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ゲームの世界で第二の人生!?  作者: シェイフォン
第5章 ハーレムの主として
37/55

修羅場

どんどん過激になっていくな……

「……疲れた」


 王宮の廊下を一人トボトボと歩きながらそんなことを呟く。


「もしかしてこれが暴発か?」


 イズルガルドが言っていたことを思い出す。


 雌竜に対してあまりにつれない態度を取りすぎたがゆえに雌竜が目を血走らせて襲いかかってきたと。


「ああ……なんか人生最大のピンチを迎えている気がするな」


 少なくともこんな腹を空かせた獣を相手にするような恐怖感は味わったことがない。


 そんなことを考えていたせいか、俺は曲がり角からやってくる人影に気付かなかった。


「おわっ!」


「え?」


 まるで壁にぶつかったような感触が俺の全身に広がり、痛さで悶絶する。


「ユウキか、ごめんね」


 痛む鼻を押さえながらぶつかってきた人影を見ると、そこには人一倍体がでかいクロスがそこにいた。


「ふむ、ユウキ様よ。少し前方不注意ではないのか?」


 クロスだけでない、レオナの声も聞こえたことからクロスの陰になって見えない場所にいるのだろう。


 だから俺は「まあ、その通りだな」と答えておく。


「しかし、今日はいつになく女性陣が餓えているね」


 クロスはすでにこの騒動を知っているのかそんな感想を漏らす。が、俺はクロスの言葉の中に聞き逃せないワードがあったのでそこを聞いてみる。


「いつになく?」


 俺が首を傾げていたのを見たクロスは呆れ気味に「気づいていなかったんだね」と呟いた。


「気づいていないとか何の話だ?」


「いや、だから女性達の好意の話」


「そんなのがあったのか?」


 少なくとも昨日までは普通に過ごしていたはずだ。出会ったら声をかけて、時間が空いているなら共に食事をしたり世間話に花を咲かせたりと親睦を深める普通な対応しかしていないはずなのに。


「うーん……何て言えばいいのかな」


 クロスは何かを俺に伝えたいようだが上手い言葉が出ず、四苦八苦しているように思える。


「そこから先は私が伝えた方が良さそうだな」


 クロスが詰まったので代わりにレオナが前に出る。


 レオナはクロスの元教官で現在は恋人同士。常に軍服に身を包み、凛とした態度を取るので評価が高い。ストレートな金髪を腰まで伸ばし、右眼に眼帯をつけている他には眼福といえるほど豊かな体が特徴的だ。特に胸は軍服の上からでも大きく主張し、それに吸い寄せられる人間が後を絶たない。


「ユウキ様よ、あなたは御自身の魅力にお気づきでない」


「俺に魅力? そんなものあるわけがないだろう。もし俺にあるとすれば運だな、それが多大にあったから俺はお前らに出会えた」


 今はジグサリアス王国の王の位置に立っているが、それにはキッカ達を始めとした仲間に出会えたからであって、その内の一人でも欠けていれば今の俺はなかったといえる。


 が、レオナは俺の答えに満足しなかったらしい。首を振ったのち熱く語り始める。


「いや! ユウキ様は気付いていない! 一介の浮浪児から王にまで上り詰め、あまつさえ三国を統一したユウキ様に惚れない女がどこにいる? 生ける伝説を作り上げたユウキ様に我々女性は憧れを抱き、想像を膨らませるのだ」


「膨らませるのは勝手だが俺はそこまで凄くないぞ、却って幻滅するのがオチ――」


「いや! それは違う!」


 ついにレオナは拳を振り上げて独裁者顔負けの演説を始める。


「出会って分かるのだ! ユウキ様は想像以上だと! 何をされても許す限りなき慈愛の深さと時折見せる残酷ともいえる厳しさ! そのギャップに私はもう……」


「ちょっと待てレオナ、少し抑えてくれ。キッカ達に気付かれたらまずい」


 俺は制止を求めるのだがレオナは全然聞いてくれない。むしろさらにヒートアップして己の豊満な体を抱き締める。


「クロス! レオナはお前の恋人だろう!? 恋人なら相方の暴走を止めてくれ!」


 俺は必死になって訴とようやくクロスが動いてくれた。


「レオナ、そろそろ冗談は止めようよ。ユウキが困っているよ」


「む、そうか。すまんな」


 するとレオナは先ほどのヒートアップぶりが嘘のように冷静さを取り戻す。


「冗談だったのか今のは!?」


「「うん」」


 俺の叫びに対して見事にハモる2人。


 その阿吽の呼吸に俺は脱力してがっくりと膝をつく。


「頼むからこういう時の冗談は止めてくれ」


「ハハハ、それはすまんな」


 俺のボヤキに対してレオナは全く反省せず、笑い飛ばした。


「おお、そうだ。面白いことを思いついたぞ」


 レオナはそう言って手をポンと打ち、素敵な笑顔を浮かべながら自分の腰に差してあった剣をクロスに持たせる。


「ちょ、おい」


 俺が血相を変えるのは、クロスは剣を抜くと凶暴になって手が付けなくなるからだ。性質が悪いことにこれが戦場なら冷徹とも取れる思考ができるのだが、今回の様な日常だと単なる暴れん坊になってしまうことである。


