ビッグダディ 前編
正月用の特別編です。
前半部分が出来たので挙げます。
後半も出来次第挙げますので期待しないで待っていて下さい。
俺は王である。
しかも隣国の動向を伺わなければならないような小国の王でなく、大陸の情勢を一変できるほど力のある大国の王である。
そう、俺は偉いのだ。
だから――
「おとーさん、もっともっと」
「あー、つぎはぼくー」
「おとーさん、もうつかれたのー?」
「ぐおおおお……」
ヴィヴィアンの息子――ジグヴィス、ベアトリクスの息子――マルスそしてシクラリスの息子――ヴァイスの3人に押しつぶされるのは間違っている。
「主、一体何をしているのですか?」
顔を上げるとエルファが若干呆れを含んだ眼で見下ろしていたので俺は口を開いて3人の声真似をする。
『夫よ、今日はビアンカと外遊してくるからジグヴィスを頼むぞ』
「なるほど、だから今朝からヴィヴィアン様のお姿が見えなかったのですか」
何でも次世代を担う者として市井の見聞を広めるのが目的らしい。
ヴィヴィアンは本当に生まれついての王だな。
自分は勿論のこと、その子供にまで上に立つ者として相応しい言動を取るよう幼い頃から手解きを行っている。
なのでビアンカはまだ5歳にも関わらず、普通に大人と会話を交わすことが可能だった。
続いてベアトリクスからの言葉。
『我が君、少しカトリーナに教育を施すのでマルスの面倒をよろしくね』
「ベアトリクス様のお部屋から、何やらよからぬ単語が漏れてきます。私が言うのもなんですが、子供にはまだ早過ぎるかと」
ベアトリクスは5歳にもなっていない子供に秘伝の人の心を手玉に取る方法をカトリーナに教授していた。
すでにカトリーナは同年代の子供からベアトリクス秘伝の技術によって骨抜きにしている様子からカトリーナの将来が末恐ろしく感じることが多々あった。
そして最後にシクラリス。
『シャルロットは昨夜から急に熱が出ましたので、今日は付きっきりで看病します。ですのでヴァイスをよろしくお願いします』
「ふむ……至って普通の理由ですが、前の2人の理由が理由なのでとても崇高だと思われます」
「そうだろそうだろ? 一体どこの世界に女王としての心構えや悪女の手解きを行う親がいるんだ? シクラリスの方がよっぽど親らしい!」
始めに理由を聞いた俺は涙が出そうになったよ。これこそ理想の親、そんな変な知識など付けず、シクラリスの様に振る舞うのが正しいんだ。
「と、まあこういう理由で俺は3人の息子を相手にしなければならなくなったんだ」
「何やら嫌な予感がしたので参りましたが、予想通りでしたね」
エルファがそう評する。
「主が嫌でなければ私が3人の面倒を見ましょうか?」
「え? 良いのか? お前もレイファがいるのだろう」
澄ました顔をしているがエルファも1児の母である。
なので俺はエルファの負担を慮ったのだが。
「レイファももう4歳です。そろそろ私が近くにいなくても良い年頃なので心配要りません」
そっけなくそう返された。
レイファは子供の中でも一番大人びており、最も手がかからなかった子供だ。だからこそエルファも他の人の元へよくヘルプに向かっていたのを覚えている。
「そうか、それなら3人をお願いして良いかな。俺は少し皆の様子を見て来る」
3人を引き剥がしなら俺はエルファに言うと、エルファは畏まりましたとばかりに頭を下げた。
「あら、ユウキじゃない。どうしたの?」
俺はキッカの部屋を開けると、暖炉の前に佇むキッカの姿がそこに会った。
「お姉様に何か用でもあるのですか」
ここからは陰になって見えなかったが、ククルスもいたらしい。
暖炉前にある安楽椅子を回転させてこちらを向く。
「何、ちょっとお前たちの顔を見たくなってな」
「あらあら、いきなりどうしたの」
「さあ、俺にも良く分からん」
キッカがクスクスと笑ったので俺は肩を竦めてそう答えた。
「ところでユウカとスゥはどうした?」
キッカの娘であるユウカとククルスの娘のスゥは部屋の中にはいない。
「ユウカとスゥは幼竜が育つ施設で遊んでいます」
