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ゲームの世界で第二の人生!?  作者: シェイフォン
間章 ブラッディーXの効果
20/55

竜騎士キッカの誕生

首輪登場。

異論は受け付けない。

「予想以上の展開になりましたね」


 扉の外で待っていたククルスが嬉しそうにそう言って私を出迎える。


 彼女、ククルス=フォンテジーは私が冒険者のための学校にある寮で出会い、現在は私の補佐を務めている。


「あれだけの功績を残したキッカお姉さまにあの無能な連中は無下できるわけがありません、必ず呑まざるを得ないと考えていましたが、まさかこちらの要求を全て叶えるとは思いませんでした」


 私をお姉さまと呼び慕うククルスは150㎝に届かない小さな身長や大きな瞳、愛らしい顔つきとフワフワの栗毛から小動物を連想させるけど、中身は結構腹黒く、私以外の人間を陰で罵倒する良くも悪くも小動物と言ったところが私の認識だわ。


 しかし。


「いくらあなたでもユウキを馬鹿にするのは許さないわよ」


 ククルスの性格の難点は知っているものの、どうしてもこれだけは譲れない。


 ユウキがいなければ今の私は存在せず、あの街でゴミを漁っていたのだから。


「ご、ごめんなさいお姉さま! 決してお姉さまの機嫌を損ねたいわけじゃなく……」


 先ほどまでの嬉しそうな様子はどこにやら、一転して悲しそうに目を潤ませて平伏すククルス。


「ああ、誤解しないで。私は決してあなたを無下にしたつもりはないのよ」


「しかし……」


 私はそう慰めるけど、ククルスの気分は晴れない。


 これではククルスが普段通りに動くことができないから私はククルスの耳元に唇を近づけていつもの言葉を囁く。


「私がどれだけあなたを必要としているのかわかるでしょう? 夜にその証拠を見せてあげるから元気出しなさい」


「は、はい! お姉さま。楽しみにしています」


 するとククルスはパッと顔を上げ、目を潤まして返事をしたわ。


 ……うーん。


 私のせいでもあるのだけどククルスの百合具合は半端じゃないわね。


 こんな性質だけど彼女はそれを補って余りある才能を秘めているから困ったものよ。


 輪番制の際にもククルスがいなければ私は総監督時に何をしていいのかわからなかったでしょうね。彼女は人を動かしやすい環境を作るのが得意なのね。


「ああ、お姉さま。今日はどのような行為で私を可愛がってくれるのか。前日の首輪プレイは最高でした」


「……最初の頃の私達が今の光景を見たら卒倒するわね」


 うっとりと目を細めるククルスを横目で見ながら私はククルスと出会った当初の頃を思い出しながらそんなことを呟いたわ。



 

