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ゲームの世界で第二の人生!?  作者: シェイフォン
最終章 歴史の欠片として
51/55

エピローグ  ゲームの世界

1万字越え……さすがラストだ。

キャラが暴れまわっていたぜ。

 我――イズルガルドはあの魔物大侵攻において活躍した者達が後世においてどのような評価を下したのか、その事実を皆に伝えることとする。


 なお、これからの名前はユウキ殿の遺言として名乗らせた名前でなく、それ以前の名前で呼ぶこととなる。




 カルベルト=キーツ=ダルムンク


 世界を救った英雄。キーツ王族のみが使える『天』を使いこなし、魔王を打ち破った。その後、彼と彼の仲間がどこに行ったのかは不明である。



 メイア=ジャグリング=アルガン  


 英雄の守り手として活躍。その獅子奮迅の働きによって英雄を守ったのは事実であり、多くの歴史家も彼女の存在がなければ魔王のもとへ辿り着けなかっただろうと断言されている。



 フローラ=リバング=アースアニア


 聖女として勇者が魔王を打倒すまでの間、絶望に打ち負けそうになった人類を励まして奮起させた。彼女の功績は歴代聖女の中でも比類なく、多くの人々から中興の祖として崇められている。



 マージ=インスペンデンス


 英雄の剣として数多の魔物をその魔法で屠った。彼女の魔法は『天』と同等かそれ以上とされ、間違いなく歴史上最強の魔導師として記録されている。



「なあ、俺達ってそんな風に記録されているらしいぞ」


「へえ、そうなの。ところで私達はどこら辺にいるの?」


「勇者様、私達は東へ向かっていたはずですが」


「いつの間にか逆の西へ進んでいます」


「……と、とにかくまっすぐ行けばいいんだ!」


「「「それはおかしいわ」」」



 エレナ=グランシリア=イーズルブル


 ジグサリアス王国の筆頭貴族として生涯王家に忠誠を尽くし、民を守った。その生き様から貴族の鏡とされ、後世においては彼女が貴族としての手本となっている。



 キリング=トリアエル


 エレナの補佐としてその力を存分に振るう。公と私をこれ以上ないほど厳しく分別し、理想のナンバー2としてエレナを陰から支えた。



「私はそこまで褒められるわけではないのだがな」


「エレナ様、度が過ぎる謙遜は失礼ですよ。ここは素直に受け取っておくべきです」


「そ、そういうならその名誉を受け取ろう」


「それでよろしいのです」



 ヴィヴィアン=リーザリオ=トルツエン


 ジグサリアス王国『スリークイーン』の内の一人。その溢れるカリスマからユーカリア大陸の諸国全てを引っ張っていく。名目上はジグサリアス王国の女王だが、実質初の世界皇帝として記録されている。



 ベアトリクス=シマール=インフィニティ


 ジグサリアス王国『スリークイーン』の一人。参謀として公式上の記録こそ少ないものの、ジグサリアス王国が諸国の指導的立場を得るために水面下で動いていたのは非公式や民衆の噂などにごまんとある。公式ではないにしろ、彼女が世界を纏めた立役者なのが皆が認めている。



 シクラリス=バルティア=ライソライン


 ジグサリアス王国『スリークイーン』の筆頭。その肩書きの割に目立った功績はないが、彼女の存在が特徴溢れるジグサリアス王国を纏めていたことは周知の事実である。宰相の他にも国家間の問題を解決する委員会の議長も務めていた。