するとククルスが俺の疑問に答えてくれた。
「おいおい大丈夫か? いくら幼竜といえども体長は大人のそれと同じぐらいだぞ」
竜の卵は人の顔ぐらいの大きさがあり、そして生後1ヶ月で大人の体重を越える。なので幼竜がじゃれ合ったつもりでもこちらからすると命の危険を感じることがあるので、それを心配したのだが。
「大丈夫よ、ギールが付いているし」
どうやら保護者役としてギールがユウカとスゥを看てくれているらしい。
「まあ、それなら大丈夫か……しかし、やはり2人とも将来は竜騎兵になりそうか」
俺の呟きにキッカが頷いて。
「そうね。ユウカはすでにパートナーを見つけたし、スゥも気になる幼竜がいるみたい」
「幼竜が飛べるようになったら、私達がコーチをしようかと考えています」
「キッカとククルスが指導するのか、それは豪華だな」
最強の竜騎兵とされているキッカと最高の教官と評されるククルスの2人が教えるのであれば、さぞかし相当な乗り手になるだろう。
「ええ、今から心躍るわよ」
キッカが楽しみで仕方ないという風にニッコリと笑ったのが印象的だった。
「えーと……」
廊下を歩いていた俺は前方に進んでいる不可解な光景にどう反応していいのか分からず立ち尽くしていた。
大道芸の玉乗りをしていると言った方が正しいだろう。
直径1mの大玉の上に乗って進んでいるのはオーラの娘――アンナフィリア。その超人的なバランス感覚で危うげ無く、それどころか楽しそうに笑みを浮かべながら大玉を転がしていた。
「どうしましたか?」
「うおう!?」
突然後方から声をかけられて飛びあがる俺。
心臓をバクバク言わせながら振り向くとそこには影が立っていた。
真黒な黒装束と口を覆う頭巾。性別さえ不明な様相にも拘らず溢れ出てくる色気を出しているのは俺の知る限り1人しかいない。
「アイラか、あまり驚かせるなよ」
「申し訳ございません、以後気を付けます」
アイラはそう謝罪した後、腰まで折る丁寧な礼をした。
「ところであれは何だと思う?」
俺は玉乗りをしているオーラの娘を指差すと。
「アンナフィリアはサーカスに興味があるようですので、オーラが教えた一部です」
つまりあれ以外の技も出来るらしい。
オーラもそうだが、アンナフィリアも負けず劣らず器用な娘だなと納得した一幕である。
「私の娘――レイアも何かに興味を持ってくれると嬉しいのですが」
アンナフィリアが角を曲がって見えなくなると、アイラがそう零す。
「ん? レイアに何か悩みでもあるのか?」
俺の質問にアイラは。
「はい。レイアは大人しく良い子なのですが、いかんせん影が薄すぎるのです。前もいつの間にかいなくなり、そしてまたオーラによって連れ戻されるまで私を含めて誰も発見できませんでした」
「おい、それはさすがに冗談だろう」
一体どこの世界にオーラしか見つけられない子供がいるのか。
しかも別に訓練を受けたわけでなく、ただの子供が、である。
「これは本当ですよ。子煩悩になりますが誰にも気に止められず、どこにでも侵入できるレイアは天性の暗殺者でしょう。もしレイアを敵に回せばユウキ様をお守りできる保証がありません」
普段は辛口しか評しないアイラがそこまで言うのは親ゆえかそれとも真実ゆえか俺には分からなかった。
「あら、ユウキ様じゃない」
そんなことを考えている下方からそんな声がかけられる。
見た目9歳、実年齢その倍以上というアンバランスな容姿をした人物はオーラしかいなかった。
「ああ、オーラか。いや、何でもない。オーラこそどうした?」
俺はオーラにそう返すと。
「またレイアが抜け出したので追っていたのよ。で、ようやく見つけたわけ」
「ほう、それはどこに?」
俺が尋ねるとオーラは少々呆れながら。
「ユウキ様もアイラも気付いていなかったのね。ほら、そこよ、アイラの右隣に何かいるでしょう」
言われてから気付いた。
アイラの右足をよく見ると、小さな子どもがトテトテと歩いているのが確認できる。
「……いつの間に」
さすがのアイラも絶句していた。
そして俺達の様子を確認したオーラは溜息を吐きながら。
