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立国宣言

今回からしばらく戦いが続きます。

相当ご都合主義な展開が続くかもしれませんが

どうか寛大な心でお許しください。

 突如振って湧いた出来事に俺は何と答えればいいのだろう。


 つい先程までは俺達が心血を注いで作り上げたのを見て万感の思いだった都市が、それが今にも崩れそうな砂上の楼閣になり果ててしまった。


「あらあら、大変ねぇ」


 そんな危機を伝えた少女――ベアトリクスは何が楽しいのかまたクルクルと回り始めた。


「誰か、こいつを――」


 捕えろ。と言う前にエルファが一歩前に進み出る。


「お待ち下さい、主」


 エルファはベアトリクスを擁護するかの様に俺の前に立ち塞がった。


「何の真似だ、エルファ?」


 場合によってはただで済まない。そんな気迫を込めて言い放ったが、エルファは瞳の揺らぎすら見えなかった。


「怒りにまかせてベアトリクス王女を捕えても何もなりません。それに」


 そのエルファの相変わらずな冷静さに俺は少しだけ正気を取り戻した。


 だから俺はエルファに先を促す。


「ベアトリクス王女は策略や姦計において右に出る者はおりません。ここは王女を参謀として迎え、この難局で試してみては如何でしょうか」


「……」


「それに主は重大な勘違いをなさっています。ベアトリクス王女は謀略に巻き込まれた被害者です、この騒動はどう見ても王女に何一つ利がありません」


「謀略や姦計において右に出る者はいないのに策略に引っ掛かったのか?」


「それは……」


「これから先は私が説明するわ」


 エルファが言い淀むとベアトリクスは回転を止めて俺に向き直る。


「私も馬鹿だったわ、国内だけに目を向けていたからこの様になった。まさか隣国のリーザリオ帝国がこんな謀略を仕掛けてくるなんて思いもしなかったわ」


 リーザリオ帝国とはシマール国の北にある国家で国土は同じくらいだがそのほとんどが山脈のため痩せているのだがその分民は逞しく、兵も精強である。


 飢えや逆境を経験している兵を侮ってはならない。彼らは引くことを知らない死兵へと容易になり易い。


「フォルター兄様が唆されたのよ。私を謀殺してその罪をカザクラ男爵に被せろって。間一髪エルファが気付いたおかげで何とか生き延びることが出来たわ」


 つまりこの国を狙っていたリーザリオ帝国が謀略を仕掛け、あわや殺されそうになったので俺の所へ逃げのびてきたと。


 話としては筋が通っている。


 最近リーザリオ帝国が軍事演習で活発になってきたという報告が届いていたから真実味はあるだろう。


 しかし。


「お前がリーザリオ帝国の間者という線も否定できないな」


 すでに王女は死んだことになっており、目の前にいるのはただ頭のおかしい少女だからそんなぞんざいな口調で構わないだろう。


「あらあら、性格悪いわねえ」


 お前には言われたくない。と、心の中でそう叫ぶ。


「けど、こればかりは信じてもらうしかないわ。今の私に証明できるものは何もない」


 まあ、そうだろう。


 2人は相当慌てていたらしく、最低限の持ち物で逃避行を続けていたのか衣服の所々が薄汚れていた。


「イズルガルド」


 俺には手が余るとし、確かな審議眼を持つ者の名前を呼んだ。


『何用かな、ユウキよ』


「少し困ったことになった、至急来てほしい」


『わかった』


 短い言葉だがすぐに来るだろう、この時間帯はまだイズルガルドの活動範囲内だ。


「ねえ、いったいユウキは何をぶつぶつ言っているの? もしかして頭がおかしくなった?」


 ……エルファがいなければ俺はこいつを百回殺していた自信がある。


 隅の方でもベアトリクスを射殺そうとするアイラを必死に抑えるオーラの姿が確認できた。



 俺達はイズルガルドが滞在できる中庭へと移動し、イズルガルドにベアトリクスを見てくれと頼みこむ。


「うーん、なんか嫌な感じね。心の奥底まで見透かされているようだわ」


 ベアトリクスの感想は概ね合っている。テレパシーが使えるイズルガルドの前にはどんな嘘もつくことはできない。


『……ふむ、おそらくこの娘は嘘をついておらん』


「ほら、私の言ったとおりでしょ」


 視線を外したイズルガルドはそう評したのを聞いてベアトリクスは胸を張る。


 俺はその態度にイラッときたが飲みこみ、そしてわざわざここまで来てくれたイズルガルドに礼を述べた。


「ありがとう、イズルガルド。助かった、このお礼はいずれする」


『ワシの酔狂だから礼などいらん。それではユウキ、もう用はないようじゃからこれで失礼するぞ』