「はっはっは! どうだ、私の実力は」


「何寝言言ってんの? 私のおかげじゃない」


「はいはい、仲が良いのは分かりますけど喧嘩は止めて下さい」


「「誰がこいつと仲が良いですって!?」」


「アハハ、それですよ」


「「……」」



 レア=レグリアス=ツバイク


 ジグサリアス王国の内政責任者として腕を振るう。『悠久のまどろみ』と名高い平穏な世紀を作り上げたのは彼女の行った統治法によるものが大きい。



 フィーナ=レグリアス=ツバイク


 ジグサリアス王国の筆頭外交官として各国を飛び回り、調整を果たしてきた。魔王亡き後に各国が領土侵略を行わなかったのは彼女の働きによるものである。



「発案者ではないのに私の功績になっているって……」


「気にする必要はないわよ。今は私達が間違っていなかったことを喜びましょう」


「そうね。たまには姉さんも良いこと言うじゃない」


「『たまには』って何よ! 『たまには』って!」



 サラ=キュリアス


 当代一の鍛冶師としてその力を存分に振るう。彼女が生み出した新技術や作品によってユーカリア大陸の技術レベルは50年ほど早まったと言われる。そして、後年の産業国家ジグサリアスとしての下地を作った。



 ヒュエテル=クーラー


 魔王の侵略によって親を失った孤児の保護・教育に全力を尽くす。その献身的な姿から後年、彼女は孤児院の象徴的な存在となった。


「うーん、私としては、私より師匠のことを褒め称えて欲しかったんだけどな」


「あらあらサラちゃん。ついに他人のことを考えられるようになったのね」


「……ヒュエテルさん。まだ私をちゃん付けなのね」




 エルファ=ララフル


 ジグサリアス王国のメイド長として働いているメイドに教育を施す。ジグサリアス王国の要人が暗殺された歴史が無いのは偏に彼女の教育によるものが大きい。ゆえに各国にあるどのメイドの心得の教科書にも必ず彼女の名が記されている。



 ティータ=エルマライ


 各国を飛び回るフィーナの代わりに国内で外交の総責任者として諸国に滞在している外交官の調整を行っていた。目立たない仕事だが、彼女の働きによってフィーナが存分に腕を振るうことが出来たとされている。



「私の名が残ってよろしいのでしょうか」


「ん? 何か不都合なことでもあるの?」


「ティータにも隠していましたが、私は実は――」


「暗殺者でしょ。でも、それは過去の話だから気にする必要はないわよ」


「知っていたのですか。まあ、それでも知らない風に振る舞うのはティータらしいですね」



 キッカ=エメラルドグリーン=カザクラ


 魔物大侵攻から魔王が打倒されるまでの間、遊撃兵として数多くの人間を窮地から救った空の英雄として呼び名が高い。彼女の舞は他の竜騎兵と一線を画し、魔物ですら見惚れるものだったという。



 ククルス=トパーズイエロー=フォンテジー


 用兵術に優れ、空での戦法というのを根本から覆した者として戦術の教科書には必ず名前が出る。また、全体を見渡す能力も長けており、彼女がいなければキッカの活躍は半分も無かっただろうと評されている。



 ギール


 キッカの愛竜。その獰猛な性格から周りの竜より恐れられていたが、それに見合うだけの力量を持ち、この竜だからこそキッカが神技と呼ばれる動きが出来たのだと言われている。



「うーん。私ってそんなにすごいかなあ?」


「何を言ってるんですか!? 私からすればこれでもまだ足りないぐらいなんですよ!」


『その通りだ、我とキッカの評価が低すぎる』


「まあ、そこまで言うんだったらそういうことにしておきましょうか」



 アイラ=サファイアブルー=カザクラ


 魔王の居場所を突き止め、例え移動しても勇者がすぐに捕捉出来たのは彼女の偵察力ゆえである。諸国の誰もが彼女を恐れ、裏ではアイラの首を取った者に多額の賞金を与えられる触れ込みが出されたらしい。


 

 オーラ=アメジストパープル=ユクエリス


 ジグサリアス王国の立場を脅かす不穏分子の除去に全力を尽くす。ジグサリアス王国の繁栄を裏で一手に支えてきた存在とされている。



「『らしい』の推測でなく実際に行われていたのですがね」


「まあ、アイラは強すぎて恐ろしいから仕方ないのかも」


「笑うのは結構ですが結果から見るとオーラの方が恐ろしいのですが」


「アハハ、それは光栄かも」



 ユキ=ルビーレッド=カザクラ


 事故により半身不随となっていたが、ある日突然立ち上がれるようになった。弟子であるマージの陰に隠れがちだが彼女の力量も相当なものであり、彼女の魔物撃退数は他の魔導師より2、3桁違っていた。



