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ゲームの世界で第二の人生!?  作者: シェイフォン
第1章 浮浪児として
6/55

目標達成

 ゴリゴリゴリゴリ



「よし、これでノルマの30本完成」


 俺はいつもの通りに薬屋でポーションを作っていた。


「お疲れ~」


 薬屋のお姉さんであるティータさんが、俺が終わったのを見計らって出てきた

「そう言えば今日は友達と一緒にいなくて良いの?」


 ティータさんは俺達が外へ出て魔物の討伐をしているとは信じていない、だから俺はその問いかけに苦笑して。


「最近は僕抜きで遊んで(戦って)いるんだよ」


 最初の数回は全員揃って出ないと街外へ出なかったが、最近はソロでも行くようになった。


 俺はソロで行くのは大変危険だと懸念したのだがそれは杞憂に終わった。


 キッカ、アイラ、ユキそしてクロスは長い間浮浪児としてスラムを生き抜いている。


 そのため野生の勘が研ぎ澄まされているのか危険に関しては敏感だ。


 先日、苦労しそうなキングワームに遭遇した時も一人で突っ走らずに俺を含めて5人が見事なコンビネーションを発揮して敵を沈めていた。


 だから大丈夫だと俺は判断している。


「あらら、はぶられちゃったの?」


 こちらの状況を誤解しているティータさんのセリフに俺は苦笑を深めてしまった。


 そして話題を切り替えるためにポーションを渡す。


「はい、これが今日の分」


「いつもいつも御苦労様。ボクの作ったポーションは常連さんからも評判が高いわよ」


 ティータさんはいつまでたっても俺をボクと呼んで子供扱いする。それがたまに不愉快だと感じる時があるけど、それを責めてもティータさんは決して改めようとしないことが分かっていたから俺はもう諦めている。


