勝者は誰だ?
これで終了です。
お付き合いいただきありがとうございました。
王宮の最上階。
もっとも豪勢な私室といえばこの部屋と言えるだろう。
何せフロア全体が丸々部屋になっているのだから。
俺的にはこんな豪勢な私室など要らんと思ったのだが、そこは皆の反対によって却下された。
「主が貧乏なお部屋に住まわれると私達も気を使います」
とはエルファの弁。
「とにかく、しばらくはこの部屋で過ごそう」
あまりに部屋が大きいため俺は敷居を用意し、多くのスペースを作ってそこに何かしらの物を置いていた。その中に食べ物もある。
そして、俺のベッドは20人ぐらい同時に寝れるほど広い作りとなっていた。
「さて、ただい――」
「お帰りなさい、我が君」
一瞬ありえないものが見えた。
あの銀髪悪魔が待っていましたとばかりにニコニコと笑いながら待ち受けていたような気がする。
ベアトリクスは白磁の肌に透き通るような銀の髪を腰まで伸ばしている。容姿こそ可憐で儚く、浮世離れした美しさを持っているのだが性格は最悪で気に言った人間の困る顔が好きという非常に迷惑な趣味を持つ元シマール国第1王女。
目を擦って表示されたプレートを確認しても見間違いはない。
ここは何人たりとも人を入れたことのない俺の部屋だ。
「……疲れているのかな」
今日一日の疲労によって悪夢が見えたのだろう。
気を取り直してもう一度ドアを開ける。
「お疲れ様です、ご主人さ――」
「っく!!」
幻ではない!
ベアトリクスの横にいたのはあのお嬢様メイド。
白銀の髪に病的なほど肌が白さ。そこだけ見ればベアトリクスと似ているのだが、瞳に確かな意志を感じさせることからまだ区別が付く。王女なのに何故メイド服を身に着けているかというと、他人のために働くことに生きがいを感じるらしいから、動きやすいこの格好が好きだと言っている元バルティア皇国第2王女。
これは現実だ!
この場所に俺の安息の場は無い。
だから俺は脇目も振らずに逃走しようとしたのだが。
「どこへ行こうとするのかな夫よ」
ガシッ! とばかりに首を掴まれる。
俺はギギギと音が鳴りそうなほどぎこちなく首を回した先には見事な金髪が目に入った。
光り輝く髪に黄金比で調整された顔立ちから女神が降臨したかのように思わせる容姿を持つのはリーザリア帝国第3王女ヴィヴィアンであり、現在は俺の妃の地位にいる。相当な努力家であるがゆえに努力しない者は認めず、そんな人物が己の上に立つことを最も嫌うという困った性格をしている。
「なに、ちょっとティータさんに用があってな。緊急の用事だから離してくれるとありがたい」
俺はそう言ってヴィヴィアンの腕を払いのけて進もうとしたのだが、今度は別方向から誰かの手が伸びてくる。
「おい! シクラリス! 放せ!」
その白い腕の持ち主はシクラリスだった。
「ご主人様、こちらの方がもっと大事です」
例え女性だと言っても2対1では分が悪い。俺は徐々にだが部屋の方へと引きずられていってしまう。
「あらあら、この時はこうするのよ」
「なっ!?」
ベアトリクスの声が聞こえたと思った瞬間俺の脚は払われ、うつ伏せに倒れてしまう。
「さあ、運びましょう」
ベアトリクスの合図によって俺はさしたる抵抗も出来ず、部屋の中へと吸い込まれてしまった。
「放してくれ~!!」
俺の悲痛な叫びにも拘らず、ドアは無情にも閉じられてしまった。
こういうのを何と言うのだろう。