 ミア=ガーネットオレンジ=ヴァルレンシア


 最強の魔導騎士団『火』を率いる者としてその名を轟かす。オーラが陰だとすればミアが表からジグサリアス王国に敵対する者を葬っていた。



「……ミア、凄いね」


「ユキがボクを褒めた!? 何か変なものでも食べたのかい?」


「……」


「冗談だよ冗談。だから怒らないでぇ」


「……プイ」



 クロス=ダイアモンドホワイト=カザクラ


 大同盟によって編成した軍の元帥を務め、その見事な指揮で魔王による被害を最小限に抑えることが出来たとされている。しかし、クロス以外この異種混合した軍を本当に纏め上げるのは不可能だったのか、未だに結論が出ていない。



 レオナ=ジルコンクリア=カリスリン


 クロスの副官としてルール将軍と共に軍の統率の補佐をした。魔王亡き後は正式に軍を引退し、クロスの妻として家庭内に収まったとされる。しかし、文献の記述によると時々軍の調練に顔を出していたらしい。


「『時々』じゃなくて『いつも』だけどね」


「まあ細かいことは気にするな、私がいなくなったことで軍が腑抜けになっては困るからな」


「でもレオナのおかげで『山』の練度を維持できたのは事実なんだなこれが」


「だろ? それなら良いじゃないか」



 ユウキ=ジグサリアス=カザクラ


 全ての始まりとされ、彼がいなければ人間の歴史が終わっていただろうと推測される。が、勇者と聖女の存在を神格化する目的と、浮浪児が王にまで上り詰めるのは統治上好ましくないという2つの理由から徐々に彼の功績が削られていき、現在では『彼は本当に実在したのか』と、存在自体が疑われている。



「……」
































『ユウキよ、聞いておるのか』


 イズルガルドの少し怒ったようなテレパシーによって玉座に頬杖をついてうたた寝をしていた俺はまどろみの状態から覚醒する。


「ああ、すまない。少し寝ていた」


 俺ははにかみながらそう言うと、どこからか呆れた様なテレパシーが伝わってくる。


『ユウキよ。一体ここはどこなのだ?」


 神様から提示を受け、自分がここに来るよう願ったはずなのだがイズルガルドは戸惑っているらしい。まあ、俺もそうだったし、キッカやアイラでさえも動揺していたからな。


「ここはゲームの世界。俺が立派に役目を果たしたから褒美として神が俺に贈ったユーカリア大陸に似た世界だ」


『ゲーム……』


「まあ、俺がいた国ではゲームという物があり、そこにはキャラクターがたくさんいるのだが決まった受け答えしかしない。それと同じでこの世界の住人は何をしても同じ反応しか返してこないな」


