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ゲームの世界で第二の人生!?  作者: シェイフォン
第1章 浮浪児として
7/55

番外編  アイラの視点

番外編です。


ですので読まなくとも小説の流れに差し支えはありません。


主人公が拾った四人組の一人であるアイラ視点で第一話から第五話まで進みます。


アイラが主人公の活躍を見てどのように感じたのかを想像して頂けると幸いです。



『市民』になること。


それは私を含めた全浮浪児が持つ願いであり叶わない夢であった。






 私、アイラは親の顔を覚えていない。


 物心ついた時には既に浮浪児としてその日その日を生き抜くのに必死だった。


 ましてや私は女の子。


 一人だと喰われて終わり。


 だから生きるための知恵として私は仲間を組んでいた。


 思い切りは良いけど猪突猛進なキッカ。


 天然不思議系のマスコットキャラクターであるユキ。


 気は弱いけど力と体格は規格外のクロス。


 そして常に周囲の気を配って策謀を張り巡らせる私。


 この四人で徒党を組んで過ごしていた。


 盗みは日常茶飯事、詐欺や置き引きも普通にやっていた。


 基本的に計画の立案は私で実行するのがキッカ。


 たまに他の浮浪児グループと一触即発状態になった時はクロスの出番。


 あいつは気が弱いけど力が強いから大抵の浮浪児は彼一人でどうにかなる。


 ユキは……何でいるのか私も分からないわね。


 いつの間にか私達の仲間に加わっており、気が付けば行動を共にしていたみたい。


 邪魔にならないようだからチームのマスコットとして置いている。


 それだけ。


 それだけのはずだったのに、ユキがあいつを見付けてきたのは驚いたわ。


 ユキは珍しくパンの入った袋という戦利品を手中にして戻って来たとき、私はパンの持ち主について興味を持った。


 このパンは浮浪者専用のパン屋でしょう。


 ならば必然的に持ち主は市民証を持っていない浮浪者ということになるわね。


 ユキが言うにはこのパンを一人で持っていたという。


 この量のパンを一人で? 仲間もいないのに?


 少なくともただの浮浪者じゃない。


 身元の知れないユキにあっさりとパンを奪われたことも相まって私は会ってみたいと感じた。


 よほどの大馬鹿者かそれとも……


「提案があります」


 久しぶりのまともな食事ではしゃいでいる三人に向かって私はある考えを披露した。






 結論的に言えば、ユウキという少年は想像以上だった。


あの時の「私達を買って下さい」発言は吊り橋を目隠しで渡るぐらい危険な賭けだったけど、その分見合った報酬――きれいな服とお金を手に入れたわ。


今、ユウキはベッドで熟睡している。


私達にきれいな服を作ってくれたのに、ユウキはボロの服を着ているのは多分自分の分の服を作り忘れたのだろう。


可愛いところあるじゃない。


 ユウキはしばらく食べられるだけのお金を置いてくれたから、私はここから逃げ出そうかと提案したけど反対多数で却下となった。


 いつもは賛成してくれるキッカが反対するとは珍しい。よほどユウキが作った服に感動したのね。


 私の考えは却下されたけど、不思議と腹は立っていなかった。


 それは無意識の部分で彼について行ったほうが良いと訴えているのかもしれない。


 まあ、今すぐに離れる必要はないわ。


 幸いにも明日は貰ったお金で色々と遊べるから思いっきり楽しもうかしら。


 その途中で他のグループと会ったらどうしようかな。


 洋服を着てお金を持っている私を見た彼らはきっと悔しがるだろうな。


 思いっきり自慢してやろうかしらね。


……自慢した結果、私は毎日服や靴をスラム街の入口に置く約束をさせられたわ。


どうやら舞い上がっていたみたい、反省しなくちゃ。


そして、驚いたことにユウキは毎日服や靴を作ることを快諾したのよ。


いえ、良かったのよ。


でないと私達のグループは全浮浪児の敵になっていたから。


ありがとうございます、ユウキ。






 どうやらユウキは私達を驚かせるのが大好きなようね。


 いったいどこの世界に銅貨や金属ゴミから武器防具を作る浮浪児がいるのか。


 Bの銅貨と錆びた水道管から青銅の盾を製造したのも十分驚いたけど、鋼の大剣まで作ってくるとは私の常識の範疇を超えていた。


 確かに、鋼の大剣を作る設備が鍛冶屋にあるとはいえ(王都だから)限度というものがあるでしょう。ここまで運んできた鍛冶屋の若い職人が呆然としていましたよ。「俺ってまだまだ井の中の蛙だったんだなあ」とブツブツ呟きながら帰っていったわ。


 ユウキはそれどころじゃないくらい疲労してベッドに倒れたから知らないでしょうけどね。


 それに、鋼の大剣を普通に買おうとすれば2000Gは下らないわよ。


 どうやってそれを一個五S以下の屑鉄から製造できるの?