「明日もポーションだけで良い? 何ならポイズンボトルやパラライアウトも作るけど」


「お生憎様、そちらは事足りているの」


「残念」


 俺は肩を竦める。状態異常回復系はポーションより高く売れるが需要が少ない。


 俺がポーションに拘る理由の一つだった。


 最も、ティータさんに言わせると。


「状態異常回復系の調合の方が難しいんだけどね」


 らしい。


 まあ、調合レベル98だった俺から見るとポーションもポイズンボトルも一緒なんだけどな。


「そう言えばボク、結構稼いだんじゃないの?」


「うん、僕は今10000G以上持っているよ」


 ポーションは一日30個と決まっているが、たまに予約買出しなど大口取引が三、四回あった。


 大口取引一回につき大体ポーション200個ぐらい頼まれるから相当稼いだものだ。


 大口取引は契約外として大目に一個40Gで買い取って貰えたからこちらはホクホクだ。

「で、それがどうしたの?」


「ボクって何でお金を集めているの?」


「それは家を持つためだよ」


家を持つことが出来れば大型の調合台や鍛冶場などが創設できるので、これ以上誰かの場所を借りなくて済む。


この調合台もポーション作りのみ認められていて、それ以外の使用は料金を取られていた。それが無料になれば今後の活動がぐっと広まることは予想できる。


「ねえ、ボク。提案何だけど、そのお金を担保にして家を手に入れない?」


「どういうこと?」


「近々郊外に空き家が出来るのよ。で、その家の持ち主は色々なことをやっていたらしくて調合台や鍛冶場は勿論のことキッチンや畑まで完備しているのよ」


「へえ」


 俺は感嘆する。もしこの話が真実ならばそれは非常に嬉しいことだ。


 俺が家を持った暁にはそういったものをいずれ作る予定だったから、それが省けて非常に助かる。俺にとっては非常においしい話だが。


「まずその家を見たいのだけど」


 ティータさんが俺を騙すことなんてないが、確認のため聞いておく。


 するとティータさんは唇の端を吊り上げて。


「そう言うと思ったわ、この店が閉店してから向かいましょう」




 閉店になった時刻に俺は薬屋の前で待機していた。


 しばらくするとティータさんが現れる。


「お待たせ、待った?」


「いや、僕も今来たところだよ」


 ここは社交辞令。


 本当は1時間ほど待たされていた。




「ここがそうよ」


 馬車で揺られること30分、目的の場所へと辿り着く。


 まず始めに俺は立っている場所と紙で示されている場所とを示し合わせて誤りがないことを確認した。何せ他人の家を案内されちゃたまらない。


「ボクって用心深いわね」


 ティータさんが感心と苦笑の入り混じった表情をした。


 それはアイラから口を酸っぱくして言われていたからな。


 この2ヶ月アイラは俺に詐欺師のテクニックについて何度もレクチャーしてくれた。


 アイラ曰く俺は騙されやすいのだから、詐欺師がどのようにして人を騙すのか方法ぐらいは知っておきなさい、らしい。


「ほう……」


 俺は感嘆のため息を零す。


 中の様相は俺が家を買ったらこうしようかという想像を具現化したようだったからだ。


 ちょっとした屋敷になっており、執事やメイドがいてもおかしくない。


 そして外には広い畑もあって離れには鍛冶場も備え付けられている。


 家の中を拝見してみる。


 一階は大きな広間となっており、ドアを隔てた先には調合台やキッチンがある。そして二階へ続く階段を上がると、部屋がいくつもある。


 これなら一人ずつ部屋を割り振ることが出来るだろう。


「これは本当に良い物件だね」


 心なしか俺は興奮していた。


 ここでティータさんが切り出す。


「で、この家なんだけど、おそらく30000Gで売りに出されると思うわ」


「30000か……」


 俺は考え込む。


 今あるお金がとてもじゃないけど払えない。しかし、この家は絶対に欲しい。


「これは提案何だけど、今のお金じゃボクが家を買えないから、私も一緒に出してあげる。そして20000Gはボクが返してくれれば良いよ」


「え? どういうこと?」


「だから私が残りの20000Gを払うということ。ボクには結構お世話になっているからね。これまでの利益を考えるとこれぐらい安いものよ」


 ティータさんは俺の作ったポーションを100Gで販売している。


 つまり少なく見積もっても30000Gはあるのだ。


「けど、それは悪い気がする」