『ふむ、それは少々退屈だな』


「確かに昨日と同じ今日が永遠に続く世界だからその通りかもしれない。しかし、本当に嫌なら願えば良い。そうすればイズルガルドはこの世界から消え、輪廻の輪に戻れるぞ」


『いつかはそうするだろうが、今のところはお主と共に過ごしたい。だからこそわしは望んでこの世界に来た』


「その言葉はここに来た全員が同じことを言うんだよな。俺からすれば誰か1人ぐらいそのまま転生すると思っていたのだが」


『お主よ、そなたはもう少し自分の存在を自覚した方が良い。お主が死んでから彼女達の嘆きが如何ほどであったか』


 その言葉に俺は苦笑して。


「いや、十分すぎるほど理解したよ。何せ俺に会った瞬間皆は怒るわ泣くわ喜ばれるやらで大変だった。しかもそれが23人分なのだからそれはもう……な」


『ハハハ、女泣かせのお主にとって良い薬じゃ』


 イズルガルドの笑い声が頭に響いた。


「さて、イズルガルド。ここに来たばかりで悪いのだがカルベルト達を迎えに行ってやれないか? 多分また迷っていると思うから」


『そんなことはお安い御用じゃ』


 イズルガルドは了解したらしく、テレパシーを切ってカルベルト達を迎えに行った。




「さて、俺もそろそろ起きようかな」


 俺はそう呟くと同時に玉座から立ち上がり、体の凝りを解すために伸びをした。


 そしてそのまま広間から出ると、何やら憤慨した様子のアイラとオーラが見える。


「アイラとオーラか、どうした?」


「どうもこうもありません。ユウキ様があんな不当な評価を受けているのに、この憤りを抑えることが出来ますか」


「そうね、さすがにこの時ばかりはアイラと同意見だわ」


 どうやら2人は俺の存在を抹消された歴史が気に食わないらしい。


 俺の代わりに怒ってくれるので俺は知らずに苦笑する。


「まあ、それが後世の人間が選んだ選択なら俺は何も言わないな」


「ユウキ様、それは甘すぎるのでは?」


「アイラと同感」


 2人は俺の答えに呆れていたが、俺はそれ以上何も言わずに歩いていく。


「ああ、そうだ。イズルガルドが4人を連れて来たらパーティを開くから中庭で待っておいてくれ」


 最後に俺は振り向き、そう2人と約束をした。




 バルコニーへと向かうと、そこにはキッカとククルスがギールに跨り、出発しそうな場面が待っていた。


「おーい。キッカ、ククルス。イズルガルドが向かったから2人はいかなくていいぞ」


 その言葉に振り向く3人。


「あら、そうなの。それなら行く必要はないわね」


 キッカは軽い身のこなしでヒラリと降りる。


「う~、せっかくお姉さまの背に堂々と抱きつけるかと思ったのに」


 対照的にククルスは恨み言をブツブツ言いながらゆっくりと地面に足を着けた。


「イズルガルドか……彼も来たのね」


 キッカが感慨深そうにそう呟く。


『……俺はあまり会いたくないな』


 ギールはイズルガルドと聞いて背中を丸めて拒否反応を示した。


「まあ、イズルガルドからすれば里を守る役目を果たさずキッカの後を追ったのは長老の立場からすると褒められないな」


「こらこらユウキ、あまりギールを苛めない。大丈夫よ、イズルガルドにはククルスが弁護するから」


「お、お姉さまの偉大さを余すことなくしっかり伝えます」


 ククルスが俄然と張り切っていたので俺は「気合が入りすぎて空回りするなよ」とだけ忠告しておいた。




 バルコニーから引き返し、俺は図書室に向かって歩いていく。


 そのドアを開けると目論見通りお目当ての人物達がいた。


「ユキとミア。お前らは本当に仲が良いな」


 そこにはいつも通りミアがユキを膝に乗せて本を読んでいた。


「……私は迷惑」


 いつも通り無表情のユキだが、頬がかすかに赤いことから見られたことが恥ずかしいのだろう。


「ボクは満足」


 ユキとは対称的にこの世の至福とばかりの笑顔を見せるミア。


「じゃれあうのは構わないが、そろそろ中庭に集合してくれよ」


「うん、了解。さあユキ、ボクが抱っこしてあげるよ」


「……一人で歩ける」


「いやいや。そうかもしれないけど、ボクは長い間ユキと触れ合えなかったんだ。だからそれまでの分を取り戻しておかないとね」


「……自分勝手」


 ユキが必死に抵抗しているが、おそらくミアによって抱っこされて現れるだろう。ミアはああ見えて強引なところがあるし、ユキも何だかんだ言って甘えたがりだからな。


 ワイワイ言い合っている2人をしり目に俺は図書室のドアを閉めた。



 