 ユウキに尋ねると「俺はもっとすごい武器を作っていた」と、冗談なのか本当なのか判断に悩むセリフを吐いたわ。



「い~や~、た~す~け~て~!」


 キッカが叫んでいるけどこればかりはどうしようもないわ。


 だって勉強しないキッカが悪いんですから。


 知恵を働かすには知識が必要。


 知識を蓄えることを怠れば芳しくない結果が待っているわ。


 さて、私達は外で飲み物でも飲みながら一服しましょうか。


 鬼の居ぬ間に洗たく。


 ユウキがキッカに構っている間は存分に休めるわ。




 キッカの要望通りユウキは全員分の装備を作ってきた。


 キッカは当然のことだけどクロスも重装備に身を固めて満更じゃなさそうだったわ。


 そう言えばクロスは最近騎士になりたいとか呟いていたわね。


 浮浪児だったあの頃はそんなことを言わなかったけど、やはり衣食住が安定すると夢を追いたくなるのかしら。


 キッカも前よりまして行動力が上がっていたわね。


 前々から底なしのエネルギーの持ち主だったけど、近頃は輪をかけてその傾向が強いわ。


 あんなにも快活で活き活きとしたキッカなんてしばらく見てなかった気がするわね。


 そして、ユキに魔法の才能があることは素直に驚いた。


 ユキは前々からユウキと何をしているのか分からなかったけど、どうやら魔法を教えられていたらしいわね。


 後でユウキにそのことを追及するとユウキは「ユキが黙っておいてくれと言うから」とユキが口止めしていたみたい。


 あの子にも誰かを驚かせたいと思う所があったようね。


 まあ、そんな私も皆を脅かせようと密かにユウキからボウガンの扱い方を学んでいたけど。


 けど、その驚きの半分はユキに取られちゃった。


 少し悔しいわ。


 後でお礼として詐欺師が使う人の騙し方について教えてあげるけど、少々厳しめにレクチャーしようかしら。


 ユウキがブチ切れる可能性があるけど、しばらく一緒に暮らしたからある程度怒りの境界線は判断できるわ。


 ふふ、こんなところで浮浪児だった経験が役に立つとは思わなかった。






 今日も私は一人で魔物を狩る。


 始めの内は四人揃ってから魔物を狩っていたけど、段々とそれがじれったくなったので各自がバラバラに行動しようと提案したのよ。


 ユウキは「それは危険だ」と難色を示していたけど、私から言わせればスラムより百倍安全だわ。


 武器もあるしポーションも持っているからそうそう大事にならないわよ。


 スラムで培った危険を察知する能力を舐めないでちょうだい。


 そういった説得の結果、渋々ながらもユウキは単独行動を認めてくれるようになったわ。


 私は街の外にある森に身を隠し、気配を絶ってあるポイントに魔物が来るまで待ち続ける。


 そして、魔物がそのポイントに入った瞬間に矢を放つ。


 ユウキの作ったボウガンの糸は鋼糸を使用しているので、通常のより何倍も強い。


 至近距離ならばベアー程度の頭蓋骨を貫通する程よ。


 全く、本当に危険な代物を作ってくるわね。


 急所を貫かれて絶命した魔物を確認した私は愛用のボウガンをコツンと叩いた。


「あら?」


 私は肉が焦げる匂いが漂ってきたのを感じた。


「どうやらユキもやっているようね」


 ユキも積極的に狩りを行っているわ。


 順番でいうとキッカ>私>ユキ>クロス>ユウキね。


 ユウキはポーション作りがあるから仕方ないにしても、クロスはもうちょっと頑張れないかしら。


 あれだけの重装備に身を固めているならばちょっとやそっとのことで死なないから思いっきり戦っても問題ないはずなのに。