 私達の関係はお世辞でも良好な関係でなく、むしろ反発しあっていたのよね。


 冒険者の卵として日々教育を受けるのは苦痛だったわ。


 いったい何が悲しくて長時間椅子に座らなければならないのよ。


 けれどそれを耐えなければ冒険者になることはできないので、私は必死に耐えていたわ。


 それだけなら良かったのだけど、相方である学年首席のククルスが腹の立つこと。


 勉強ができない私を軽蔑し、いつも蔑んだ瞳で睥睨してくるのはうっとうしかったわ。


 で、その辛さをユウキに手紙を書いて送ったところ、ユウキから大量の薬瓶が送られてきた。


「……ブラッディーX?」


 よくわからない薬品の名称をそう読み上げる私。


 これまでの座学で冒険者の心得として多数の薬品を学んだ私でさえこのような薬はなかった。


「危ないものなのかしら」


 一瞬そう考えたがすぐに否定する。あのユウキが意味もなく送ってくることはありえない。必ず私にとってプラスになるものだ。


「えーと、何々?」


 説明書が付随していたので私はそれを読み上げる。


『この薬は成長率を上げる効果と引き換えに副作用が心配されるが気にするな、死にはしない』


「……止めておこうかしら」 


 どんな副作用が起こるかわからない薬を飲むのはいくら私でも躊躇われるわ。死にはしないとしても体に異変が現れるのだからちょっとねえ。


 そこまで考えて苦笑したと同時にククルスが部屋に入ってきた。


 そして薬を手に持った私を睥睨して。


「あらあらドーピング? まあ、そこまでしないと勉強できない人間って哀れよね」


「……」


 胸に参考書を抱えて勝ち誇るように言い放ったククルスを見てこのブラッディーXを使用しようと心に決めたことは言うまでもないわ。


 始めは飲んでも飲まなくてもそんなに変わらなかったのだけど、日が追うごとにその効果がハッキリと見て取れた。


 頭が回るというか、複数の事柄を結びつける作業が容易になりだしたのよね。


 そうして私はおちこぼれから天才と呼ばれるようになっていたわ。


 と、同時に私の中で燃える様な感情を抱き始めていたわ。


 カリスマっていうのかしら。


 その衝動のままに言動を行うと周りの人間が先生を含めて私に羨望の目を向けるようになり始めるのよね。


 今振り返るとあれが副作用だったのかもしれないわね。


 現在では薬なしでもカリスマを発揮できるけど、あの時は未熟だったわ。


 まさか学園で革命を起こすなんて思わなかった。


 ありえないけど本当なのよ。


 若気の至りというか今では反省しているわ。


 で、その時に参謀として私の騒動を大きくしたのがククルス。


 ククルスは私と接する時間が長かっただけに、忠誠を通り越して依存の域にまで入っていたわ。


 落ちこぼれだった私を蔑む様子から尻尾を振るような心酔具合までの変貌を見せられると、どうしても苛めたくなってきちゃった。


 ……今も続いているけど部屋でククルスに首輪をつけて主従ごっこをやっていたのは内緒よ。


 ククルスは勉強だけができる嫌な奴と言う印象だったけどそれは改められた。


 あそこまで人を動かすのに長けているのなら鼻持ちになっても仕方ないわね。


 とにかく、ククルスが参謀を務めたおかげであそこまで騒動が大きくなり、ククルスが後始末に動いたから私は退学にならず、逆に学園に私の要求のいくつかを認めさせれたわ。


 で、本当ならククルスとはそこで終わりだったのだけど、彼女は私についてきたわ。


 首席はギルドの幹部候補生として栄誉あるにも関わらずそれを蹴ってまで私に付き従うククルス。


 ククルスの意志は固く、翻意を促せないとして妥協案で学年次席がギルドの幹部候補生になったわ。


 学園長が送る言葉に「キッカとククルスが在籍したこの3年間は学園で永久に語り継がれることは間違いないのです」と名指しで涙ながらに語っていたのが印象的だったわね。

 

 革命以外にも私とククルスは色々とやらかしたから仕方ないかもね。




「さて、ククルス。竜が住む場所の特定はできているのでしょうね」


 回想はここで終わり。私は頭を切り替えて次の算段について尋ねる。


「は、はいお姉さま。アイラからの情報もあってしっかりと掴んでいます」


 ククルスの言葉に頷いた私はリストに載ってあった者の下へ向かったわ。


 さあ、憧れの竜に乗れる日はすぐそこにあるのよ。


 


