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ゆめゆめ恋を怖れるなかれ  作者: 沙魚川 出海
☽ ゆめゆめ恋を怖れるなかれ ☀
7/14

【幕 間】

まくま×

まくかん×

まくあい○

 死にたい。

 なぜ生きているのだろう、わたしは。

 何度も死のうと思ったのに、結局、まだ生きている。

 彼女とわたしの未来は、あの日、わたしが彼女を殺めた瞬間に失われた。

 彼女はわたしを裏切った。

 裏切られたから、殺した。

 彼女は笑っていた。

 わたしは――


 わかっている。

 裏切ったのはわたしのほうなのに。

 わたしは彼女が許せなかった。

 それなのに彼女は――わたしを赦しながら死んでいった。

 いっそ謗ってくれれば、怨んでくれれば楽だったのに、彼女は最期まで彼女のままだった。

 わたしが敬愛した、彼女のまま……。


 あの子達はわたしを恨んでいるだろう。

 全てわたしのせいだ。

 まさかこんなことになるなんて、想像していなかった。

 いや――本当は、考えないようにしていただけなのかもしれない。

 そんなわたしが、あの子達に何を言えばいいのか……。

 ただ祈るだけだ。

 二人の幸福を。

 二人の未来を。

 ――ソファーで、二人がうとうとと微睡んでいる。

 どんな夢を見ているのだろう。

 どんな夢に誘われるのだろう。

 人間は、夢から逃れられない。

 夢の中では全てが等しく、総てが不平等。

 だから人間は夢を怖れ、夢に想いを馳せるのだろう。

 夢から離れられない運命なら、せめて――幸せな夢を見てほしい。

 願わくは、明るくて、眩い夢を。

 彼女達にそっくりな寝顔に、わたしは小さな祈りを捧げた。



「……あれ、寝ちゃってた」

 アタシは目を覚ました。

 ソファーでうたた寝しているサラにいたずらしようと、息を殺して隣に座ったら、いつの間にかアタシも睡魔に襲われてしまったらしい。

 肩に重みを感じる。

 隣でサラが、アタシに凭れかかって眠り込んでいた。

 微かな寝息と、確かな体温。

 澄んだ長い黒髪が、さらさらとアタシの金髪と絡み合った。どんな夢を見ているのだろう――顔を覗き込むと、睫毛がゆっくり持ち上がった。

「……何かしら、明日香さん」

「あ、起こしちゃった? ごめん」

 肩が触れ合う近さなのだから、必然的に顔と顔の距離も近くなるわけだが、何を勘違いしたのか、サラは如何にも軽蔑した口調で最低ねと言った。

「は?」

「人が寝ている隙に唇を奪おうとするなんて、貴女、本当に色欲の塊なのね。アスモデウスに取り憑かれてるんじゃないの?」

「は!? いやいやちょっと待て! キスしようとしたわけじゃねえよ!」

「この金髪色魔め。貴女の悪行――たとえ大天使ラファエルが許しても、私が許さないわ。いったい今まで、何人の女の子を誑し込んだというの」

「サラさん、話を聞いて!」

 あれこれ言いながらも、サラは決してアタシから離れたりアタシを遠ざけたりはしなかった。やれやれと思いながらも、サラの軽口につき合う。

 サラは人と話す時、あまり表情を変えない。彼女をよく知らない人にとっては、無愛想だと不快になるかもしれない(実際、口を利く前までアタシもそう思っていた)けれど、単純に彼女は、感情の起伏を顔で表すのが苦手なだけなのだと思う。もしくは、自分を抑えて、感情を外に出さないよう我慢しているかだ。

 どうしてそれを隠そうとしているのかはわからない。でも、きっと本当の彼女は、楽しければ笑うし、悲しければ泣く。彼女の口から紡がれる一見平らな言葉の中にも、ちゃんと喜怒哀楽は詰まっているのだと、だんだんわかってきた。

「アスモデウスは一人の女性を想うあまり、七人の男を殺したというけれど――明日香さんは?」

「いや、アタシは誰も殺していませんが」

「でも、ガールハントしてるんでしょう? 何人くらい狩ったの?」

「狩ってねえよ! あんたの中でどんなイメージなんだよアタシは!」

「そう……。街中ですれ違う女の子全員に手を出しているというのは、ただの噂だったのね。ああよかった」

「別にアタシは女の子なら誰でもいいってわけじゃないぞ……」

「じゃあ、今まで何人の女の子とキスしたの?」

「え?」

「私は――何番目?」

 息のかかる距離で、じっとアタシを見つめるサラ。やけに熱い視線がアタシを困惑させた。

 何番目――何番目って、どういう意味だ。どっちの意味だ。今までキスした人数・回数なんて覚えていないが、何番目って、そういう意味か? 人数的な意味? それともまさか、『女の子なら誰でもいいってわけじゃない』に対する言葉? アタシの中でサラは何番目に好きな女の子かっていう、そういう答えづらい質問ですか? おいおい小学生じゃあるまいし、友達に順位なんてつけられるはずないだろう。あ、でも女誑しはこういう時、『一番好きなのは君だよ』なんて、真顔で愛の言葉を嘯くのかな。でもそれは恥ずかしいから無理。えーっとえーっと、どうしよう、なんて答えよう――とサラの瞳から逃げることができず、戸惑っていると。

「やっぱり……一番じゃ、ない、よね」

 などと、サラは拗ねたように言った。

 戸惑いは熱情となってアタシの背を押した。

「何を言っているんだい、サラ。アタシが一番好きなのは君だよ、HAHAHA」

「明日香さん……」

 白く細い指が、アタシの唇に軽く触れた。そしてその指で、サラはアタシの額を小突いた。

「あたっ」

「でもごめんなさい、貴女は私の中で最下位よ。どのくらい最下位かというと、五位と二七・五ゲーム差をつけられた一九五八年のパールスくらい最下位」

「例えがマニアックすぎやしませんかね……」

「貴女も頑張って、首位を目指しなさい。サ・リーグの首位を」

「じゃあサラは、ユ・リーグの首位か。ユ・リーグってなんかあれだな」

「そうね、あれね。でももしそんなリーグがあったら、一部の人達は喜びそうね」

 確かに。

 リ・リーグも捨てがたいと呟くサラの横で、サ・リーグのほかのチームはアタシ以外に誰がいるのだろうと、どうでもいいことを考えた。

 チームが少ないほうが、首位に立つのも楽なのになあ。

いつも思うが、なぜ『まくあい』を『幕間』と書くのか?

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