初出店
自営業でコンビニをはじめた俺は、初めてのお客さんとして友達を招待した。
「おーう、来たぞー」
「らっしゃい。待ってたぞ」
俺は友達を出迎える。
自営業のコンビニということもあって、基本的に制服はない。
はじめは、いろいろとほかのチェーンのコンビニを参考にして作ってみようと思ったものの、絵心のなさに泣く羽目となった。
ということで、今はかなりラフな格好で、彼らを迎えていた。
「しかし、こんな田舎で経営が成り立つのかね」
友達の一人が笑っている。
確かに、限界集落とも言うべき状態のところだ。
だが、このコンビニは別の顔もある。
「ほら、こっち回ってきなよ」
友達を俺はコンビニ本体の裏手へと案内する。
そこは、小学校と派出所があった。
「ちなみに、郵便業務も委託されているから、ここからゆうパックを発送することもできるぞ」
「小学校って言ったって、何人いるんだよ」
俺は友達に聞かれ、指折り数えつつ、話した。
「確か、小学3年生が3人と5年生が1人、それに中学生が1年と2年に1人ずつだったかな」
「少な」
少ないのは事実だが、こんな集落でそれだけ子供がいると言う方が驚きだ。
俺も、初めてここで店を開くと言った時には、驚いたものだ。
だが、実際に開くと言う時になって、夏休みとなってしまった。
なので、学校には誰もいない。
派出所も、だいたい人はいない。
いたとしても、事件なんて起きないわけだから、結構な頻度で暇そうにしている。
「で、何を買ってやろうかな」
「おう、商品は好きなのを選べよ」
店の中に戻ってくると、一通り案内する。
冷凍、冷蔵をはじめとして、飲み物から軽食、手芸用品をそろえている。
「あれ、野菜は無いんだな」
「野菜なんて売っても誰もかわねーよ。家で育ててるって言うのに」
「ああ、なるほど」
目の前は畑、家は数百メートル離れたところというところだ。野菜は売っていても、自宅で収穫して食べれる。
だとすると、買う人は基本いないわけだ。
手元になかったとすると、知り合いの家で貰ってくるだけだろうし。
「んじゃ、これ買うわ」
友達の一人が手に取ったのは、ペットボトルだ。
近くの日本百名泉の一つに選ばれている湧水を、煮沸してパック詰めしたものだった。
「あいよ、108円な」
「8円ぐらいまけろよ」
笑っている友達だが、今日は開店サービスでもしておくかと考えた俺は、結局100円ぴったりでペットボトルを渡した。
「まいどー」
「おーう、また来るわ」
いずれな、と友達が笑っていた。