とある日の葛藤
「うーん……」
俺は机の上に作成した薬をどうしようか頭を捻る。
サラはいなく、エルファもどこかを掃除しているためこの部屋には俺1人だ。
「使うか使うまいか、それが問題だ」
俺をこんなに悩ましているのは目の前に置いたブラッディーXについてだった。
この薬は本来課金アイテムであり実際にお金を払うことによって得られる類のものである。
効能はこれを飲むとステータスが上がり易くなるというもの。
俺は金が無かったので使用できなかったが、サラリーマンなどお金はあるけど時間がないプレイヤーがよく使用している代物だった。
もしこの薬を自在に作れるようになればどうなるのか。
確実にこのゲームの支配者になれる。
そんな魅力に憑りつかれた1人のプレイヤーが違法ツールを使用してこの薬を自在に生み出せるようにした。
管理者側がそれを規制するまでの間、短時間で最強クラスのプレイヤーが大量発生したのは言うまでもない。
プレイヤー時代ではもうこの薬は作れないが、この世界だとどうなるのか。
幸か不幸か俺はその違法ツールを知っていたので、調合レベルが規定以上に達したから違法ツールに書いてあった素材と手順から違法ブラッディーXを作ってみた。
「作れることは作れるんだな」
出来た代物は色も味も全てブラッディーXそのものだ。
だからこれはブラッディーXと判断していいのだが。
「正直な話、怖くて使えない」
ゲームの世界で禁止されたものをこの世界で使うとどうなるのか予想がつかない。
そんなに不安なら使わなければいいじゃないかと思うのだが、捨てるには未練がありすぎた。
「どうしようか……」
堂々巡りである。
「主、お手紙です」
そんなことを考えているとエルファさんが現れ、ペーパーナイフで封を切って俺に渡して退出する。
「ふむふむ……」
手紙の内容はキッカからだった。
勉強が大変でそれに相方も嫌な奴、本当に苦しいとの旨が書いてあった。
「そうか、困っているのだな」
椅子にもたれてどうすればいいのか思案していた俺は机に置いてあった違法ブラッディーXが目に入る。
「ちょうど良いかな」
俺はニヤリと笑う。
この薬をキッカ達に試してみよう。
たぶん大丈夫だ、死にはしない。
そう考えた俺は早速この薬を大量に作ってキッカに送った。
「さてさて……どうなることやら」
後日談としてキッカの他のアイラ、ユキそしてクロスにも同じように送って効果を確かめた結果、めでたくお蔵入りとなった。
「やはり違法な代物は駄目なのだな」
俺は一つ学んだ。
これで間章は終わりです。
ありがとうございました。