 私はクロスの臆病さは騎士としてやっていけるのか憂いた。


「っとと、今はそれよりもユキね」


 ユキは魔法使いなので、私達より打たれ弱い。


 万が一があったら困るので私は様子を見に行くことにしましょう。


 誤解の無いように言っておくとポーションのための材料は日替わりローテーションで個人個人が集めてユウキに渡しているわ。


 さすがに材料集めを行わないほど私達は恩知らずでないと自覚しているわよ。






 どうやら私も三人に感化されたようね。


 ユウキがいない時に私達が集まると、決まって話すのが将来についてだったわ。


 どうも私は隠密行動を好む傾向があるから、将来はレンジャーとして活躍したいわ。


 キッカは冒険家、ユキは魔法使いでクロスは騎士。


 ちょっと前の自分達が今の私達を見たら絶対驚くわね。


 そして、キッカは魔物狩りをこの近辺だけでなく、隣街の周辺にまで足を伸ばしたいみたい。


 けど、そこまで行っても私達は浮浪児だから通行証がない。


 通行証があれば一度自分が行った街だと一瞬で行ける装置が使えるのだけど、市民しか貰えない。


 ユウキがいてくれれば問題ないのだけど、生憎とユウキはポーション作りで忙しい。そしてユウキ抜きで外で一泊できる程私達は自惚れていないわ。


 そして、魔物狩り以上に私達は独学の限界を感じ始めていたわ。


 もちろんユウキが教えてくれるのだけど、ユウキは体一つしかなく、食い扶持を稼ぐために私達に構ってあげる時間がない。


 私達が満足するまで教えてくれる場所は学校にしかなかった。


私が行きたいのは弓など隠密行動を主とするレンジャー育成学校。


ここはレンジャーの登竜門と呼ばれるほど徹底的に教える学校。


ここを出れば私の夢へまた一つ近づく。


けれど問題が一つ。


学校に通えるのは一部を除いて市民以上の称号を持つ者のみ。


 残念ながら私達は市民じゃないので学校に通えないわ。


 もしかしたらユウキなら何とかしてくれる。


 一瞬その思考が頭によぎったけどすぐに打ち消したわ。


 おそらく皆もユウキに頼むという選択肢についてはあったのかもしれないけど、誰も言い出さないでしょうね。


 何せユウキには非常にお世話になっているわ。


 私達四人を養うために毎日ポーションを作り、暇を持て余した私達に武器や防具、そして戦い方まで教えてくれる。


 そして最も凄いのが、それらのことに関してユウキは全く文句を言わずに平然としていることよ。


 私ならユウキの様な対応は無理だと断言できるわ。





「まさかこれは」


「そう、アイラの想像通り、俺達の家だ」


 ……もしかして私はとんでもない人物に出会ったのかもしれない。


 ユウキは買った屋敷の前で得意げにしているけど、普通の常識で考えて12歳の子供が家を持つことなんてあり得ないのよ。


 今更ながらにあの時の選択について考えると寒気がするわね。


 もし、あの時パンの持ち主に興味を持たなかったら。


 金貨を貰って引き下がっていれば少なくとも私は今この場にいなかった。


 匂いすら感じさせずに通り過ぎ去る。


 本当にチャンスというものは分からないものね。


 あら? まだ何かあるのかしら。


 ユウキが小箱を持ってこちらへ向かってきます。


そしてそれを目の前で開け、入っていた物は。


「そう、これが市民証明書だ」


 もう説明は不可能ね。


 私が。いえ、私達があんなにも望んでいた物が目の前に出てきたのだから。


 本当にユウキは何者なの?


