表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲームの世界で第二の人生!?  作者: シェイフォン
第1章 浮浪児として
4/55

紺屋の白袴

「どこへ行くのですか?」


「まあ、ついてくれば分かる」


 俺は疑問を口にするアイラにそっけなく答える。


「急に乱暴になりましたね」


「否定はしないな」


 猫を被るのは疲れるんだよ。


 確かここら辺りに文房具屋があったはずだ。薬屋から宿屋へ向かう途中で見た気がする。


「ああ、あった」


 お目当ての店を見つけた俺は文房具屋へ入って羊皮紙とインクとペンを購入した。


「さて、洋服屋へ行くか」


「……買ってくれるの?」


 目をキラキラさせるユキには申し訳ないが、さすがに五人分の服を購入できるだけのGは無い。だから俺は首を振る。


「それはまたいつか今度だな」


 不満顔を隠そうとしないユキに苦笑しながら俺は洋服屋へと歩を進めた。



「ここはお前らが来る所じゃない! 帰れ帰れ!」


 案の定、店員に入ることを断られる。


 まあ、そうだろうな。


 浮浪児の集団など洋服屋に縁など無いからな。あったとしても万引きか。


「はい、これ」


 俺は店員に断られるのを想定済みだったので動揺なく10Gを店員に握らせる。


「え?」


 突然の出来事に驚いたものの、店員は得心が行ったように後ろへと下がった。


「さあ、入るぞ」


 後ろで所在なさげにうろうろしていた四人に俺はそう呼びかけた。



「気に入った服があれば俺に見せてくれ。ただし、絹を使っている服は駄目だ」


 変な指示だと思ったのだろう、代表してキッカが尋ねる。


「どういうこと?」


「レベル上絹素材で服を作成するのは無理だからな」


 木綿や麻、布は今の俺でも作れるが、絹になるとレベルが二ケタ必要だ。


「もしかしてあんた、服を作れるの?」


「ああ、それが何か」


 店で装備を買うのは中級者まで。上級者になると装備は全て自作になる。


 何せ一人一人のプレイヤーに個性が出るため店のものでは対応できなくなるのだ。


 俺も最終的にはドラゴンアーマーなどを普通に作っていた。


「……どうした?」


 ユキを除いた全員がポカンとした表情で俺を見つめる。


 NPCが戦闘以外で驚くことなんてあったっけ?


