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ゲームの世界で第二の人生!?  作者: シェイフォン
最終章 歴史の欠片として
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その器、まだ未熟なり

 あれから3年の月日が過ぎた。


 俺が下したあの決断が正しかったのかどうか分からないが、少なくとも世界の延命は図ることが出来た。


 魔物大侵攻によって大陸人口の半分は削られてしまったが、それで済ませることができたのは誇るべき点だろう。


 と、言ってもユーカリア大陸の西側諸国はすでに壊滅的であり、魔物の領域はじわじわと東へと侵食していってるのだから安心するにはまだ早いがな。


 表向きはラブレサック教国がトップなのだが、それを信じている者は余程傾倒した信者しかいなく、奴隷や浮浪者であってもこの大同盟の実質的トップというのが知れ渡っていた。


 まあ、浮浪児だった俺がそんな立場にいることを快く思わない王もいるにはいるのだが、それを表だって言うことが出来ないのだが現状だ。


 何故なら、ジグサリアス王国が同盟に動いたからこそここまでの被害で抑えられることができたのは周知の事実なのだから。


 そして俺は今、ジグサールで何をしていたかというと。


「おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない」


「勝手に殺すな! そして俺はまだ負けてねえ!」


 魔王を打ち倒すはずの勇者――カルベルト=キーツ=ダルムンクがクロスにボコボコにされたので、その屍に向かってそう言い放っていた。


 15歳の少年らしい体つきで、筋肉はそれほども無いのだから負けて当たり前だが、それでもそのことを言い訳にしない。


 金色の髪と碧眼であり、全体的に整った顔つきからクールな容貌を見せるが、その中身は熱く、負けず嫌いな性格をしている。


 カルベルトはミドルネームに王国名が入っている通り、キーツ王国の王族である。


 キーツ王国は森林が豊かな国で、年間多くの観光客が訪れる国だった。


 そして、永世中立を誓っているので反ジグサリアス同盟に参加しなかった数少ない国でもある。


 どの同盟に組みせず、ずっと中立を保ち続けることが出来るのは、偏にキーツ王国の王族のみが持つ力ゆえである。


 これは不可思議な力で、火や風など7大属性のどれにも属さない属性を操ることが出来る代物だ。


 その属性をあえて呼ぶなら『天』だろう。


 その力は絶大で、昔侵略してきたある国の軍をたった一人で壊滅させた事例もある。


 『天』を現代風に表すと核兵器だな。


 その威力の前には万物が塵芥となり、大地を砕き、海を割り、そして天空さえもその形を変えるという。


 その圧倒的な力を持つがゆえにキーツ王国には厳しい戒律があり、さらにどの国からの侵略も侵攻もすることがなかった。


 まあ、それでも負ける時は負けるんだがな。


 今回の魔物大侵攻によってカルベルト以外の王族は助けられなかったのだから。


 本当に組織だった行動というのは恐ろしいと感じる。


「くそっ、もう一回だ。俺はまだ負けていない!」


 すでに体中痣だらけな上に肩で息している様子から、もう限界近いことは分かるのだがそれでもクロスと手合わせを願う。


「ええと、どうするユウキ?」


 クロスもこれ以上相手にしても時間と労力の無駄だと分かっているのだが、この闘志溢れるカルベルトを前にすると中止と言えないようだ。


 だから俺はため息をつきながらカルベルトの肩に手を置いて。


「今日は終わりだ。次の訓練はまた明日にしてくれ」


 そう簡潔に述べる。


 無論カルベルトは反対するが、俺が少しカルベルトの肩を強く握ると彼は顔を歪めて剣を取り落とした。


「ほら、もう体も無理だって悲鳴を上げているだろ。体を壊さない内にもう休め」


 が、カルベルトは首を振って「まだやれる」と繰り返す。


 どうしてここまで執着するのかというと、それは両親の復讐からきている。


 魔物は『天』の恐ろしさを知っていたのか分からないが、魔物大侵攻の際においてキーツ王国は重点的に攻められていた。


 救援に赴く際、これまでの戦いにおいて無傷であった『風』や『火』からも死傷者が出たことから、如何にキーツ王国の救援が苛烈な戦いだったのか分かるだろう。


 ここから先はキッカの報告だが、キーツ王国の王族は長男であるカルベルトをこちらに任し、残りの王族はキッカ達の囮として残って最後まで戦ったらしい。


 カルベルトは両親と妹の肉親3人を失って孤独の身となった辛さを俺には想像できない。


