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ゲームの世界で第二の人生!?  作者: シェイフォン
間章 三国統一前後
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弱者

 破城槌が城門を叩く音がこの玉座にまで聞こえる。


 今、この場には私と側近――ワークハードの2人しかおらず、他の者は逃亡したかそれとも捕えられたかのどちらかであろう。


「フォルター宰相……」


「分かっている」


 私の教育係であり今は知恵袋として私を支え続け、すでに初老の域にさしかかっているワークハードが言い難そうにしている事柄がなんなのか私にも十分理解できた。


 王都カリギュラスの門は『林』と名乗る部隊によって大した抵抗もできずに開け放たれてしまった


 そして必殺ともいえる街中を火の海に変え、奴らを混乱させる策を用いても奴らはしっかりと統率され、逃げ惑う住民の中に潜んだ刺客さえも冷静に対処してみせた。


 城を守る近衛騎士隊もあのキルマークが率いる王国騎士団を破ったジグサール騎士団の前に手も足も出ないのは明白。


 しかも聞くところによるとジグサリアス王国はシマール王国のほかにバルティア皇国とリーザリオ帝国を同時に相手をしているとの報告も入ってきている。


「なあ、私はどこで間違えたのだろうな」


 ワークハードに問うが何も返ってこず、重苦しい沈黙が辺りに横たわる。


「国を守るために妹を謀殺しようとし、仲間であった貴族の大半を失い、弟のキルマークを戦死させ、さらに王都を焦土に変えても撃退しようとしたにも拘らず上手くいかなかった……ハハハ、もう笑うしかないな」


 これまでの行動を振り返るともはや自嘲しか出てこない。


 国のためだと思ってした行動がすべて裏目に回り、今はシマール国の終焉を迎えようとしている。


「リーザリオ帝国が攻めてきた時、私は己の迂闊さを呪った。おそらくあの甘言に惑わされて妹を謀殺した罪をカザクラ男爵に被せてしまったから道を踏み外してしまったのだろう」


 あの時はああするしか手段は無かったのだ。


 騎士団は貴族を嫌い、貴族も騎士団を嫌っている。


 国が疲弊していっているにも拘らず、自分達は王宮で泥沼の争いを続けていた。


 そんな不毛な争いを止め、国のために尽くしたいという想いは兄弟ともあるのだが、お互い彼らの後ろ盾がないとまともに発言すらできない立場。


 そんな中、一人の者がある意見を出した。


 それは近年急成長したカザクラ男爵に末っ子であるベアトリクスを謀殺したとすれば2人は共通の敵が出現したとして纏まるのではないかということだ。


 骨肉の争いを止められるのであれば是非もない。


 キルマークも賛同していたから悪いとは思いつつ妹は死んでもらうことに決まった。


 妹は王宮内の誰の派閥からの後ろ盾が無いのでいなくなったところで大して影響はなく、さらにカザクラ男爵も一介の浮浪児が由緒ある者よりも力を持っていることが気に入らない貴族が多かったので、目論見は成功して私はキルマークと再び手を取り合うことが出来た。


 しかし、ここで予定外のことが起きる。


 謀殺するはずの妹がある『草』の手引きによって我々の手から逃れてカザクラ男爵の領地へと逃げ延びたことだった。


 カザクラ男爵は国のために死んでもらう予定だったから別にどういうことはないと踏んでいたのだが、その目論見は甘かった。


 あの妹に参謀としての才能があることを見抜けず、私は味方である貴族の大部分を失う結果に終わってしまった。


 そのことに激昂した貴族は王国騎士団の総力を挙げて弔い合戦を行おうと提案したのだが、キルマークが反対する。


 キルマーク曰く、ジグサールの騎士団は3回も負けており、先程の敗北も貴族達の油断があったから起こってしまった悲劇だという。


 ここで総力挙げてしまえばこちらは後世まで大人気ないと評される可能性があるので、向こうが宣伝している通り3万で迎え打てば良いと述べた。


 さすが名誉を重んじる騎士団の畑から育った者の意見だと考えたのだが、それだと貴族達の気が済むわけがなく、何としてでも自分達の同胞を多く殺したカザクラ男爵の一派を完全に粉砕したいようだった。


 いつまで経っても議論に終わりがなく、辟易していた頃に妹の謀殺を甘言した者が手を挙げたのだ。


 彼の発言は驚くべき内容だった。


 彼はリーザリオ帝国やバルティア皇国など国境と接する兵も呼び寄せてシマール国の全兵力を叩きつけ、それによってシマール国の盤石さを国の内外に知らしめるというものだった。


 そうなると他国からの侵略も懸念されていたのだが、向こうは3万しかいなく、こちらは50万以上なのであっという間に決着が付くと言う意見も出た。


 血気盛んなキルマークがその意見に乗り気だったが、その50万を集めてもロクな連携が取れないので、妥協案としてすぐに連携が取れるほど練度の高い兵で構成した6万で迎撃することに決まった。