 イズルガルドはそう述べると翼を広げて飛び立ち、元の場所へ帰って行った。


「イズルガルドがそう評するのなら問題はないだろう。ベアトリクス、お前を参謀に命ずる。だからしっかり働け」


「ご拝命承りました我が君。必ずやご期待に添えて見せましょう……アハハハハハハハ!」


 ベアトリクスは恭しい態度で頭を下げたと思いきや次の瞬間には大声で笑い始めた。


「……よくこれで権謀術数渦巻く王宮内で生き残れたな」


 怒りを通り越して呆れてしまう俺がそこにいる。


 するとエルファこうフォローした。


「ベアトリクス様は普段は淑女然としていますが、気に入った相手だけこのような態度を取ります」


 それを聞いた俺は喜んで良いのか悲しんで良いのか分からなくなってしまった。




「ああ、そうそう」


 何を思い立ったのかベアトリクスがポンと手を打つ。


「ちょうどいい機会だわ。この際王国の設立を宣言しちゃいましょう」


 そのあまりの言葉に全員が呆気に取られるが、構わずベアトリクスは話し始める。


「今のままでは私達は反乱軍だわ。しかし、それだと風評に悪いから何とかしましょう」


「あのなあ、それならお前が生きていたことを公表し、あちらの非を弾劾すればいいだけだろう」


 俺は正論を言ったつもりなのだが、ベアトリクスは馬鹿にしたような笑みを浮かべる。


「何言っているの、あちらは絶対に私の生存を認めないでしょうね。まあ、それでも良いけどこの場合だと王国の設立を宣言した方が民衆受けにいいわ」


 どういうことかと、俺はエルファに聞いてみる。


「今の王国に民衆は失望し、大地は荒れ果てています。王族はすでに尊敬の対象でなくなり、逆に国を乱す憎悪の的となっているのが現状です」


 エルファの答えに我が意を得たとばかりにベアトリクスが。


「そういうこと。ここは私の生存よりも我が君を新しくたてた方が良いのよ」


「ふざけるな」


 さすがに無理があると考えて反論し、そこで終わったのだが。


 なぜか後日になると俺が立国宣言するという話題で都市中が持ちきりだった。


「へえ、それは良いじゃない」


 意外にもキッカがその意見に賛同する。


「ユウキ様が王となられることに私は反対することなどありません」


 アイラまでそんなことを言う。


「……王様、すごい」


「まさかそんな日が来るなんてね」


 ユキもクロスも乗り気だ。


「ああ、ボクがそんな遠いところまでいっちゃったか。お姉さん悲しいわ」


「師匠、私は何があっても師匠の弟子です」


「王様ですか。その時は貧困者を生み出さないでくださいね」


 ティータさんやサラ、ヒュエテルさんも乗り気だ。


「いいんじゃない? 私は相応しいと思うわよ」


「そこに関しては姉さんと同意見です」


 こんな時に限って姉妹が意見をそろえる。


「まあ、キッカお姉さまが認めたのなら」


「アイラと共に御身を守ります」


「ボクに反対する理由はないな」


「王の誕生か、いいものだ」


 ククルス、オーラ、ミアーそしてレオナは口々に推薦する。


 八方塞になった俺は藁をも縋る思いでエルファを見やるが。


「諦めてください、主」


 案の定、藁がプッツリと切れた。


「どうしてこんなことに……俺は元々浮浪児だったのだぞ」


 気が付けばいつの間にか俺は王様。


 サルと呼ばれたどこぞの百姓もビックリの出世だ。


「やればいいんだろう、やれば」


 俺は観念してそう呟いた。


「本当にあなたは優柔不断ねえ……アハハアハハハハ!」


 この噂を広めた元凶の高笑いがいやに耳についた。




 翌日――場所は役所前広場


 ジグサールの中心場所だから大きくしないと駄目だろうということでここは結構な工事を行い、ジグサール内で最大の規模を誇っている広場だ。


 その広場の前には多くの民衆が押し寄せている。


 その目が不安げに揺れているのは、つい先ほど俺が第一王女を暗殺したとして反逆罪に問われている事実が広まったからだ。


 だから昨日民衆に集まるよう表明したばかりなのに、今日の昼にはこの広場が満杯になり、近くの道まで溢れ返っている状況だ。


 さて、やるか。一世一代の大芝居を。


 俺は覚悟を決め、清水寺から飛び降りる覚悟でイズルガルドの背に乗った。


『鎮まれ、皆よ』


 突然皆の頭にそんな声が響き渡り、大きな体躯を持つ竜が辺りを旋回した。


「皆の者、私が王女殺害の反逆罪に問われたユウキ=ジグサリアス=カザクラだ!」


 水を打ったかのような沈黙の中、俺の声が響き渡る。