正座している俺を中心とし、元王女3人がカゴメカゴメの要領で回り続けるというのは不気味以外の何物でもない。
「さて、我が君。私達はあなたに言いたいことがたくさんあるわ」
ベアトリクスが謡うようにそう言い聞かせる。
「まずはヴィヴィアンね、お願い」
その言葉を合図として3人は回り続けることを止め、そして俺の前にはヴィヴィアンが立ち塞がった。
「夫よ、そなたは妻である私に対して何か忘れていないか?」
心当たりがないので俺は首を振る。
結婚指輪は渡し、挙式も上げた。
他に何が必要なんだと考えているのか。
「なるほど、やはり知らなかったか。教えてやろう! それは初夜だよ初夜! 夫婦で行われなければならない初夜を私達はまだしていないではないか!」
「いや、だって俺達は政略結婚であって純粋な愛ゆえではないのは広く知られていることだろう。それならしない方がましではないか?」
単に体だけの関係というのは俺の中の倫理が邪魔して実行することが出来ないんだよ。
「夫よ、それはちがう! した方がましなのだ!」
ビシリと人差し指を突きつけてそう宣言するヴィヴィアンはさらに続けて。
「私が夫と情交をしていないことを国民に知られたらどうなる! 私は夫に心はおろか体すら興味を持たせられない最悪の伴侶として認識されるのだぞ! そんな屈辱を受けろと言うのか!」
「そんな大げさな」
俺は笑い飛ばそうとしたのだが、ヴィヴィアンの本気の目を見て止める。
「国民はまだ良い! どうせ有象無象だ。しかし! 他の国から来た側室に憐みなんて持たれてみろ? 私は憤死する自信があるぞ!」
相当切羽詰まった様子で言い放つ様子からヴィヴィアンは本気なのだろう。
本気で馬鹿にされるのが慣れていないみたいだ。
「形だけでも私達は夫婦だ! それならやっておくのが筋というものだろう!」
「いや、だからお前の気持ちはどうなんだ? 名誉のために純潔を失っていいのか? それは大切な人のために取っておくべきものだろう」
「構わん! いつ現れるか分からない人のためよりも確実に来る嘲笑から避けるほうが遥かに大事だ!」
心なしかヴィヴィアンがやせ我慢をしているような気がするが、そこを突っ込むのは野暮だろう。
言いたいことを言いつくしたのかヴィヴィアンは俺の背の方へ回った。
「さて、次は私ですね」
そう言って次はシクラリスが現れた。
「ご主人様、私はすでに身も体もご主人様に差し上げていることはご存知ですよね」
その問いに俺は頷く。
バルティア皇国を降伏させた際、貢物として贈られたのがシクラリスであり、その時に彼女は俺に永遠の忠誠を誓っている。
「私はあの日からどんなことをされるのかと身を悶えさせました。何せご主人様は浮浪児から成りあがった者、そんな異常な方が普通のプレイじゃ満足できないと考えたからです」
「……おい、さりげなく俺を馬鹿にしたな?」
俺は片眉を上げるのだが、生憎とシクラリスは抗議を無視して先に進める。
「蝋燭、拘束、木馬、吊り下げ、鞭打ち、浣腸、二本差し、便器、ピアス、公開、輪姦等色々想像していましたが、ご主人様は何故どれもしないのです!?」
「やるやらない以前に想像すらせんかったわ!」
というかよくそこまでスラスラと頬すら染めずに言えたな。
俺はそこにびっくりだよ。
「嘘です! 男は全員そんな行為に興味を持つはずです!」
「勝手に決め付けるな! 少なくとも俺は絶対に興味など持たん!」
お前はどれだけ男に対して偏見を持っているんだ?