 今となってはもう遅いが、あの者はリーザリア帝国と繋がっていたのだろう。


 リーザリオ帝国とバルティア皇国が侵略してきたという報と同時に彼が消えたことから、その確信はますます深まった。


 しかし、私はこの事態こそ国の危機としてカザクラ男爵と休戦を模索したのだが、その構想は水泡に帰す。


 何せ向こうはこの事を予期していたかのような対応を見せ、こちらの助けなどまるで必要なかった。


 こうなると向こうは私達と組む利点が無い。


 それならカザクラ男爵が立国時に宣言した通り、この国を滅ぼした方が良いだろう。


 事実、何人かの貴族が降伏したのだが、ほとんどの者が私腹を肥やした咎を受けて処刑されている。


「……うっ」


 知らずに涙が零れてしまう。


 どうしてこんな事態になってしまったのか。


 どうしてシマール国が滅びなければならないのか。


 どうしてその時が私の代なのか。


 どうして……


 私が嗚咽を漏らしている間にワークハードは何も声をかけてこなかった。


 本当によく出来た者だと思う。


 振り返ればこの者だけがカザクラ男爵と敵対することを最後まで反対し、逆に手を取り合うことを進言していた。


 あの時、その忠言を受け入れていればどうなっていただろう。


 もしかしたら……


「……仮定の話をしても仕方ないか」


 その言葉と同時に私は深くため息をつき、玉座に深く腰かけた。


「ワークハード、宰相としての命令だ。私を殺せ、そしてその首を持ってカザクラ男爵、いや、カザクラ王の元へ参るが良い」


「……」


 側近であるワークハードは首を振って拒否しようとするが、私は翻さない。


 何せこの者はこの腐りきったシマール国の中でもまだ良心のある殺すには惜しい優秀な人材。


 向こうも潔癖で知られるワークハードなら迎え入れることが出来るだろう。


「お前は生きろ。そしてその力を新たな国に役立ててほしい」


 そして私はシマール国の宝剣をワークハードに手渡し、首を切り易いように前傾の姿勢を取る。


「キルマークよ、すぐに私も逝くぞ」


 乱暴者だがあれでも私の弟だ。


 あやつは普段威張り散らしているが、その中身は昔と変わらず寂しがり屋なのだなこれが。


 いつまでも1人にさせておくのは可哀想だろう。


「どうした? 早く斬れ」


 いつまで経っても剣が振り下ろされる感触が無いので、私は目を開けてワークハードを見ると彼は険しい目つきをしてある一点を睨んでいた。


「おい。どうし――」


「そこに隠れている者は出てこい!」


 私は戸惑いながらそう尋ねようとするとワークハードは壁に向かって一喝する。


 するとしばらく何も異変が見えなかったが突然笑い声が響き、その場所の景色がゆがんで一人の女性が姿を現した。


「よく私の擬態を見破りました、素晴らしいですね」


 黒装束と頭巾に隠れているから表情は見えないが、おそらく感嘆しているのだろう。


 が、私はそんな相手の些細な表情などどうでもよかった。その女性はまるで冷たい機械のようで、人間味の温かさなど微塵にも感じないことが私に一層の恐怖を湧き立たせる。


「この下郎が、貴様はこの神聖な間に土足で足を踏み入れるとは。せめて名を名乗れ!」


 ワークハードがその女性に剣を向けながらそう怒鳴ると女性は腰を深く折ってお辞儀した後に自己紹介を始めた。


「これは申し遅れました。私の名はアイラ=サファイアブルー=カザクラ。『林』の主任です。此度は重罪人フォルターを捕えに参りました」


 その言葉とともにアイラと名乗る女性から何かが飛んできたがワークハードが防ぐ。


「ひっ!」


 一瞬遅れて私の喉から悲鳴が上がる。


 もしこれが刺さっていればどうなっていたであろう。


 そんな想像が私の頭を侵食し、怯えが満ちていく。


「ふむ、これも塞がれましたか。まあ、良いでしょう。最終的な結果は変わりませんし」


「王よ! お逃げ下さい! この場は私が引き受けます!」


 ワークハードがそう叫んで応戦するのを確認できると同時に私は憑かれたように玉座の後ろにある秘密の通路に向かう。


 嫌だ、死にたくない。


 先ほどまであった胆力と誇りはアイラと名乗る女の前で消え去ってしまった。


 あの凍りついた瞳を見ていると、無性に生の執着心が湧いてくる。


 あれはだめだ。


 あれに捕まると悲惨な未来しか待っていない。


 私はおそらくこの戦争を始めた元凶として車裂きの刑を公開で行われるだろう。


 いや、そうとは限らない。


 ここまで国を疲弊させた咎として最も残虐な鋸挽きになる可能性もある。


 そうなってしまうのなら私にも考えがある。


 どうせ死ぬのなら他の皆も道連れだ。


 私はその通路を進んでいくと、途中で何やら色の違うレンガが眼前に登場する。


 それは城において最大の急所であり、このレンガをずらすだけで城の重心はパランス失い、崩壊する仕組みとなっていた。


 私はゆっくりと手を挙げてその色の違うレンガに手を置く。


「……私が悪いんじゃない、時代だ、他人だ、カザクラだ。そう、私はたまたま運が悪かっただけなのだ」


 私はそう呟くと同時にそのレンガを押して外させた。


 もう近いうちにここも崩れるだろう。


 急がなければ。


「私が悪いんじゃない、私は何もしていない。わたし――」


 私は少々掛け足になって進んでいたのだが、慣れない石畳みの上だったので足を取られて滑ってしまい、頭をぶつけてしまう。


 すぐに立ち上がろうとしたのだが、変なふうにぶつけたのか体の言うことが聞かない。


 このままだと埋もれて死んでしまう。


 だから早く動こうとするのだが、私の意志に反して体は全く動かなかった。


 天井から埃が落ちてくる。


 おそらく崩壊の兆候だろう。


「どうして私がこんな目に会わなくてはならないのか」


 と、私が呟くと同時に天井から岩が落下し、私の視界は完全に閉ざされた。


フォルターは悪か善かという2つでは測れない存在だと思います。

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