「私が言うのもなんだけど、どうして赤の他人であるレイアを私しか発見できないの? ここは親のアイラが見つけるべきでしょう」
この時ばかりはオーラに分があったので、アイラは何も言えずにしょげ返っていた。
「……まあ、頑張れ」
アイラに説教しているオーラを尻目に俺はこの場を立ち去って行った。
「ミア、いるか?」
ドアをノックをすると中から返事が返ってきたので俺はドアを開ける。
「ユウキ様か、どうしたの?」
ミアはいつもと変わらずボーイッシュな笑顔を浮かべてそう聞いてきたので。
「いや、なに。コユキとミュウの様子を見たくてな」
「ああ、2人ならそこにいるよ」
ミアが顎でしゃくした先にはコユキとミュウが2人仲良くベッドで眠っている光景が目に入った。
「お昼寝か」
俺はそれを微笑ましい様子で見つめる。
「うん、本当に可愛いよ」
ミアも普段とは違う温かい眼差しを向けていた。
「しかし、ユキの娘をコユキと名づけるのは安易すぎないか?」
「アハハ。ユキらしいじゃないか」
ミアはそうカラカラと笑うが、俺はそう笑えない。
皆が必死に子供の名前を考え、中にはそれだけのためにかつての祖国から名前を募集した猛者もいた中で、唯一ユキだけはその場で考えましたと言わんばかりにコユキと名付けた。
「『……この子は小さいユキ。だからコユキ』と淡々と言ったユキは俺達を戦慄させたな」
当時の状況を思い返してそう呟く俺。
「けど、ボクからすればユキらしいと思うよ」
ミアは一瞬後大爆笑し、そしてユキが嫌がるにもかかわらず頬をすりすりさせていたな。
「それじゃあ、俺はもう行くぞ」
「うん、それじゃあまた」
ミアの返事にそう答えた俺は手を振りながら踵を返した。
「……気が滅入るよなあ」
前からレオナ、そしてクロスがこちらに向かってくるのを見ると俺の心が一気に重くなる。
「同意の上だったとはいえ、本命より先に子供が出来るのは褒められないよな」
クロスとレオナの3人で酒を飲んでいた俺達は何を血迷ったのかそのまま行為に及んでしまった。
あれは失敗した、今でも反省している。
クロスは笑って許してくれたがあれは形だけだ。
しばらく俺と口を聞いてくれなかったのを覚えている。
まあ、ここでは語り尽せないほど愛憎渦巻く劇を繰り広げた後、ようやく和解にまで漕ぎ着けることが出来たから良しとしよう。
最終的に神に全てを押し付けることで納得させた。
全員が妊娠した奇跡に加え、クロスとレオナの子が出来たことがあって何とか収まってくれた。
いやあ、不幸中の幸いとはこのことだな。
あやうく『山』が男女のもつれで崩壊という最悪の事態は避けることが出来たよ。
そして今では前と変わりなく接してくれる、良かった良かった……が。
「おお、ユウキ殿ではないか」
「本当だ、ユウキだ」
レオナとクロスが俺に気付いて手を挙げる。
「こんにちは、それより2人でどうした?」
なので俺も手を挙げて答えると。
「なに、少しユウナと遊んでやろうと思ってな」
レオナが俺との間にできた子供の名を挙げた。
「唯一の女の子だからね、他の子とは別に接してあげたいんだ」
2人がそう答えたので俺はため息を吐きながら。
「ところでお前らは何人子供がいたっけ?」
その質問にレオナは笑いながら。
「ハハハ、ユウナを含めて5人だぞ」
「名前はリオラート、ラルゴ、シーザー、そしてローランだね」
……愛し過ぎだろう。
この4年間で子供5人だなんてどれだけだよ。
しかも恐ろしいことに短期間の間にそれだけの子を産んだレオナは体型が全く崩れていない。
これも元が軍人だったから筋肉があったのかなぁとそこはかとなく考えた。
「まあ、俺は全員を平等に愛してくれるのなら何も言わないがな」
俺がそう言うと。
「ハハハ、何を当たり前なことを」
「全員僕達の子だよ。除け者は絶対作らないから安心してほしい」
2人から間髪なしにそう返ってきたので俺は嬉しくなった。
「そうか、それを聞けて良かった。じゃあ俺は用があるからこれで」
俺はそう言い残して歩を進め、その場を後にした。