 竜が住むとされる場所は人が踏み入れられない秘境にあると聞いていたけど、本当に前人未到の場所にあるのね。


 ジグサールの周辺ほどではないにしろ、ここまで魔物が強く悪路が続く道は容易に人を奥へ進ませないわ。


「皆、ついてきてる?」


 人の方向感覚を狂わせる樹海の中、一定時間ごとにそう聞いて回るのだけど誰一人として遅れる者はいない。


 さすが幹部や幹部候補生とだけあって体力と精神力は並大抵なものではないわ。


「そろそろ目的地へ着きます。ですのでここら辺りで休息を取るのはどうでしょうか」


 ククルスがそう進言してきたので私はそれを取り入れ、皆に休憩を言い渡したわ。


 皆疲れているのだけど眼はキラキラと輝いている。


 そうでしょうね。


 後数時間後には竜と出会い、さらに上手くいけば竜に乗れて大空を飛びまわれるのであればこれまでの苦労など吹き飛ぶでしょう。


「あの……お姉さま、大丈夫でしょうか」


 けど、一人だけ例外がいるわ。


 ククルスだけは当初から浮かない顔でしきりに私のことを心配してくるのよ。


 だから私は安心させるようにククルスの頭をなでる。


「大丈夫よククルス、もし失敗しても私だけが犠牲になるだけだから」


「それが駄目なんです!」


 ククルスは通常出さない音量で私を責めた。


「私はお姉さまが全てなんです! お姉さまがいないのならこの世界は要らない! お姉さまのためなら全てを敵に回す覚悟はあります」


 ……正直驚いたわ。


 まさかあのククルスがそんなことを宣言するなんて想像できなかった。


 私は嬉しく思う反面悲しくもある。


 もし私がいなければククルスは今頃ギルドの幹部候補生として片手団扇な生活を送っていたわ。


 しかし、薬の作用によって私に依存してしまったからククルスは私の片腕として過酷な場所に身を置かざるを得なくなってしまった。


 さすがの私でも多少の罪悪感を感じているのよ。


「死ねないわね」


 ククルスを抱き締めながらそう心に誓う私。


 おそらくククルスは私が死ぬとすぐにでも後を追ってくる。


 ククルスをそうしたのは間違いなく私の責任だ。


 ユウキとそしてククルスのため。


 私はこの挑戦を必ず成功させなければならないと心に決めた。



 樹海が終わり、その先にあるのは渓谷だった。


「……なんというか」


「壮観ですね」


「俺はこの光景を一生忘れないぞ」


 後ろに控えている隊員のメンバーが口々にそう呟くのも理解できるわ。


 普通竜というのはお目にかかれる存在でなく、あったとしても一生に一度あるかないか。


 そんな希少な存在が、目に入るだけでも20は下らない光景に出くわせばそんな感嘆が漏れても仕方ないわね。


「さて、ここからは私一人でいいわ」


 竜のテリトリーに入る一歩手前で私はそう命令する。


「この内の何人かはククルスを抑えておきなさい。その他の隊員は何があってもここで待機。そしてもし私が死ぬことになれば一目散に逃げなさい。いいわね、ククルス?」


 あえて名指しでそう呼ばなければククルスは私についてきただろう。ククルスが何か抗議を上げる前に私は背中を向けて竜の住処へと踏み入れた。


 案の定、私が一歩侵入すると近くにいた竜が容赦なく咆哮を上げ、火炎を吹きかけてきた。


「本当にユウキの武器防具は大したものね」


 鉄すら燃やし切るブレスを身に受けながらそんな感想を漏らす。


 多少熱くは感じるけどその程度よ、我慢できる範囲内だわ。


 ブレスが効かないと悟った竜は大きな巨体を生かした突進を仕掛けてくる。


「まあ、この程度は予測済み」


 韋駄天の魂によって強化された私にはハエが止まるかのような速度に見えてしまう。十分な余裕をもって攻撃を躱した後、手に持った私の身長ほどある風神のドラゴンキラーが生み出す衝撃波を放った。


