン」
聡子さんはそう言うと、壮快に笑った。




