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対貴族連合

 俺は至急主要なメンバーを集めて会議を開き、その席でベアトリクスを参謀につけると発表すると、当然のごとく反対者が現れた。


 反対しているのはキッカ、アイラ、ユキ、クロスやヒュエテルさん、ティータさんやサラ、ククルス、オーラなど市民出身の者で、賛成者は王宮に身を置いていたエルファ、フィーナ、レア、ミア、レオナなどだった。


「絶対に認められないわ! そんなこと」


 キッカがそう言って断固反対の態度を取り、周りもそれに同調する。


 キッカ達からすればジグサールの危機を齎し、さらに不快な言動をするにも関わらず自分達の上につくということが我慢ならないのだろう。


「いいえ、あなた達はベアトリクス様の力量を知らないからそんなことを言えるのです」


 するとエルファが反論する。


 エルファ達は王宮に身を置いていたのでキッカ達よりベアトリクスと長く接していた経験がある。僅か16歳の少女が老獪な国の重鎮を手玉に取っていた様子を知っていることから、絶対に敵に回したくないのだろう。


「あらあら、大変ねえ」


 自分の処遇からここまでの大騒ぎになっているにも拘らず、どこ吹く風とばかりに自分の銀色の髪をくるくる巻いて遊んでいるベアトリクスは本当に大した奴だと思う。


「お前のせいでこうなっているんだぞ、少しは収束させようと思わないのか」


 そのあまりに呑気な様子のベアトリクスにそう毒づいたのは仕方ないだろう。


「うーん、そうねえ。会議を長引かせて相手に時間を与えるのは馬鹿らしいからそろそろ終わりにしましょうか」


 ベアトリクスは挙手をして注目を集め、これまでとは違った凛とした口調で話し始めた。


「つまりあなた達は私の実力が信じられないから私が上につくことを是としないのね」


「当たり前でしょ! 王女か何だか知らないけど勝手に現れたあんたに誰が従うものですか!」


 キッカが立ち上がって激昂する。


「あらら、結構嫌われているわね。まあ、私は新参者だから仕方ないわ。しかし、私は老竜イズルガルドに認められ、我が君が参謀に命じたのよ。つまりキッカ隊長は我が君に逆らうとでも?」


「そ、それは……」


「ユウキ様を諌めるのが私達の役目なのよ、今はどう考えてもユウキ様は間違った決断を下そうとしているのだから逆らっていないわ」


 言葉に詰まったキッカの代わりに副隊長のククルスがそう弁護した。


「へえ、そう来るのね」


 ベアトリクスは何が面白いのかヒュウっと感嘆の声を上げる。


「まあ、そんな建前なんてどうでもいいわね。私は参謀なのだから私が提示した策で判断して頂戴」


 そろそろ潮時だなと判断した俺は口を開き、現在の状況についてアイラに報告させる。


「……現在私達は王女殺害の大悪人とされ、王国騎士団がこちらへの進撃準備を進めています。そして、それに並行して各貴族が私兵を徴兵しました。その数はおよそ5万。その数がこちらへ向かっていますのでおそらく貴族の私兵の方が先に戦闘が始まるかと思われます」


 アイラは多少不満げな様子だったがそんなことなど微塵も見せずにスラスラと文章を読み上げる。


「で、ベアトリクス。こちらは3万しかいないように見せかけているが、実は10万の戦力を持っている。だから彼らを殲滅できるが、それをするとリーザリア帝国が侵略してきた際に非常に困ることになる。こちらも相手も被害を最小限に抑えるにはどうすればいい?」


 おそらく向こうは俺が3万しか持っていないと踏んだのだろう。


 しかし、輪番制によって全兵のうち3分の2を単なる労働者として計上していたので実質上の戦力はその3倍にあたる10万だ。


 さて、この圧倒的優位の中でどれだけ被害を減らすよう采配を振るのか。


 俺がベアトリクスを見ると彼女は唇に手を当てて少し考え込んだ後に口を開く。


「そうね、彼らは数が多いけど所詮は寄せ集めの烏合の衆だわ。だからそこをつけば良いのよ」


「つまり頭さえ潰せば簡単だと?」


 俺がそう聞くとベアトリクスは大声で笑い始める。


「アッハッハ、それは無意味よ。むしろ下策ね。彼らは指揮系統ができていない代わりに個別に動くことができるから頭を潰しても素直に降伏勧告には従わない。そりゃあ相手を徹底的に痛めつけるならそれでいいけど、今回はそれを是としないんでしょ?」