 今なら私はユウキが神様だといっても「ああ、やっぱり」と納得するでしょうね。


 そんなユウキは気を良くして屋敷へと向かう。


 と、ここでアクシデントが起こったわ。


 普段は物静かなクロスが大声でユウキを引き留めたのよ。


 ユウキがつんのめって扱ける様は失礼だけど笑ってしまったわ。





「ふむ、それは本当か?」


 普段とは全然違うユウキの気迫に私は生きた心地がしなかったわ。


 ユウキ、あんな目もできたのね。


 まあ、あれだけの力量を持っていればたかが浮浪児ぐらい黙らせるのも訳ないわね。


 およそ20分の間ずっと黙っていたけど、私の人生の中でこれほどの威圧を経験したことはなかったわ。


 たった一言、「学校に行かない」と言えば良かったのかもしれないけど、それは言えなかった。


 目の前のユウキから発する『恐怖』よりも『願望』の方が強かったのよ。


 それは皆同じ。


 だからこそ、誰も言葉を発さなかったのよ。





「Be ambitious 大志を抱け」


 ユウキが呟きました。よく聞き取れませんでしたが、ユウキは一つの決心をしたようです。私達は息を殺して次の言葉を待ったわ。


「良いだろう」


 その瞬間、周りの空気がふっと軽くなったわ。


 クロスも「では」と言葉を紡げていたから、それは錯覚じゃない。


「自分が望むままにやってこい」


 ユウキはそう紡いだ後、ふっと微笑みました。


 その笑みは遠い記憶の中の顔も知らない両親を彷彿させるような慈愛の表情。


「「「「あ、ありがとうございます」」」」


 いつの間にか私達は自然と、心から頭を下げていたわ。


 よく師匠に弟子が頭を下げる場合があるけど、その時の弟子の心境がようやく理解できたかもしれないわね。


 敵わないのよ。


 自分のためにこれほど多大な労力と時間を割いてくれる存在がありがたすぎて何も言えない。


 だから私はこのままユウキ、いえ、ユウキ様がいなくなるまで頭を下げようと考えていたけど隣のキッカが震えだし、そして突然奇声を上げてユウキ様に突撃し出したわ。


 よく見るとユキやクロスも駆け出している。


 これは遅れるわけにはいかないわ。


 ユウキ様ごめんなさい。


 最後のわがままです。


 感謝の気持ちを表現させて下さい。


「必ず(ユウキ様のご期待に)応えます」





 その後の私達は学園の筆記試験のためにユウキ様自らが字の読み書きについて教えてくれました。


 これ以上ユウキ様のお手を煩わせたくないという想いは全員が共通していたようで、あのユキでさえ真面目に勉強していたわ。


 その甲斐あってか私達全員が試験に合格。来月の入学式に参加できるようになったわね。


 しかし、最難関と名高い王立魔法養成学校にユキが合格できるとは予想できなかったわ。


 噂によるとユキが唯一の市民だとか。


 いつの間にか私達の仲間に入ってきたことといい、ユウキ様を見つけてきたことといい本当にユキは何者かしら。


「もう準備はできたか?」


 ユウキ様が私の荷造りについて心配してお声を掛けてくれました。


 私達が通う学校は全寮制で寄宿舎暮らしです。

 

 そのため昨日は全員で下着や制服の素材やらを買いに出かけ、ユウキ様が徹夜で全て仕上げてくれました。


「はい、もう少しです」


 私は努めて平静に答えます。


 本当はユキのことを考えて全然進んでいないことは口が裂けても言えません。


 ああ、そうだ。約束を忘れていたわ。


「申し訳ありませんがユウキ様、少々時間を頂けませんか?」


「そう言ってもそろそろ馬車が来るぞ」


「はい、承知しております。しかし、これから先しばらくキッカ達と会えなくなりますから最後に言葉を交わしたいのです」


「ああ、そういうことか。それなら仕方ないな」


 ユウキ様は一つ頷いてこの場を去っていきます。ありがとうございます、ユウキ様。


 大急ぎで荷造りを終えた私は集合場所へ向かったわ。


 その場所は屋敷の裏側にポツンと生えた木。


「急いで急いでアイラー」


「……遅い」


「転ばないよう気を付けて」


 どうやら私が最後のよう、本当に恥ずかしい。


 さてと、気を取り直して私は木の前で円陣を組みました。


これから先はしばらく会えない。


だからこそ、最後に皆の心を合わせるために円陣を組もうという提案をしたわ。


ここが第二の人生。


ユウキ様の目となり手となり、そして足となって動くための生活が始まる。


 キッカやユキ、そしてクロスの様子を確認すると皆固い意志を瞳に宿していた。


 うん、満足。


 私だけじゃないみたい。


 全員でユウキ様を守り抜く決意が満ち溢れている。


 まず始めにキッカから。


「私達は」


「「「「一心同体」」」」


次にユキ。


「……最後まで」


「「「「信じぬく」」」」


 クロス。


「後悔は」


「「「「ありえない」」」」


最後に私です。


「この命を誰に捧げる」


「「「「ユウキのために」」」」


 稚拙な駄文を最後までお読み頂きありがとうございました。

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