 竜の皮膚は何人も通さないとされているけど、ユウキ特製のドラゴンキラーの前では無意味みたい。軽く振った程度なのに竜の背中には大きな傷跡が作られていたわ。


「下がりなさい! あなた達では相手にならないわ」


 こういうのは気迫がものを言うのよ。


 言葉は通じていないと思うけど私の意図は伝わったと思うわ。


 そのせいか竜達の唸り声が止み、奥から老竜と呼んでも差し支えないほど皺くちゃの竜が姿を現したわ。


『人間よ、我らの地に如何なる用で参った?』


 何これ? 直接頭に響いてくるのだけど。


『テレパシーと言うものじゃ。エルフなど高等生物が使う一種の意思疎通手段じゃな』


 へえ、便利なものね。私にも使えないかしら。


『先ほどにも言ったであろう。テレパシーが使えるのは高等生物のみじゃ』


 ふーん、そう。まあ使えないのなら仕方ないわ、どうしてもほしいものじゃないし。


『お主は変わっておるのお。ここまで蔑んでも感情に起伏は見られん』


 と、そこで老竜は私のことをまじまじと見つめてきたわ。


 その年齢を重ねた瞳で見つめられると私の全てを見透かされそうで不快ね。


『ふむ……キッカというのか。そして竜を従えにここまで来たと』


 私は何も話していないのによく分かったわね。


『お主が何を想い、何を考えているか。100も生きられぬ人の子の考えなど手に取るように分かる』


 まあ、別にいいけど。知られたからと言って減るもんじゃないし。


「で、どうするの? 私の要求はただ一つ、従うか否か」


『その答えはすでに分かっておろう。我らは人に頭を下げることなどない』


「ふうん、そう。なら力づくで従えさせるしかないけどそれでも良い?」


 私は手に持ったドラゴンキラーをコツコツと叩きながらそう言い放つ。私の挑発的な物言いに他の竜達が騒ぎ始めたわ。


「まあ、あんた達が戦うのなら別にいいけど。こう言っては何だけどおそらくあなた達は私に触れることすらできずに全滅するわよ」


 ユウキの作った装備を舐めないでちょうだい。大陸最高の腕前を持つユウキ=カザクラの名は伊達じゃないわよ。


『鎮まれ! 馬鹿者!』


 気勢を上げていた若い竜達を一喝する老竜。


『確かに、お主の力量はわしらのそれを大きく超えておる。おそらくわしら全員でかかったとしても、後に残るのは我が同胞の亡骸じゃろうな』


 へえ、よく分かっているじゃない。


『お主が親と仰ぐユウキ=ジグサリアス=カザクラと会わせてほしい。彼の態度次第でわしらは誇りか服従かを選ぶ』


 まあ、妥当な提案ね。


 いくら何でも突然現れて「従え」なんて無茶な注文だから仕方ないかもしれないわ。




「お姉さま~」


 交渉? を終えた私は隊員が待機している場所に引き返すとククルスが涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら私に抱きついてきたわ。


「ちょ、ちょっとククルス? いくら何でもこの場でこれは不味いんじゃない!?」


 仮にも私とククルスは上司で見ている隊員は部下よ。部下にこんな様を見せて良い訳はないわ。


 すると隊員は苦笑しながら。


「2人が禁断な関係にあるということはもうとっく知られていますって。けど、安心してください。だからと言って自分達がキッカ隊長とククルス副隊長を軽蔑することはありません」


 むしろこれがあるから自分達はあなた達についていくのです、と言われて私は何とも言えない気分になるわ。


 ……本当にこの人選で良かったのかしら


「良かったですね、私達は公認です」


 ククルスのそのセリフに私は頭を抱えたのは言うまでもないわね。




 後日


 めでたく私達の部隊32人は全員竜騎兵として大空を駆け回ることができたわ。


 ユウキ曰く「突然竜が現れ、訳も分からず問答が開始されて驚いた。交渉の末、キッカが生きている限り我が同胞32体を貸し出すということで決着がついたぞ」とのこと。


 つまり私が死ぬと自然と竜騎兵は壊滅してしまうのよね。


 だったらなおさら死ねないわ。


 大空を飛びながら私はそんなことを考える。


『グルル、小娘よ。長老の命で仕方なく従っているが俺はこの背中につけられた傷を忘れていないぞ』


 そう唸り声を上げるのは前回私に攻撃を仕掛けてきたあの竜。血気盛んで喧嘩っ早いけどその分実力はあの竜の里で一番らしい。老竜はその竜が訳もなく無力化されたのを見て私には敵わないと見たらしい。


「分かっているわよ。だからそんなに威嚇しないのギール」


 ギールというのは私がつけた名前。これから一蓮托生なのだから名前ぐらいは必要かなと思ってつけたのよ。


 ギールは嫌がっているけど満更ではないみたい。


 だって名前を呼ぶと僅かに首が動くのだから。


「さあ、訓練を始めるわよ! 全員!竜に感謝の心を忘れず気を引き締めるように!」


 手に持った竜骨の槍を天に掲げ、私はそう宣言したわ。

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