 鍛錬場に足を向けるとそこには剣を打ち合っているクロスとレオナの姿があった。


 男と女だからクロスが優勢だろうと思っていたが、意外なことに戦いは拮抗している。


「そこっ!」


 レオナの鋭い一閃とともにクロスは持っていた剣を取り落してしまった。


 思わずパチパチと拍手する。


「おお、ユウキ様。これは気づきませんでした」


 持ってきた手拭いで汗を拭きながらそう答えるレオナ。


「ユウキか、どうしたの?」


 クロスは剣の手入れをしながらそう訪ねてきたので俺は用件を簡潔に伝える。


 すると2人とも頷いて了承してくれた。


「いや、すごいな。あのクロスに勝つとは」


 俺は先ほどの試合について称賛すると。


「ハハハ、あれぐらいチョロイものだ」


 レオナは天狗になり。


「レオナが勝つまで勝負を続けたくせに」


 クロスはじと目でレオナに釘を刺した。


「うっ……しかし、まあ良いではないか。こうして剣を打ち合えるなんて久しぶりだったんだ」


 クロスに責められたレオナは多少怯んだものの、すぐに調子を取り戻してクロスの背をバンバンと叩く。


「とにかく、遅れないようにな」


 2人の夫婦漫才についてそう締めくくった俺は踵を返して鍛錬所から出て行った。




 次に向かう先は遊技場。


 多分そこにはレアとフィーナが遊んでいるはずだった。


「よしっ、次は私が先行ね」


 ビリヤードの台でバンキングに勝ったフィーナが嬉しそうに宣言する。


「しかし、それに勝ったからと言って勝負に勝つとは限りませんよ」


 力加減を失敗して所定の位置に止められなかったレアが悔しそうに言い放った。


 この2人――意外にもゲームの腕はほとんど同じで、どのようなゲームでも引き分けかそれに近い形の戦績だった。


「おーい。レア、フィーナ。そろそろゲームを終わりにしてほしいのだが」


「あら、ユウキ王じゃない。ゲームの中止ってもしかしてイズルガルドが来た?」


 フィーナの言葉に俺は首肯する。


「そうならばゲームをしている場合ではありませんね。すぐに向かいましょう」


 レアはラッキーとばかりにキューを所定の位置へ戻した。


「しかし、イズルガルドって来るの早すぎない? 私がここにきて余り経っていないのだけど」


 そのフィーナの疑問にレアが。


「姉さん、ここは時間の流れが違うの。私より少し遅れてきた姉さんがあんなに長く生きていたなんて信じられないわ」


「あ、そうか。ごめんね」


 フィーナが舌をペロリと出す様を見てレアが一言。


「まだボケ老人の時分を引きずっているのですか?」


「失礼なことを言わないの!」


 レアの冗談にフィーナが爆発する様子から本当に2人は変わらないなと感じる。


 2人が喧嘩をしているのを見て苦笑した俺はその場を立ち去って行った。




 鍛冶場へと向かう途中に偶然ヒュエテルさんと出会う。


 聞けば自分もサラを呼びに行くところらしい。


「多分サラちゃんは鍛冶に没頭して出てこないでしょうから」


 ヒュエテルさんの言葉に俺は苦笑する。


 あの鍛冶に命を懸けているサラなら容易にありえそうだったからだ。


「しかし、まあ。あんなに打ち込まなくてもいいだろうに」


 サラはここに来て俺に一通りの感情をぶつけた後、鍛冶場へとすっ飛んで行った。


 それはもう弾丸と見間違うが如くの様子で。


「仕方ありません。サラちゃんは晩年目が不自由になり、鍛冶を出来ませんでしたから」


 するとヒュエテルさんはその頃の訳を語り始めた。


「鍛冶が出来なくなったサラちゃんは本当に火が消えたようでしたよ。顔から生気が抜け、食欲もなくなってすぐに逝ってしまいました」


 ヒュエテルさんはサラの最期を看取ったのだろう。あの柔和な微笑みのヒュエテルさんが悲しそうな表情を浮かべるぐらいだから、当時は相当辛かったのではないかと容易に想像できる。