「何言っているの、ボクは家が欲しかったのでしょう。あの時、私から今日の年数を聞いた時から人が変わったようにお金を集め出したわ」


 現在はイルヴァナス歴458年。


 そして魔物による大進行によってこのカルギュラスが廃墟となるのが463年。


 つまり後5年でこの都市は跡形もなくなってしまうのだ。


 それを聞いた瞬間俺は今までの戦略を見直す必要が出てきたと感じた。


 本来ならばこの都市を拠点としてゆっくりと力を付けようと考えていたが、それは諦める。


 俺は前の住み家だった工業都市ジグサールに移り住み、そこで力を付ける計画へ変更した。


 しかし、工業都市ジグサールの周辺にはここと比べ物にならない強大な敵が徘徊している。


 当然ながら今の俺にその都市へ辿り着くことは不可能。


 だから俺は一年以内に家を持ち、そこで各スキルのレベルを上げるのと並行して自分のレベルを上げることにした。


 そのための第一歩として必要だったのが家だったのだ。


 俺が黙りこんでいるのを見て何を思ったのか、ティータさんは腰を下ろして目線を下げ、俺の肩を掴んで語りかける。


「ボクが何を考えているのかお姉さんに分からないけど、ボクが焦っているのは伝わってきているよ。一度力を抜いて深呼吸して。ほら、少なくともお姉さんはボクの味方だよ」


 俺は我知らず赤面した。


 ティータさんは俺の母親に似ている気がする。


 そう言えば母さんも今の様な恥ずかしいセリフを真顔で言っていた気がする。


 あの時は何とも思わなかったが、今のように焦っているとこんなにも嬉しくなる。


 そしてティータさんは立ち上がってニコリと微笑んだ。


「さあ、行きましょう。早くしないとこの家を誰かに取られてしまうよ」


 それを聞いた俺は慌てて先へと進むティータさんの後を追った。




 数日後、俺は驚かせたいものがあると言ってキッカ、アイラ、ユキ、そしてクロスを連れ出した。


「ねえ、どこに行くの」


 初めて乗る馬車に戸惑っているのか所在なさげにしているキッカ。


 それに俺は「着いたら解る」と笑った。


 そして到着。


「ここは何だと思う?」


 俺が4人に聞くと、しばらく考え込み、最初にアイラが手を上げた。


「立派な屋敷ですね」


「そう、立派な屋敷だ。で、これは誰のものだと思う?」


 ここまで言うとアイラをはじめ全員が理解したらしい、目を丸く見開いてありえないというように首を振った。


「まさかこれは」


「そう、アイラの想像通り、俺達の家だ」


 それを示すかの様に表紙には俺達五人の名前が記されていた。


「そして、さらにサプライズがある」


 俺は隠していた小箱を目の前に持ってくる。


「家を持ったということは社会的地位があるということだ。どういうことだと思う?」


 俺が尋ねると今度はユキが。


「……市民になれる」


「そう、その通り。これが俺達5人の市民証明書だ」


 ティータさんに用意して貰った羊皮紙を一人一人に手渡す。


 この市民証明書は『市民』になるために必須なものだ。


 これで俺のステータスが『浮浪児』から『市民』に昇格できる。


『市民』になると出来ることがグッと広まる。


 病院で診てもらえるし、図書館も利用できる。政治にも関わることが出来る。


 そして何より俺は自分で作った物を自分で売ることが出来るのだ。


 何せ『市民』だから。


 人間と認められた証だから闇の者もおいそれと手出しが出来ない。


 つまり、遠慮なく商売が出来る。


 あ、もちろん薬だけはティータさんの所で売るよ。


 そうするのが礼儀というものだろう。



 はい、感傷終わり。



「さてと、入ろう。俺達の城――」


「待って下さい!」


 俺がそう宣言して一歩踏み出そうとした時、突然クロスが大声を出した。


 俺はつんめのってしまう。


「これさえあれば自分達は市民なんですよね」


「まあ、そうなるけど」


 ぶつけてしまった鼻頭を押さえながら俺は答える。


 すごく痛いし、それ以上に恥ずかしいぞ。キッカもクスクスと笑っているし。


「学校にも通えるんですよね」


「市民だから当然の権利だな」


「だったら、お願いします!」


 クロスは両膝をついて地に頭を擦りつけ始めた。


 この出来事には俺を含めて全員が驚く。


「自分達を学校へ通わせて下さい!」


 そしてクロスは思いの丈を語り始めた。


「僕は昔から騎士に憧れていました。将来は騎士となって国を守りたいと考えてきました。けれど僕は市民権を持たない浮浪児です。騎士になるための試験など受けることが出来ません!」