「そして! 時折私は想像してしまうのだ。もしクロスと出会う前ならどうなっていたかと! いや、間違いなくユウキ様を選んでいただろう! 何故なら――」


「ストーーップ!!」


 クロスに剣を持たせた状態だと冗談が通じない。


 だからこの類でも真に受けられるととてつもなく悪い状況になってしまうのだ。


 恐る恐るクロスの方向を見ると表向きは変わっていない。


「いや、クロス? これは戯言だからな? あまり気にす――」


「分かっているよユウキ」


 何故だろう。ニコニコとクロスは笑っているのだがその表情が何よりも怖く感じてしまう。


 まずい、これは本気で怒っている。


「いやあ、前々から警戒していたけどついにこの日が来たか。この無自覚天然たらし屋は人の恋人まで奪っちゃうんだね」


「いや、待てクロス。これは誤解だ冤罪だ。俺は断じてそんなつもりでは」


 俺は両手を突き出して身の潔白を訴えるのだが、クロスはその笑顔を一向に止めようとしない。そして俺の肩に手を置いて。

 

「ねえユウキ、ちょっと向こうで訓練しようか? ユウキって普段鍛えていないから良い機会でしょ」


「痛たたたたた! クロス! 落ち着け! 今のお前とすれば俺は絶対死ぬ!」


 相当力を込めて握っているので俺は絶叫する。


「むしろ死んだ方が良いんじゃない? 恋人がいたとしてもユウキに夢中になる女性官吏が多いから、失恋した男性官吏が後を絶たないんだよね、これが」


「それこそ俺は知らん! とばっちりだ!」


 俺は渾身の力を込めてクロスの手を振り払い、じりじりと後ろへと下がる。


 不味い。


 本能が訴えている。


 今のクロスに近づかない方が良いと。


 と、ここでレオナが最悪の爆弾を投下した。


「そうだ。今度私とクロスとユウキ様で3Pでもしないか? 私は大歓迎だぞ」


「貴様は人の女に手を出しやがって!」


「出していない! 濡れ衣だ!」


 剣を抜いて凶暴化したクロスから逃げるために俺は全速力で逃げた。


「あーーっはっはっはっはっはっはっは! 逃げろ逃げろー!」


 レオナの囃子声が後ろから追いかけてきていた。




「待ちやがれこのたらし野郎が!!」


 凶暴化したクロスは冗談というものが全く通用しないらしい。


 あんな鎧を着ているにも拘らず俺と同じどころか僅かに速い速度で追跡してくる。


「ぐっ、このままでは」


 遠からず俺は追いつかれてしまう。


 そして、追いつかれれば待っているのは……


「死んでたまるか!!」


 限界を突破し、さらに走ったおかげで少しだけクロスとの距離が開く。


 このまま振り切れれば問題はないのだがその前に俺の体力が尽きてしまうだろう。


 何とか身を隠せる場所はないのか。


「師匠、こちらです!」


 その時天の助けとばかりに近くの扉が開いて俺を招き入れるサラ。


 俺は助かったとばかりにその部屋へ飛び込み、すぐに扉を閉めた。


「あの野郎! どこへ行きやがった!」


 凶暴化したクロスの叫びが小さくなり、ついに足音さえ聞こえなくなったところでようやく一息つく。


「た……助かった」


 まさか冗談抜きで命を狙われるなんて思いもしなかった。


 今更ながら体に震えが走り出す。


「師匠、ここに水があります。これを飲んで少し心を落ち着けてください」


 俺を救ってくれたサラは置いてある水差しから水を汲みとり、近くのテーブルへと置く。


 サラは昔ショートカットだったが、今はセミロングにまで伸びている。そして健康的に肢体が発達したのか、全体的に若々しい印象を与えるのだが、その瞳だけは昔と変わらず無邪気な光を湛えていた。


「ああ、すまないな」


 冷静であれば、どうしてサラは水を汲んだのに俺に取りに行かせようとするのか疑問を持つはずなのだが、今の俺はクロスに襲われた後なのでそこまで考えを持たず、ただ言われるままに部屋の奥へと進んでしまった。


 ガチャリ。


 と、扉を閉める音が響いたので俺は血相を変えて振り返るとそこには笑顔を浮かべたヒュエテルさんが立っていた。


 ヒュエテルさんはすでに30代に差し掛かった妙齢の女性で、包み込むような包容力を持っている。ウエーブ状の髪や柔和な笑みを浮かべているのが相まり、接していると優しい気持ちになれるというのが俺の評価だった。