「いや、違うのですよ。これはあくまで当時の話であって、ここに来てからはそんなことなどありません」


 するとヒュエテルさんは俺ががしんみりしていることに気づいたのか慌てて弁解を始めた。


 俺はその様子がおかしくて思わずクスリと笑ってしまった。


 そうこうしている内に俺とヒュエテルさんは鍛冶場の前へと到着する。


 俺が第一声をどうしようか迷っていると、突然向こうからバタンとドアが開いて俺の顔面を直撃する。


「ついに全員が揃ったのですね! 分かりました、すぐに片づけを始めます!」


 俺が悶絶している横でサラはあの時と変わりないきれいで純粋な笑みを浮かべてまたドアを閉めた。


「……えーと、サラちゃんに悪気はないのですよ?」


 さすがのヒュエテルさんもそれぐらいにしかフォローできなかったようだ。




 サラをヒュエテルさんに任せて俺は広場に向かっていると、先に歩いている2人が目に入る。


 その真っ赤な髪と亜麻色の髪の2人は俺の記憶の中だと1つしか該当しない。


「エレナ子爵、そしてキリング。少し待ってくれ」


 俺が2人を呼び止めると始めは誰だとばかりに燻しげな表情を作っていたが、俺だと分かるとすぐに改める。


「ユウキ王ですか。もしかして中庭に?」


 エレナ子爵の問いに俺は頷いた。


「しかし、ユウキ王はまだエレナ様を子爵と呼ぶのですね」


「まあ、俺の中ではエレナ子爵はエレナ子爵だからな。どうもそれ以外はしっくりこない」


「これでもエレナ様は侯爵の地位まで上り詰め、多くの貴族の指導的立場に立ったお方なのですよ」


「うん、それはイズルガルドが教えてくれたが、改めて聞くとすごいな。本当に俺の下についていたのが不思議なくらいだ」


「ご謙遜をユウキ様。私など若輩者で、キリングがいなくなってからは2年で退きました」


「そこが私の不満点なんですよね。私などいなくても十分偉大な方なのに、どうして引退したのか」


「何を言っているのか、私があんな大役を務められていたのはお前がいたからこそ。影のない実体は幻のように、キリングを喪った私は私でなくなってしまったのさ」


「エレナ様……」


 ……何というか間に立ち入ってはいけない空気が辺りに満ちる。


 だから俺は適当にお茶を濁してエレナ子爵とキリングの2人から距離を置いた。




 ふと厨房を除くとそこは戦場だった。


 エルファが特注の大なべを使って料理を作っていくのだが、あんな人の子供ほどありそうなフライパンを片手で操っている様子は圧巻だ。


「はいはい。ボク、ちょっとごめんね」


 ティータさんが後ろからそう声をかけた後、俺の後ろを通って厨房へと入っていく。


 どうやらエルファが料理、ティータさんが運ぶ役割らしい。


「主ですか?」


 包丁で食材を斬りながらエルファは背を向けたまま俺に問う。


「もう少しで料理ができます」


「ああ、見れば分かる」


 食材を斬り終えたエルファは流れる手つきで次の作業へと移った。


「あれ以来、私は料理の腕をあげました」


「へえ、そうなのか。それは楽しみだ」


 と、ここでエルファは作業を止めて俺の方を見る。


「これから毎日作って差し上げますよ」


 その人形の様な整った顔に魅惑の笑みを浮かべてそう囁いた。


「そういえばティータさんは料理を作れないのか」


 ちょうどタイミング良くティータさんが入ってきたので俺がそう聞くと。


「何言っているの? エルファに料理を教えたのは私よ。まだまだエルファには負けないって」


 笑顔でそう返してくる。


 そしてそれに反応したのがエルファ。


「ティータの知っている私はそうでしたが、ティータが逝って以来の私はあの時と比べ物にならないくらい料理の腕を上げましたよ」


「へえ、それは楽しみね。じゃあ今度勝負しましょうか」


「良いですよ。味の審査は全員でしてもらいましょう」