「今、ここにいる者は不安なのだろう。本当に私が王女を殺したのか知りたいのだろう」


 と、ここで俺は一区切りする。


 さあ、もう後には引けないぞ。


「それは無実だ! ベアトリクス王女はここにいる!」


 俺の後ろから現れたのは嫋やかな雰囲気を持つ銀色の髪が印象的な少女。


 そう、あのベアトリクス=シマール=インフィニティだった。


「皆もこれで分かっただろう! いかに王宮の発表が欺瞞に満ちているのかを!」


 ベアトリクスが姿を現したことで群衆に安堵が広がる。しかし、ここで安堵しては困るのだ。


「王女は生きている! しかし、王宮はそれを偽物だという! それは何故か?」


 群衆が俺の問いについて周りと相談し始めたのでざわざわと騒ぎ出した。


「それは自分達が妬ましいからだ! 自分達が素晴らしい生活を送っているから! それを壊したいのだ!」


 何て酷い王宮だ。と、あちこちから呟きが漏れ始める。


「諸君! 今、この国はどうなっていると思う! 田畑は荒れ果て、貴族の専横が横行し、国は荒廃した。ゆえに、王女はその責を負うとして退官し、代わりに私が王になれと進言した!」


 王という言葉に群衆がざわめき始める。それはそうだろう。


 王というのは天上の存在だ。普通に暮らしている分だと絶対にお目にかかれないのだから。


「私は迷った! この私に王など務まるのかと! しかし! 私は思い当たった! 今、我々は豊かな生活をしているが、他の地方はどのような暮らしを送っているのか! どのような苦汁を味わっているのか!」


 この言葉には最近流れてきた難民が反応する。


 彼らは相次ぐ重税で身動きが取れなくなり、断腸の思いで故郷を捨てた者なのだ。


「そのような中、国はいったい何をしていたのか! 我々の苦しみを知っているのか!」


 俺はイズルガルドの背に乗って広場や近くの道を何度も旋回していた。


「いや、知りはしない! 奴らは我々の涙を啜っているのだ!。血を啜っているのだ! そんなことが許されると思うのか!」


 そうだ! 絶対に許せない! とあちこちから上がり始める。


 それはアイラが仕込んだサクラからだったのが、今回はそれが良い働きをしてくれる。群衆はすでに興奮状態に陥り、俺の言うことに疑いを抱いていなかった。


 さあ、総仕上げだ。


「だからこそ私は王を名乗る! 腐りきったこの国を滅ぼし! 新たな国を作ることにする!」


 俺はここで大きく息を吸い込み、一息に吐き出した。


「その国の名はジグサリアス王国! 諸悪の根源であるシマール国を打ち倒し、我々が笑顔で暮らせる国を作ることをここに誓おう!」


 爆発したような歓声の中、俺はさらに言葉を重ねる。


「ゆえに、私の手足となって動いてくれる者達を紹介しよう!


 風林火山の将帥よ! 呼ばれた者は前へ!


 キッカ=エメラルドグリーン=カザクラ侯爵


 疾きこと風の如く――竜騎士団『風』を率いる者とし、その補佐としてククルス=トパーズイエロー=フォンテジー伯爵を任命する。


 疾風迅雷を体現する軍として敵に痛撃を与えよ!


 アイラ=サファイアブルー=カザクラ侯爵


 徐かなること林の如く――隠密集団『林』の総責任者とし、補佐としてオーラ=アメジストパープル=ユクエリス伯爵をつける。

 

 無から来る恐怖を存分に敵に味わせることを期待する!


 ユキ=ルビーレッド=カザクラ侯爵


 侵掠すること火の如く――魔導騎士団『火』の団長となれ、補佐としてミア=ガーネットオレンジ=ヴァルレンシア伯爵を命ずる。


 その圧倒的火力によって敵を殲滅せよ!


 クロス=ダイアモンドホワイト=カザクラ侯爵


 動かざること山の如く――ジグサール騎士団『山』の将軍に命じ、補佐としてレオナ=ジルコンクリア=カリスリン伯爵を任せる。


 その不動の姿から敵を跳ね返せ!


 そして、それらを統括する参謀にベアトリクス=アレキサンドライトブラック=インフィニティを命ずる。


 風林火山を自在に動かし、我々に勝利を齎せ!」


 彼らが呼ばれ、群衆に向かって礼をする度に広場から歓声が迸る。


 俺は次に声を出すタイミングを見計らい、今だと思った瞬間に最後の宣言をした。


「私は誓おう! 必ずや民衆を圧政から解放すると!」


 ジグサリアス! ジグサリアス! ジグサリアス! ジグサリアス! ジグサリアス! 


 ジグサリアス王国の建設を賛同する声音がいつまでも広場に響いていた。

次は対王国騎士団です。


2011年12月2日 ジグサリアス王国の設立の話を追加しました。

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