世界の始まりとその概要
カーン、カーン。
部屋の中に金属を打ち合わせる音が響き渡る。
黒い髪の少年が鉱床の上に置いてあるインゴットへとハンマーを振り下ろすと、カーンという音と共にインゴットは淡く発光し始める。
少年は真剣な表情でインゴットを見つめ、常に一定のリズムでハンマーを振り下ろし続ける。
そしてその回数が20回を超えた頃……インゴットから漏れ出た光が急に濃くなり……弾けた!
「っ………!」
少年が息を飲み見つめる中、光は集束していきインゴットはゆっくりと剣の形に変わっていく。
そのインゴットだったものが完全に剣の形に変わったとき…少年の目の前にこう書かれた小さなウィンドウが現れたのだった。
[グロームソードを入手しました。]
『アルカナガーデン』
これがこの世界…VRMMOの名前である。
このゲームは発売当初そこそこの注目を浴びた。
その最大の要因は完全スキル制が採用されていることだ。
それはレベルという概念がなく、ゲーム内での行動によりスキル毎に設定されているポイントが貯まっていく、というようなシステムだ。
そしてそのポイントを貯めることでキャラクターを強化していくことができる。
当時のVRMMOの中では完全スキル制のゲームは珍しく、正式サービス開始時には沢山のプレイヤーが参加し賑わっていた。
しかし、正式サービス開始3カ月後には約半数以上のプレイヤーが休止、引退という形でログインしなくなっていた。
その理由は様々だが、大きく分けて3つの原因があると言われている。
1つ目は完全スキル制のゲーム未経験のプレイヤーへのフォローが遅れたこと。
大体のことはヘルプを参照することで解決できるが、レベル制のゲームが圧倒的に多い中でシステムの違いに順応できずこのゲームを去るプレイヤーは少なからず居た。
2つ目はスキルポイントに上限値が設定されていたこと。
完全スキル制のゲームでは自分の行動によってポイントを得て育つことができるゲームだが、無限に育っていけるわけではない。
スキルポイントには上限値が設定されており、全てのスキルを合計して一定値に達するとそれ以上にポイントを獲得することができなくなる。
また、生産や生活系のスキルを極めるのにはかなりの時間を費やす必要があるが、戦闘系のスキル構成で毎日戦闘に明け暮れていればすぐに上限値に到達してしまう。
上限値に達しても不要なポイントを削って違うスキルを取り直すことはできるが、成長の上限値は変わることがないのだ。
1つ目、2つ目の問題でそれなりの数のシステムに馴染みのないプレイヤーはゲームから離れてしまった。
しかし、この完全スキル制というシステムに惹かれ集まってきたプレイヤー達にはその問題は想定内のことだったのだ
しかし、そのプレイヤー達も離れていくようなことがあった。
その原因の3つ目はゲームのコンテンツの不足である。
スキルポイントが上限まで育ちきり、戦闘能力が最大まで高まったプレイヤー達はまだ見ぬボスやアイテムを探すため様々な地域に散っていった。
日夜webサイトでの攻略情報の共有が行われ、ハイスピードで攻略が進んだ結果、その時点でクエストカウンターから受けられるクエストを全て制覇するプレイヤーが現れ始めた。
そして、その後期待されたクエストカウンターへのクエスト追加はそれから数年経つ今でさえ行われていない。
毎週のメンテナンスでパッチは当たっているが細かな調整ばかり。
クエストの追加は行われず、町の外を拠点にフィールドやダンジョンのボスを狩り続けるしかやることはなく。
そういう状況も続き、新しいゲームが出る度に少しずつプレイヤーが減っていった。
残ったプレイヤー達もこのまま過疎化が進むんだろうなぁとぼんやり考え始めていた頃。
匿名掲示板"Mネット"のVRMMO板ではこんなスレが立っていた。
"アルカナガーデンのNPCが自由すぎるwww"
そのたった1つのネタスレにより、VRMMO"アルカナガーデン"は全く別のゲームとして見られるようになる。