「だってお父様もお兄様も妻や奴隷に対してよくそういった行為を――」
「ストーーーップ!!」
これ以上続けさせると俺の中でバルティア皇国の評価がガタ落ちしてしまうので強制終了させる。
バルティア皇国はついでという形で滅ぼしたのだが、今となってはその判断が正しかったと考えてしまう。
現に俺はすでにバルティア皇国を滅ぼした罪悪感など綺麗さっぱり消えてしまったし。
「とにかく、私はそのような行為を受け入れることが出来ますから。もし興味があれば私に言って下さい」
うん、よく分かった。
お前には最高の教師をつけてやるから如何に男女が平等なのかを知れ。
シクラリスが横へと消えていくのを眺めながら俺はそう固く決心した。
そして最後はベアトリクス。
「アハハハハハ。こんにちは、我が君」
こいつは人を馬鹿にするときは笑いながら踊るという癖を持っている。今、結構テンションが高い様子からベアトリクスも絶好調なのだろう。
「ねえ、我が君。今回の騒動はどうだった?」
「どうもこうもしない、本当に災難だった」
傍目から見ると喜劇かもしれないが、実際に巻き込まれると悲劇だぞ。
俺の答えを聞いたベアトリクスは何がおかしいのかさらに声の調子を1オクターブあげる。
「如何だったかしら? 私の考えた遊びは?」
「は?」
今、こいつはとんでもないこと言ったぞ。
「名付けてユウキ争奪戦。参加したプレイヤーはどんな手を使っても良いから我が君の童貞を奪えば勝ち。そして勝てば向こう1か月我が君と共にいる権利を勝ち取れるわ」
「ちょっと待て、ベアトリクス。もしかしてお前が仕込んだと?」
「ええ、その通りよ。最近娯楽がなかったからいい暇つぶしだと思ってね」
なるほど、薄々感づいていたがやはりベアトリクスが一枚噛んでいたか。
道理で今日に限って女性陣が問答無用で求めてきたものだよ。
「誤解しないでほしいのは、仕掛け人は私だけど元々の原因は我が君よ。我が君が私達が日頃から発する好意に気付いていればこんなお祭りなどなかったと言えるわね」
「は? 俺のせい?」
突然出てきた俺の名に呆けるのだが、憎たらしいことに3人全員がウンウンと頷く。
「私が馬の骨を夫にするはずがないだろう」
「ご主人様として不適合ならとっくに舌を噛み切っています」
ヴィヴィアン、シクラリスがそう答え。
「私も馬鹿を我が君なんて絶対に呼ばないわね」
ベアトリクスもそれに同調した。
「あー……それは悪かったな」
ここは謝っておくべきだろう、俺は素直に頭を下げる。
「分かれば良いのよ」
--何故だろう 何故か殺意が わいてくる
ベアトリクスの尊大な態度に俺はそんな一句が浮かんだ。
「さて、これでゲームは終了ね。勝者は私達3人。これから1か月ゆっくりと愉しみましょう」
「「「ウフフウフフフフ」」」
と、3人の笑いがハモったので俺は恐怖にビクリと震える。
そしてヴィヴィアンが俺を立たせ、シクラリスが先導した先にベアトリクスが待ち構えている。
「憎しみ合っていた三国の王女3人との乱交。これって一つの奇跡よね」
そんなことをベアトリクスが言う。
このままなら俺の争奪戦ゲームは王女3人の勝ちで収まっていただろう。
が、事態はそう易々と進まない。
俺がベッドに腰掛けた瞬間扉が勢いよく開き、多くの女性がなだれ込んできた。
「げ……」
俺がそううめき声を上げたのも無理ないだろう。
何故なら彼女達は今日、俺を追いかけまわしていた面々だからだ。
「予想通り主はここにいました」
「ユウキ様、申し訳ありません」
「また負けちゃったわ」
「……エルファ、アイラ、そしてオーラ」
先程まで戦闘していたのだろう。しかし、本当にエルファには攻撃一つ当たらなかったのかエルファが無傷の代わりにその分アイラとオーラがボロボロだった。
「イズルガルドの勘はもの凄いわ」
「お姉様が危惧した事態までまだなっていないようです」
「キッカにククルスも」
あの竜巻の余波なのか2人とも衣服の所々がほつれ、髪には木の葉が付いていた。
「……間に合った」
「ぎりぎりセーフというところかな」
「ユキとミア、よく無事だったな」
あの魔道騎士団と2人で相手にしていたはずなのに疲れの素振りすら見せないのはもはや化け物だ。