 ベアトリクスの言うとおり相手の頭を潰して降伏を促すのが基本だが、彼らは寄せ集めであり各軍隊が別個の指揮系統を持っている。各個撃破するのならこれ以上の条件はないが、今の状態ではお勧めできない。


「それに貴族の中でも優秀な者は何人かいるのよ。もし乱戦の最中に彼らを殺してしまうのは非常に惜しいわ」


 腐敗が進んでいる貴族だが、やはりその中でもまともな貴族はいるものだ。この後を考えると彼らは生きていてほしい。


「で? どうする?」


「そうね。無能な貴族は粛清し、有能な貴族だけ生かす方針でいきましょうかしら」


「そんなことはできるのか?」


 俺がそう尋ねるとベアトリクスは当然とばかりに。


「できるわ。3回の敗北とお金があればね」


 女神のような美しい美貌を醜悪に歪ませてそんなことを吐いた。


「……まあ、今はそれを信じるか」


 キッカはそれに異を唱えるが俺は応じない。


 今はベアトリクスの立ち位置よりもこの事態を打破することが重要と考えたからだ。





「この戦が私の最期なのかもな……」


 私――エレナ=グランシリア=イーズルブル子爵は今回のユウキ=ジグサリアス=カザクラ男爵の討伐に疑問符を抱いている。


 彼は第一王女であるベアトリクス=シマール=インフィニティを殺害し、自らを王と称してジグサリアス王国の建国を宣言したとして反逆罪の疑いがかけられていた。


 一山幾らの浮浪児が市民となり、はては貴族として幅を利かせているのは生粋の貴族である私から見ても面白くないものだが、それでも荒廃した領地を僅か2年で国を代表する都市へと発展させ、多数の兵と魔導騎士団、そして竜騎兵軍団を持つまでに至らしめた彼の手腕は決して侮れないものだと考えている。


 まともにやりあえばこちらが大怪我をするので戦いたくないのだが、侯爵クラスの貴族に奨励をかけられては子爵である私は従うしかない。


 どうすれば良いのか散々悩んだ末に私は信頼できる兵を選抜してこの貴族連合に加わった。


 一応弁護のために言っておくが、少数の兵しか連れてこなかったのは私だけでない。他の何人かも私と同じ様な不安に駆られて兵をわざと少なめに持っていった。


 で、その所業が多数の兵を持ち込んだ伯爵や侯爵クラスの貴族達の不評を買ったのだろう。私を含めた少数の兵しか連れてこなかった貴族は初戦の前線を任された。


「今夜は無礼講だ! 何をしても許す!」


 そう言って祝宴を催し、最後の晩餐とばかりに大騒ぎした翌日。


 私はここで果ててしまうとまで考え、意気込んだ戦いだったのだが、以外にもジグサール反乱軍は大して戦いもせず、早々に軍を引き上げていった。


 私はこの機を逃さず追撃しようとしたのだが、後に残された糧食や軍資金を見て取り止めざるを得なかった。自分の領地の1年は無税でもいけるだけの量が残されていたので、隊長達がここで止めることを進言したからだ。


 最初の取り決めにより、戦いによって得た戦果は各々が自由にしてよいと決まっていたので、これらは自分たちと同じ様に前線を任された者だけで分かち合った。


「これだけあればしばらく民を飢えさせずに済むな」


「ああ、俺の領地も子供を売る親が減る」


 その成果に後方で控えていた貴族達は歯軋りしていただろうが、これくらいは許されるだろうと。前線に出ていた私達は笑いあった。


 で、次の戦いも私達が先鋒になった。


 あれはたまたまの偶然。次からはジグサール反乱軍が本腰を入れてくるという意見が満場一致だったからだ。


 そして2回目の戦闘。


 これも1回目の戦闘の繰り返しでジグサール反乱軍は早々に撤退していった。


 違っていたことといえば残されていた糧食と軍資金の量ぐらいか。


 前回は1年分だったが、今回は2年分あった。


 私達が大した戦闘もせず、うまうまと成果を得たことが悔しかったのだろう。


 今度は彼らが前線に出た。


 3回目に何か起こると踏んでいたのだが、何事も起らずに戦闘は終了。彼らは3年分の糧食と軍資金を得た。


 そして、次に誰を先鋒に据えるかは大揉めに揉めた。


 この3回の戦闘で連勝し、旨味を知った私達が「自分が自分が」と自己主張したからだ。


 ジグサール反乱軍など恐れるに足らず、所詮は成り上がりの者だ。


 と、いうのがすっかり私達の常識になっている。


 が、私はそれを冷めた目で見ていた。


 産業都市ジグサールが生み出す利益は私が持つ領地からの収入など比べ物にならない。そして、もしジグサールが10年分でもポンと出せるぐらいの財力があるのなら、私達はすっかり相手の策略に嵌っているといえる。


