三つ巴
第1弾完成!
この調子でどんどんいきますよー
軽業師の靴という装備がある。
これを履くと体が軽くなり、空中一回転も可能となる代物なのだが。
「どうして俺についてこれるんだ!?」
俺は息を切らして全力で走っているはずなのに後ろから追ってくるエルファは顔色一つ変えず追ってくる。
階段を4段飛ばしで駆け上がり、吹き抜けから飛び降りたりなど特殊な装備が無い限り絶対に追跡できないはずなのに次の瞬間には俺と全く同じルートを通っている。
「これぐらいなら今の私でも十分です」
と、言うのはフレアスカートを指で摘みあげながら走っているエルファの弁。
「くそっ!」
このままでは不味い、そろそろ俺の方が限界だ。
自分が苦しい時は相手も苦しいというのは一体誰の言葉か。
エルファは汗どころか息一つ乱していないじゃないか!
「このままでは埒が明きませんね」
後ろからそんな呟きが聞こえた気がしたが、今の俺に確認する余裕はない。
「仕方ありません……主、もう鬼ごっこは終わりですよ」
「んなあ!?」
エルファが懐からナイフを取り出してそれを俺に投げつけてくる。
あまりの突然だった出来事に反応できなかった俺は被弾覚悟だったのだが、何とエルファは俺の動作を予測していたのか投げたナイフはすべて俺の衣服に当たり、俺は木で出来た壁に縫い止められる結果となった。
「本当に、どうしてそんなに嫌がるのですか」
エルファは僅かながら呆れの様子を見せる。
「人類どころか生命体である限り脈々と行われてきた行為です。大っぴらに公言するべきではないことは確かですが、嫌悪もするべきではありません」
そう諭しながら俺の衣服に刺さったナイフを回収しているのだが、俺が逃げ出さないよう押さえるべきところは押さえているのが憎たらしい。
さすがエルファはそつがないな。
「この場所でなら私の部屋が近いですからそこで済ませましょう。何、心配は要りません。主は寝ていれば後は私が気持ちよくして差し上げますから」
そんなことを無表情に言われても俺は全然嬉しくない。
何か作業をするかのような気分に陥ってくる。
俺は放せとばかりに抵抗するのだが、全体的に細いエルファのどこにそんな力があるのか、全然ビクともしない。
「ああ、もし後日にしたくなりましたらいつでも私が相手をしてあげますよ」
「っ!」
その台詞に反応してしまった俺はやはり男だからなのだろう。
そんなことを考えながら連行されていき、エルファの部屋にたどり着いた時、エルファの視線が鋭くなる。
「って、うわあ!」
そして次の瞬間に俺は横に押されて尻餅をついてしまった。
「痛た……いきなり押すとか酷くな――」
「何をしてらっしゃるのですか?」
俺が抗議の声を上げようとした瞬間、絶対零度の声音が響く。
「アイラ……」
視線の先には氷のような眼をしたアイラがボウガンを構えて立っている。
アイラは浮浪児の4人の中で最も体が成長した存在と言っても過言でなく、豊かな胸と魅惑の唇はたとえ隠されていても存分に色気を放ち、事実アイラを見ていると何とも言えない衝動が湧き上がってきていた。
「主に色というものを教えようとしまして」
ふとエルファの方を見ると手には何本かの矢が挟まっている。
状況から見るにアイラがエルファに打ち込んだらしい。
「エルファ様自らがユウキ様に教える必要はないと思いますが」
アイラの問いに。
「万が一のことを考えてです」
簡潔に答えるエルファ。
無表情VS絶対零度というのは見ていて寒気がしてくる。
「やれやれ、やっと追いついたよ」
その空気をひび割れさせたのは後から追いついてきたオーラだ。
彼女はブラッディ―Xの副作用によって幼女となってしまったが、その身にある技能は大人顔負けという。
「エルファさん。先約があるのに横取りとは感心しないね」
オーラは口元に笑みを浮かべながらそう聞いてきたので、エルファは「先約とは」との問いにアイラが答えた。
「ユウキ様の初めては私達が貰うという約束です」
何だそれは? 初めて聞いたぞ。
「ユウキ様には伝えていないからね。これは私とアイラで決めたことだから」
首を傾げる俺にオーラがそう囁いて補完する……と、いうかそれは約束と言えるのか?
「あなた方がユウキ様の相手をすると?」
「その通り。初めてはアイラに譲るけど2回目は私が貰おうかな、なんて」
ニコッと笑いながらそう述べるオーラ。
そこはかとなくオーラの笑みに猛獣のそれが思い浮かんでしまうのはなぜだろう。
そんなことを考えていた俺を余所にエルファはアイラとオーラを見比べて。
「失礼ですがあなた方に経験はおありですか?」
「……」
「まだないかな」
それがアイラとオーラの返事。
それを聞いたエルファは多少勝ち誇るような気配を滲ませる。
「そうならば辞めておいた方が無難でしょう」
「なぜですか?」
「簡単ですよ。初めてと初めてでは確実に失敗するからです。初というのは一度だけですから、それを失敗という形で終わらせたくはないでしょう」
アイラの問いに滔々と語るエルファ。
思い当たる節があるのか2人ともそれに満足な回答ができない。
「さあ、参りましょう主」
そしてエルファは俺の腕を掴んでドアノブに手を掛けようとしたのだが。
「だからと言ってエルファ様に任せるわけにはいきませんね」
アイラがまたも矢を放ってドアノブから手を離させた。
「そうだよ、例え失敗してもいいから初めては欲しいな」
オーラも完全に調子を取り戻したようだ。
「エルファ様、ユウキ様をお放し下さい。さもなくば……」
アイラがスリープボウに矢を補充しながら言い放つと。
「また返り討ちにあいたいのですか?」
エルファの気がさらに鋭くなり、まるで針を全身に刺されているような錯覚に陥ってしまう。
「今回は負けないよ。何せこれだけは譲れないからね」
オーラも懐から獲物を取り出すのだが、それを見た俺は血相を変える。
「待て待てオーラ! さすがにデモンズダガーは不味い! 取り返しのつかない事態になるぞ!」
どんな頑強な敵であろうとも5%の確率で即死させる効果のあるデモンズダガーをこの場で使っては駄目だろう。
「構いませんよ主。当たらなければどうということはありませんから」
そう言い切るのは勝手だが、あのオーラから一発も貰わないという芸当をできるのか? オーラは体は子供だから小さくて身が軽いので回避はおろか防御すら困難というのが俺の見立てだ。
ふと気づけば3人がすでに戦闘モードへ突入して激闘を繰り広げ、俺の意見など通りそうにない。
俺は周りを見渡すと5歩先に外へ通じる窓があるのを確認できた。
(イズルガルド、すぐに来てくれ)
そう心の中で呼びかけたのであと少しで来るだろう。
そして、竜の羽ばたき音が聞こえた瞬間俺は窓に突撃して外に出る。
『何用だユウキよ』
「野暮用だよ。しばらく上空を旋回していてくれ」
イズルガルドの問いにそう答えた俺は、先ほどまで俺がいた場所を見る。
そこには俺のことなどすっかり忘れて戦闘に熱中していた3人が確認できた。