「あ! 師匠! ここにいた!」
「あらあらサラちゃん、慌てなくてもユウキ様は逃げませんよ」
「サラ、ヒュエテルさん。よくここが分かったな」
俺を見つけて喜色満面のサラにそれを暖かく見守るヒュエテルさん。
「やっぱりここだったのね」
「こういう時の姉さんは役に立ちます」
「その瓜二つの顔はフィーナとレアか」
急いで来たのだろう、2人は息を切らしていた。
「ちょ、ちょっとキリング。急ぎ過ぎではないのか?」
「何を言っているのですか、私達が最後ですよ」
「エレナ子爵もキリングも来たのか」
最後に現れた2人を見て俺はそう呟く。
「これは予想外だな」
「ううう、後一歩だったのに」
「さすがのヴィヴィアンやシクラリスもこの事態には戸惑うか」
2人とも先程までの勝ち誇った顔が消えている。
「うーん、どうしましょうか。この状態から逆転できる手は……」
が、唯一ベアトリクスは諦めていないようで銀髪を弄くりながら策を考える。
そして出た答えが。
「決めた、やはり早い者勝ちよ」
そう言うが早いが俺を押し倒すベアトリクス。
ベアトリクスの行動を見た残りの15人が一斉に動き出す。
そして次の瞬間には天国と地獄が出現した。
次の日
「こんにちは、ティータさん」
昼、俺はおそらく今日動けるであろうティータさんの様子を見に行った。
「ああ、ボク。おはよう」
ティータさんはいつも通りの笑みを返してくれる。
「それにしても今日は人が少ないわね。おかげで仕事が捗らないわ」
ティータさんがそうぼやくのも無理はないだろう。
何せジグサリアス王国の首脳部の大部分が欠席しているからな。
「クロスとレオナはどうした? 確かあの2人は出勤していると思うが」
俺がそう聞くとティータさんは僅かに呆れのため息を吐きながら。
「昨日やり過ぎたからって両方とも腰を痛めて今日休むと連絡来たし……若いって良いわね」
どうやらあの凶暴化したクロスが際限なき欲望をレオナにぶつけた結果、自身すら痛めてしまったらしい。
まあ、あの2人から結構痛い目にあったので同情心など湧かないが。
と、ここでティータさんが年のことで黄昏ていたので俺はフォローする。
「いやいや、ティータさんも十分若いですよ」
「そう、ありがとう」
20の前半ってまだまだ若いだろう。
「それで、他の皆はどうしたの?」
ティータさんがその2人以外のことを尋ねてきたので俺は肩を竦めて簡潔に述べる。
「全員俺のベッドで寝ている。何でも腰を痛めたらしく、今日は満足に動けないらしい」
特にベアトリクスはお仕置きの意味も兼ねて入念に相手をしてやったから2、3日は動けまい。
最後はもう泣いていたのか悦んでいたのか分からなかったからな。
「はあ? 何それ?」
ティータさんがそう聞いてきたので俺は曖昧にぼかすことにする。
「ところでティータさん。遅漏って何分ぐらいからだと思う?」
女性にする会話ではないのだが、ティータさんはこの類の話に免疫があるので安心してできる。
「うーん、そうねえ……」
「卑猥な雑誌を見ながら30分以上擦ってようやく出るってどう思う?」
「ちょ! それは遅漏とかそんなレベルじゃないわ! もはや伝説の域よ」
ティータさんが血相を変えて捲し立てるので茶化してはいないだろう。
「ああ、そうか。ありがとう。ところでもう今日は仕事にならないから終わって良いよ」
「え、でも……」
「仕事をすることも大事だが、今回は誰も動いていないから仕事が回ってこない。だから今日は休んで精神を回復させてくれ」
「あら、そう。じゃあお言葉に甘えて」
ティータさんは少々驚きながらも今日を臨時休業にすることを了承する。
「さて……何をしようか」
そして一人になった俺はウーンと背伸びをしてこれから午後の時間をどうしようか考えた。
余談だがあの大乱交以降、女性陣は今後俺を相手にする時は2人以上で行うことというのが固く決められた。彼女達曰く「1人だったら確実に壊されるから」というものらしい。
「16人もの女性を相手にしなければならない……やれやれ、王様は大変だねえ」
俺はそんなことを呟いた。
次は間章です。
この章と違ってシリアス多めにいきます。