 すでにこの連合の統制などあらず、各々がいかにして相手を出し抜こうかに注意を張り巡らし、ジグサール軍のことなどもはや考えていない。


 しかし、彼らは知っているのだろうか。


 ジグサール反乱軍はまだ竜騎兵軍団と魔導騎士団を出撃させていないことに……


 そんな懸念を抱いた私は後方支援に回ることにした。


 そして、それは私だけでない。


 初戦と次戦で共に出た者の多くも私と同じ危機感を抱いて裏方を選んだ。




「……カザクラ男爵は恐ろしい方ですね」


 そんなことを呟くのは私の部下であるキリング=トリアエルだ。


 彼女は頭が私より切れるので私の右腕として軍政に活躍してもらっている。


「どういうこと?」


 聞き逃せない言葉を呟いたキリングを私は問い詰めると、彼女は前線の方に目を向けながら。


「おそらくカザクラ男爵はすでに戦の後を視野に入れています」


 見て下さい、とばかりにキリングは両手を広げて。


「今、この連合は欲に負けた者と欲を制御できた者の2つに分かれています、前線には前者が集まり後方には後者が集合しています」


 その言葉の従い私は周りを見渡す。


 前線にいる貴族は民からの評判が悪く治安も低い。そして後方にいる貴族はその逆で名君とはいかないまでも優れた統治を敷いている者ばかりだ。


「そうです。玉石混交の貴族連合をカザクラ男爵は2つに分けました、私ならここで仕掛けま――」


「ま、魔導騎士団だ!」


 キリングの言葉と同時に前線から絶望の悲鳴が上がり、幾つもの火柱が出現する。


 魔導騎士団――魔法によって広範囲殲滅を主とする軍団であり、彼らを擁するのは一部の実力者にしか許されない。


 打たれ弱いが、その攻撃力は比類なき力を持つ彼らが最も力を発揮できる瞬間は今回のように相手が密集している時だ。


 事実、彼らが放つ魔法は大きく地面をえぐり、次々とこちらの味方を絶命させていく。


「な、何をしている!? こちらも魔導騎士団で対抗すればいいだろう」


 魔導師の攻撃を防ぐには特殊な加工を施した防壁か装備で身を固めるか同じ魔導師で対抗するしか手段はない。私は魔導師を持っていないが、侯爵や伯爵クラスの貴族なら擁しているだろう。


 しかし、キリングはそれに首を振る。


「もう遅いですよ。魔導師というのは集団になると力を発揮します。最初の一撃で固まっていた魔導師を狙い撃ちにしましたから彼らに防げることはできませんし、何よりあちらは練度と装備が違います」


 キリングの言葉通りだ。


 彼らの魔導騎士団は宮廷魔導師など優秀な魔導師で構成されているだけでなく、あの世界最高峰の技術力を持つ産業都市ジグサールの装備だ。そこら辺の魔導師では敵うはずもない。


「しかし、このまま見捨てるわけにもいかん! 総員! 戦闘準備」


 一刻も早く彼らを救援しなければならない。私はその思いに駆られて号令をかけるのだがキリングは諦めた様な声音で呟きました。


「もう遅いんですよ、すでに私達は詰まれています。ここまでの策を考えたカザクラ男爵が救援などを許すと思いますか?」


 その言葉と同時に身も凍るような咆哮が辺りに響き渡り、私達の上に30体を超える竜が上空を旋回し始めた。


「私はジグサリアス王国竜騎兵軍団『風』を率いるキッカ=カザクラ! 素直に降伏するのなら身の安全を保障するわ!」


「……私達の負けです、ここは潔く投降しましょう」


 キリングの言葉を聞いた私は地面に膝をついて慟哭するしかなかった。


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