 普段は温厚なクロスがここまで熱く語るとは。


 よほど騎士への思いがあるに違いない。


 さて、どうしよう。


 学校へ通うとなるならばそれだけお金が必要となる。しかも騎士の養成学校となればなおさらだ。どれだけ低く見積もって通常に3倍はかかるだろう。


「けど、まあ良いか」


 あのクロスが自己主張しているんだ。


 普段から我がままを言わないことを鑑みればそれぐらい良いだろう。


 幸いにも『市民』になったから金策のあてはあるし。


「分かった、学費は俺が何とかしよう。だから君は学校に行ってくれば良い」


 俺はそう言って立ち上がらせようとしたがクロスは頑として動こうとしない。何故かと燻しんでいるとさらに言葉を紡いだ。


「僕だけじゃないんです。キッカやアイラ、そしてユキも一緒にお願いします」


「く、クロス!?」


「何を言っているのですか!?」


「……」


 それにはさすがにキッカとアイラ、そしてユキが反応した。


「キッカは冒険者に、アイラはレンジャーにそしてユキは魔法使いになりたいのです。ですから、僕だけでなく彼女達も一緒にお願いします!」


「ふむ、それは本当か?」


 俺がジロリと視線を向けると、3人はバツが悪そうな顔をするが、イイエとは答えなかった。つまり彼女達は学校に通いたいのだろう。


「しかし、まあ揃いも揃って学費が高い所ばかり」


 どれもこれも全部学費が通常の学校と比べて高い。


 そして最も高いのが、ユキが希望する魔法使いのための学校で、これは通常の学校の学費の五倍はする。


 4人全員にかかる学費を合わせると、通常の学校に14人送り込めるほどの莫大な金額が掛かる。


 これはさすがの俺も躊躇してしまう。


 この家も20000Gの借金があるし。


 俺は4人を見ながら思案する。


 果たして4人にそれだけの投資をする価値があるのかどうか。


 それらの学校では良い教育を受けられるから、もし4人全員が付いてきてくれるのならば工業都市ジグサールまでへの道のりは楽になるだろう。


 ジグサールさえ辿り着ければ何とかなるから俺についてくるなり別れるなり好きにして貰っても構わない。


 しかし、それはあくまで順調に事が進んだ場合だ。


 もし俺に何かあれば学費の支払いは不可能になり、彼らは学校を辞めてもらうしかない。そうなれば今までの投資も水泡に帰してしまう。


 逆に彼らが問題を起こしてしまっても水泡に帰す。


 ここは重要な分岐点となる。


 学校に行かせるか否か。


 投資をするか否か。


 考え、考える。


 キッカ、アイラ、ユキ、そしてクロスを順に眺めながら俺はどうするか思考をフル回転させる。


 20分ほど経ったのだろうか。


 その間誰一人声を出さなかった。


 その様子を見て俺は四人の覚悟を知った。



「Be ambitious 大志を抱け」


 俺はそう口ずさんだ。


 誰かが言ったのかを忘れたが、とても良い言葉だった気がする。


 よく考えると俺は現実世界でも目の前の彼らの様な友人もいなかったし、将来はこうなりたいと考えることも無かった。


 ただ、ゲームをしてさえできれば何も要らなかった。


 だからこそ俺は彼らが眩しく映る。


 俺に持っていない何かを持っているキッカ、アイラ、ユキそしてクロスが羨ましい。


「良いだろう」


 俺は呟く。


「そこまでやりたいことがあるのなら、全てを出し切れ」


「では」


 クロスが目を輝かせたので、俺は深く頷いて。


「自分が望むままにやってこい」


「「「「あ、ありがとうございます」」」」


 4人全員が感激した面持ちで同時に頭を下げてきた。


「さてと、これからが大変だぞ。お前達は字が読めるか。それが出来ないと話にもならん。だから明日から特訓だ」


 俺は照れくさかったので踵を返し、これからしばらくお世話になるであろう家に歩を進めた。


 柄にもないことを言ったと自覚している。


 今の俺はきっと変な顔をしているだろう。


 このまま何事もなく自室に閉じこもって暴れたい衝動に囚われて集中力が疎かになった結果。


「大好きー!」


「必ず応えます」


「……一生忘れない」


「ありがとうございます!」



「――おわあ!!」


 キッカ、アイラ、ユキそしてクロスから抱き付かれてもみくちゃにされた。



予告通りクロスが主人公にお願いしました。

けど、失敗した感が否めません。

慣れないことはするものではないと痛感しました。


これで第一部は終了です。

無一文から家を持つまでの流れでしたが、流れが速過ぎたのではないかと反省しております。


第二章入る前に番外編としてアイラ視点でこれまでの流れを紹介したいと考えています。

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