 だからこそカルベルトは俺やクロスの言うことなど耳を貸そうとしないのだろう。


 仕方ない。


 こういう時は彼女に任せるか。


 俺は近くにいた衛兵を呼び寄せようとしたのだが、それより先に目的の彼女がこちらへ走って向かって来ていた。


 その少女は14歳なのだが、全体的にスラッと伸びており、ショートカットにした赤い髪や少し鋭い目つきから実際より年上に見える。その少女は瞳に怒りを浮かべて。


「ああ、ちょうど良かったメイア。カルベルトをと――」


「何やってんのこのバカが!」


 俺がその先を続ける前にその少女――メイア=ジャグリング=アルガンはカルベルトにドロップキックを放った。


 突然の出来事にカルベルトは受け身も取れず、もんどりうって転がる。


「あんたはまた恩人に迷惑をかけているわね! もう少し自分の力量を鑑みなさい! しかもそんなボロボロの状態で頑張っても他人に迷惑を掛けるだけよ! それとも何? 俺はこんなに頑張っているんだぞっていう自己アピール? はっ、下らない。盟主や大将軍に迷惑だからさっさと去りなさい!」


 流れる様に捲し立てるのはカルベルトの幼馴染であるメイア。


「う、煩いメイア。お前に俺の気持ちが分かるも――」


「分かっているわよ。私だって両親や兄を殺されたのよ。何もできない無力さなんて嫌というほど理解しているわ」


 カルベルトは痛む箇所を摩りながらそう反論しようとしたが、それより先にメイアが声のトーンを落としてそう呟く。


 メイアの家はキーツ王国の侯爵であり、小さい頃からカルベルトと付き合っていた間柄である。


 そして、メイアの両親もカルベルトの両親と同じくキッカ達を逃すために最後まで残って闘っていた。


 そしてメイアはカルベルトの前に跪き、その頬に手を当てて。


「カルベルトはキーツ王国の希望なの。死んでいった者が今のカルベルトを見たらどう思う? そんな自分を痛めつけているのを見てもお父さんやお母さん、そして妹も悲しむわ」


 俺やクロスが何を言ってもカルベルトは聞かないが、同じ経験をしたメイアの意見は聞く。


 メイアの言葉によって冷静さを取り戻したカルベルトはゆっくりと立ち上がり、俺とクロスに頭を下げた後、闘技場を去って行った。


「……悪いな、メイア」


 カルベルトを押し止めたメイアに俺はそう礼を述べる。


「いえ、むしろこちらが謝らなければなりません。申し訳ありません盟主様。カルベルトは3年前のあの一件によって人が変わってしまいました。本当は心優しい人なんです。今はただ復讐に囚われているからあんな――」


「安心しろ、分かっているから」


 メイアの弁解を俺は手を振ることで終わらせる。


「12歳という多感な時期に肉親を失えば誰だってああ言う風になるだろう。まあ、3年経っても一向に収まる気配が無いのは心配だが、俺はあまり気にしていないから心配するな」


 俺の言葉でメイアはホッと安心した。


 このまましんみりするのもあれなので俺は話題を変える。


「そちらはどうだ? 聞くところによるとルール将軍と打ち合っていたそうだが、その感想は?」


「まだまだですよ。まだ10本中3本しか取れません」


 あっけらかんとそう答えるメイアだが、実際にやっていることは笑えない。


 ルール将軍は元リーザリオ帝国の勇猛な将軍だったがゆえに、その力量も侮れない。


 その実力はクロスと同程度なので、簡単に考えてもメイアはクロスと闘っても10本中3本は取れる計算になる。


 ちなみにカルベルトはクロスから一本取るどころか利き腕でない左手一本で相手にしていることから、メイアの実力というものが分かるだろう。


 まあ、メイアはカルベルトの剣として活躍していたからそれぐらいの力はあるだろうな。


「カルベルトはあんなに頑張らなくても私が守ってあげるのに」


 そんなことを呟くメイアだが、俺からするとメイアが強すぎるからカルベルトはムキになるのだろう。


 俺はもう慣れたから何とも思わないが、やはり年頃の少年としては女に守られるという事実が耐えられないのだな。


 カルベルトの本来の役目は剣を持って戦う兵士でなく、敵の軍団を殲滅させる戦略的兵器なのだからメイアと張り合う意味はないのだけど、やはり男としてのプライドが邪魔をしている。


「それにしても、どうしてカルベルトはあんなに自分を酷使するのでしょうか」


 それはメイアが強すぎてカルベルトに立つ瀬が無いからだよ。


 とはもちろん言えなく、腕を組んで唸っているメイアを俺とクロスは何とも言えない目で見守っていた。

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