 俺が内心で首を捻っている間に四人が集まってコソコソ話し合っていた。


「ちょっとアイラ、私達ってすごい人を見つけたんじゃないの?」


「ええ、私もここまでとは思いませんでした」


「夢なのかもしれないよ」


「……それなら殴ってあげる」


 興奮しているのか全然内緒話になっていない。


 俺はため息をついて先を促した。


「おーい、早く決めてくれ」






 洋服屋から出た俺達は布屋へと向かう。


 上質な布は4桁Gもするが、生憎と今の俺達には用が無い。あるのは値段がB単位の布だ。


「ええと、緑色と青、そして赤色の麻と黒と白と黄色の綿だな」


 羊皮紙に書いた字を眺めながら俺は注文する。


 お金を払って商品を受け取った。


「荷物持ちは任せて」


 後ろの方で控えていたクロスが俺の代わりに受け取る。四人分の布だから結構重いはずだが、クロスは顔色一つ変えなかった。


「力が合って羨ましいな」


 ポーション一つ作るにもしんどい俺がそう漏らすとクロスは困ったようにはにかんだ。


 その後には雑貨屋へ行って糸と針とボタンを購入した。




「一人一泊20Gです」


「分かった」


 俺は頷いて五人分の代金を支払った。


 俺達がいる場所は宿泊街の一角にある宿屋だ。


 本来なら薬屋のお姉さんが勧めた宿屋に入る予定だったのだが、出費が増えたのでお金が足りなくなった。


 困っていた俺にここら辺の地理に詳しいキッカがいい宿があると助言して今、ここにいる。


「悪くはないな」


 キッカ推薦の宿屋に入った第一印象がそれだった。


『マミエルの夢』という名の宿屋で、一階が酒場そして二階が宿屋のオードソックスな冒険者の宿だった。


三人部屋を二つ借りて俺とクロス、そしてキッカとアイラ、そしてユキに分かれた。


本来なら俺とクロスの2人だから2人部屋なのだが、これから作業するので手広い部屋が欲しかったのだ。


俺は主人に別料金として石鹸とお湯の代金を支払って四人に入るよう促す。


もちろんレディーファーストだ。


三人部屋に五人は多過ぎだろうと考えたが、俺達は子供だったので十分スペースがあった。


全員集まったところで俺は買ってきた布で服を作りながら話を切り出す。


「ここは何という街だ?」


 俺の質問にアイラが答える。


「シマール国の王都、カルギュラスです」


「カルギュラス……」


 俺は口の中で反芻させる。


 ユーカリア大陸においてカルギュラスという名の場所はあった気がする。


 しかし、俺が知っている中では少なくとも街じゃなかった。


「廃墟じゃないのか?」


 ゲーム上の設定ならばカルギュラスは魔物の大進行によって滅びているはずだ。俺が昔クエストでその場所へ向かったのだから間違いない。


「何を言っているのですか?」


 アイラが首を傾げる。そうだろうな、俺がアイラの立場でもそう言うだろうな。


 気になった俺は今日の年数を尋ねてみるが。


「さあ?」


 と、返された……まあ、浮浪児に年数など知っているわけないよな。そこら辺りは明日薬屋のお姉さんに尋ねてみるか。


「ほい、一着完成」


 ユキの服が完成した。白をベースとしたワンピースでアクセントとしてリボンが付いている。


「……ありがと」


 そっけない返事だが、内心は大いに喜んでいるのが分かる。だって耳たぶが赤いもん。


「明日からはどうする予定ですか?」


 アイラが明日からについて聞いてくるので俺は正直に話した。


「明日の午前中はポーションの材料となる草を取る予定だ」


「ポーション? 草?」


 アイラが疑問符を浮かべるので俺は苦笑して訳を説明する。


「実は今日薬屋の主人であるティータさんと交渉してポーション一個につき30Gで引き取る取引をしているんだ。だからポーションの材料となる草を集めるわけ」


 俺がそこまで言うと、他の四人はまた隅っこで集まって内緒話を始めた。


「ねえ、聞いた? あいつは安定的な収入があるのよ」


「これならもうゴミ漁りしなくて済みそうですね」


「これは夢だ、きっと夢だ」


「……可愛い服」


 若干一名会話に加わっていないように見える。


しかもやはり声が大きいので内緒話になっていない。


「ほら、出来たぞ」


 俺はアイラが選んだ黄色のブラウスと青色のロングスカートのセットを横に置いた。


 無論、アイラがすごい勢いで取りに来たのは言うまでも無い。


 こういう所はやはり女の子で子供何だなあと、外見子供の俺が微笑ましく思った。


「あの、お手伝いできませんか」


 次の服の作成に取り掛かっているとクロスが口火を切った。


「ん? どういうことだ?」


 手の動きは止めないまでも俺は返事をする。


「アカイロ草とアオイロ草、そしてキイロ草を集めているんですよね」


「そうだな。ポーション作りにはその三つが不可欠だ」


「それらの草は雑草でどこにでも生えています。だから自分達がそれを集めるというのはどうかな?」


「そうしてくれると助かるな、手間が省ける」


 俺がそう答えるとクロスはパッと顔を明るくして。


「そうですか、ありがとうございます」


「礼はいい。そして、キッカの服が出来たぞ」


 赤を基調としたこの世界のオードソックスな服装なのだが、スカートでなくズボンとしているのはキッカは動きやすい冒険者が着るような服を選んでいたからだ。


 キッカがそれをうっとりと見つめているのを見ると俺も嬉しくなる。作った甲斐があった。


「ああ、それなら作業用の服を作るための布を買ってくるんだったな」


 俺は失敗に気付く。


 雑草を拾うとなれば当然服は汚れてしまう。そして、俺がさっき作った服は彼らのお気に入りであり、機能性は重視されていない。


「……大丈夫」


 さて、どうしたものかと悩んでいると、それを察知したのかユキが慰めにくる。


「何が大丈夫なんだ?」


「私達は雑草取りをしない。その代わりにユウキが作った服を売る」


「なるほどね、そういうことか」


 俺の技能はポーション作りだけでない。今、実演しているように裁縫も得意だ。だから服を作ってそれを売ればいいとユキは提案していた、が。


「それは止めた方が良い」


 露天商は俺もやろうとしたが、リスクが高すぎて止めた。ショバ代とか言って金を取られるならまだしも変な奴らと関わり合いたくない。


「言い方は悪いが君達から俺の情報に辿り着く奴らが現れないとは限らない。俺はまだ目立ちたくないんだ」


 いずれは関わり合いになることだろう。


しかし、それは今でない。


何の力も無しに闇の者と関わり合うと待っているのはゲームオーバーだ。


「……残念」


 ユキは不満そうな顔をしていたが、俺が絶対に折れないことを悟るとしぶしぶ引き下がってくれた。


 俺はそんなユキの頭をポンポンと叩いて。


「アイディア出してくれたことは嬉しい、だからそんなに落ち込まなくてもいいぞ。そして、クロスの服だ」


 クロスはTシャツに短パンと少年らしい服装を好んでいた。アクセントとしてポケットが四つも付いている。


 全員の服を作り終えた俺はウーンッっと一伸びした後彼らに言った。


「君達全員にお小遣いを上げるから明日は街で遊んでおいで。けれど明後日からはちゃんと働いてもらうよ……って、聞いていないな」


 四人は俺が自作した服を眺めるのに頭が一杯らしい。全員が興奮した面持ちで服の見せあいをしている。


 俺はその様子を眺めながらベッドへ横になる。


 ふかふかの感触を楽しみながら今日一日の出来事について思いを馳せた。


 いきなりログアウト出来なくなったり、ステータスが貧弱だったりするが、今日の行動は悪くなかったな。


 明日からはティータさんの所へ行ってポーション作りだ。これでしばらくお金を稼ぐか。


 そう言えば靴を作るのを忘れていたな、明日も雑貨屋さんへ行って材料となる皮でも買うか。


 頭がぼんやりしてきた。どうやら本格的に寝るらしい。


 いつも思うけどゲームの中で眠るというのは不思議な感覚がするんだよな。


 そう言えば大事なことを忘れていた気がする。


 確か、何だっけ?


 俺は睡魔によって使い物にならなくなった脳をフル回転させ、次にキッカやアイラ達が持っている服を

見て思い出した。





 あ、自分の服のことを忘れていた。


次の話の内容は半月ほど時間が飛んだ時点から始まります。

四人が素材を集めて主人公のユウキがポーションを作る。

そんな日々が続いていたのですが、ある日にクロスがお願いをユウキにすることになります。

さて、その内容とは。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 何で浮浪児なのに口調が丁寧なの?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