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ゆめゆめ恋を怖れるなかれ  作者: 沙魚川 出海
☽ ゆめゆめ恋を怖れるなかれ ☀
5/14

【永 遠】(二)

これも読まなくても問題ない話ですね。

 あれから何日経っただろう。

 わたしは錯乱していた。

 頭が真っ白で、何も考えられず、生きる気力もなかった。

 結局、なぜか連れてきてしまったあの子供は、殺さずに捨てることにした。

 人通りのある場所に置いてきたから、死ぬ前に誰かが見つけるはずだ。

 汚れた子供。

 悪魔と、人間の……。

 あの瞬間、幼い面影に、在りし日の彼女が思い起こされた。

 だから――殺せなかった。

 心が狂い乱れていたわたしは、彼女と同じ瞳に見つめられて、その場にいることが耐えられなくなってしまったのだ。

 ――彼女の遺体はどうなっただろう。

 彼女が暮らしていた、寂れた町にあるアパートの一室。

 そこに戻ってみると、遺体はなくなっていた。

 拭き取った跡はあるが、床には黒ずんだ染みが点々と続いている。今になって部屋の中を見回してみると、赤ん坊の服やあやし道具がたくさん揃えてあり、子育てしている彼女の姿が自然と浮かんでしまった。同じ服が二着あるのはお気に入りだったのだろうか。

 あれから何日も経っているし、当然かもしれないが――しかし、わたしが彼女を殺めたことが知られるのも時間の問題だろう。もしかしたらもう追手がやってきているかもしれない。

 その予感は的中した。

 数日後、わたしの前に悪魔が現れた。

 しかし奴はわたしを狙っているわけではなく、標的は王女だと言った。

 混迷するシェディムを導く存在として、王女を冥界に連れ帰るのだと。

 そして、わたしが置き去りにした王女は今――現王園という者の元にいると。

 現王園。

 それは、わたしから彼女を奪った、あの女の一族だった。

 生きる気力を失っていたわたしは、ある言葉を憶い出した。

 彼女の言葉だ。

 あの瞬間の、彼女の言葉。

 深紅に染まった彼女は、けれど穏やかに微笑んだままわたしの頬を撫でた。

 悔いも恨みもない、わたしが愛した彼女の笑顔だった。

 死の間際――彼女が遺した言葉を、今になって憶い出した。

 それが命令ならば、どんなに楽だったか。

 わたしは騎士だから。

 彼女に従うのがわたしの歓びだったから。

 命令ならば、苦しみも悩みもぜず、迷いも惑いもせず、わたしは従うのに。

 それなのに。

 彼女はわたしに――お願いしたのだ。

 理想に狂ったわたしに。

 嫉妬に狂ったわたしに。

 それは生きる気力と呼ぶには頼りない光だったけれど。

 まだ、死ぬ前に――わたしは。

嫉妬に狂った女性は怖いらしい。

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