「ヒュエテルさん? いったい何の真似かな?」


 これまで一連の出来事から大よその予想はついていたが、それでも一縷の望みをかけて聞く。


「決まっているでしょう。サラちゃんのお手伝いですよ」


 が、その希望は淡くも崩れ去った。


 ヒュエテルさんはさらに続けて。


「鍛冶にしか興味を持たないサラちゃんが色恋沙汰に関心を示して相談してきたのです。ここは大人として応援をするべきでしょう」


「いや! その理屈はおかしい!」


 いったいどこの世界に20に満たない娘にそんな手助けをする大人がいるのか。


「ヒュエテルさん、よく考えてみよう。多くの浮浪児を救ったヒュエテルさんが――」


「師匠!」


「おわあっ!」


 サラの不意打ちタックルを受けた俺はなにも反応できず、サラと共に近くへあったベッドに倒れこむ。


「ど、どうしてここにベッドが。いや、計算したな! ヒュエテルさん!」


 断言できる。


 これは絶対にヒュエテルさんが仕込んだものだ。


 おそらくサラが俺に飛び込んだ位置にベッドがあるよう扉の鍵を閉めるタイミングを計っていたのだろう。


「サラ! 離せ! この関係は間違っている! 俺とお前は師弟であり、こんな関係じゃないだろう!」


 俺は何とか上に乗っているサラを引き離そうとするのだが、サラは万力で固定したかのようにビクともしない。


「師匠! 私は師匠のことが好きです!」


 顔を上げてそう告白するサラに俺は。


「ああ、俺も好きだ。お前は本当によく出来た弟子だ! だから離すんだ!」


「嫌です師匠! 絶対に離したくありません! 私は好きなんです! 師弟の関係じゃなく、男と女の関係として大好きです!」


 サラは俺の胸で嫌々というようにぶんぶんと頭を振る。その度にサラの香りが鼻をかすめるので俺は劣情を抑えるのに必死となる。


「サラちゃん、もっと心に余裕を持った方が良いわよ」


 と、そこでヒュエテルさんが優しくサラと俺を引き離す。


 もちろん俺を逃さないことを忘れない。


「くそっ! いったいヒュエテルさんのどこにこんな力が?」


 手足をバタバタと動かすのだが、全然意味をなしていない現実がそこにあった。


 そうこうしているうちにヒュエテルさんは俺の後ろに回って羽交い絞めにする。


「サラちゃん、まずはユウキ様の下を脱がしてちょうだい」


「ちょっと待てええええ!」


 突然の言葉に俺は脊髄反射で突っ込む。


「ヒュエテルさん! いきなり何を言っているの? どうしてそこから始めるのか!」


 俺は渾身の力でそう叫ぶのだがヒュエテルさんは全然聞いていない。


「はい、わかりました」


 ヒュエテルさんの言葉に唯々諾々と従うサラ。


「サラ! 止めろ! お前はこんなことをする人間ではなかったはずだ!」


 サラは鍛冶のみを追い求め、純粋な光を瞳に浮かべるのが本来の姿だ。


 しかし、今のサラはこれから行うことに興奮し、無邪気の代わりに妖しい色を瞳に浮かべている。


 俺は必死で抵抗するのだが、サラは自分の両足で俺の脚を押さえてしまったため、完全に身動きが取れなくなる。


「大丈夫です。失敗はしません」


「失敗とか成功とかそういう問題ではない!」


 俺はそう訴えるのだがサラは興奮しているのか耳に入っていないようだ。


「サラちゃん、教えられたとおりにしっかりとやるのですよ」


「はい、ちゃんとヒュエテルさんから教わった通りにすれば師匠は気持ち良くなるんですね、師匠?」


「上目づかいで尋ねるな! 変な気分になってしまう!」


 ヒュエテルさんとサラの驚くべきやり取りに俺はサラの言葉にうっかり本心で答えてしまう。


「アハ、師匠もちゃんと私のことを意識してくれたんですね」


 するとサラは新しい武器を製造した時と同じような至福の笑みを浮かべる。


「……」


 いつもは純粋な子供みたいに無邪気な様子のサラが色欲に冒されている表情を見て興奮した俺はもう駄目かもしれない。


 サラの両手が下にかかり、もう駄目かと思った瞬間に扉がすごい勢いで吹き飛んだ。


「あの野郎はここか!!」


 扉の前には凶暴化したクロスが仁王立ちになって立っている。


「な、なんですクロス!?」


 この突然の事態にヒュエテルさんも驚いたようだ。


 そして、ヒュエテルさんの力が緩んだので俺は拘束を解き、窓際へと向かう。


「死ねええええええ!」


 雄叫びを上げながら突っ込んでくるクロスから逃れるため俺は窓から外へ脱出した。


 ここは3階だが、幸いにも軽業師の靴を装備しているので大怪我はしないだろう。


 事実、着地しても少々足がしびれた程度で終わった。


 俺は逃げながら飛び降りた窓の方を確認するとヒュエテルさんやサラ、そしてクロスが様々な感情を表情に浮かべていた。


 悪いな、俺はこんなことで終わるわけにはいかないんだよ。


 俺は手をひらひらと振りながらその場を後にした。

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