 それっきり2人の会話は終わり、エルファもティータさんも作業を再開させる。


「少し楽しみだな」


 広場に向かう途中、俺はエルファとティータさんの料理を想像して知らず涎を垂らした。




「お前らはもう先に来ていたのか」


 視線の先にはベアトリクス、シクラリスそしてヴィヴィアンの3人が先に待っていた。


 ちなみにベアトリクスは淡青のドレスを、シクラリスは純白のメイド服をそしてヴィヴィアンは派手な真っ赤なドレスを着ている。


「フフフ、私の成果を皆に伝える時が来た」


「また妄言を、ヴィヴィアン一人なら単なる道化よ」


「ベアトリクスの様な腹黒よりましだろう」


「むう、言う様になったわね」


「まあな、これでも私はお前より長く生きていたんだ。これぐらいの余裕はある」


「けど、その奇抜なセンスは変わらないわね」


「どこが奇抜だ!」


 そう言って2人は口喧嘩を始める。


 本当に2人は変わらないなあと呆れていると隣にスススとシクラリスが寄ってきて弁明を始めた。


「ああ見えてベアトリクス様が亡くなった際に一番悲しんでいたのはヴィヴィアン様ですよ。カトリーナ様を見るたびに遠い目をし、そして亡くなる間際もベアトリクス様の名を呼んでいましたから」


「……そうか」


 シクラリスの話を聞いて俺は何も言えなくなってしまう。


 そして俺はシクラリスに目を向けて。


「お前が最後だったらしいな。旧知である仲間が先に逝くのを見てお前はどう思った?」


 俺のその問いにシクラリスは様々な感情を瞳に浮かべ、そして沈黙の果てに出た言葉が。


「……とても辛かったです」


 言葉静かにそう絞り出した。


「でも、今は違いますよ。こうして皆と会えて私は本当に幸せです」


 その屈託のない笑顔から嘘偽りなどでなく、本心からそう言っているのであろう。


 それを見た俺は幾分か心が軽くなる。




「おーい!」


 城内にいた全員が中庭に揃い、後は4人の帰りを待つだけになると、上から威勢の良い掛け声が聞こえたので俺は顔を上げると、そこにはイズルガルドとその背に乗っている4人の姿が見えた。


「ちゃんと魔王を打倒したぞ!」


「王の仇を取りました!」


「勇者様の跡継ぎについては心配いりません」


「ユウキさん、師匠はお元気ですか?」


 口々に己の為したことを繰り返す4人。


 全く、それはお前らがここに来た時から皆に話しているだろう。


 どれだけ自慢したいんだか。




 そしてイズルガルドが中庭に降り立つ。


 キッカやアイラ、ユキ、クロス、ティータさん、ヒュエテルさん、サラ、エルファ、レア、フィーナ、ククルス、オーラ、ミア、レオナ、エレナ子爵、キリング、ベアトリクス、ヴィヴィアン、シクラリス、カルベルト、メイア、フローラ、マージ、ギールそしてイズルガルドと俺が関わった全員がこの中庭に集まった。


 やはり乾杯の音頭は俺が取るべきだという意見が出たので俺は盃を掲げる。ちなみにギールとイズルガルドは手を器用に使って樽を持ち上げていた。


 さて、これが締めの言葉だ。


 俺はコホンと一つ咳払する。


「数多の英雄達よ。労苦を分かち合った仲間と共に今は存分に楽しんでくれ……乾杯!」


「「「「乾杯!」」」」


 全員による唱和がこの中庭に響き渡った。

これで終わりです。

本当にありがとうございました。




なお、次回作の予定ですが。

先日に連載していた「ruck -9999」を大幅に改稿します。

具体的にはキャラ名など「ゲームの世界で第二の人生!?」を払拭した内容へと改稿します。


ただ、卒業研究のためすぐに執筆へ取り掛かれませんので、不定期更新になることをご了承ください。

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