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ゲームの世界で第二の人生!?  作者: シェイフォン
第3章 貴族として
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キッカ大暴れ。

前半の内政パートが吹き飛ぶインパクトをキッカが与えてくれました。

「報告出来るまでの仕上がりになりました」


 どことなく嬉しそうに語るのは輪番制と都市の改革を任されていたレア。


「当初の予定より遅れましたが、仕上がりは上々です。最大の労働力を手に入れ、さらに無法地帯を撲滅出来ましたからさらに多くの人をジグサールに受け入れることが出来ます」


 3か月前は芳しくなかったものの、キッカと送られてきた孤児達の活躍によって俺が思う通りの仕上がりを見せてくれた。


 モデルケースは中国の唐時代における長安の都の再現。


 碁盤状に区画を整理し、一定区画ごとに治安部隊の詰め所を配置することによって都市の治安維持を図る。


 さらにこの中央役所を中心として以下の様に区域を割り振った。


 北には強力な魔物出没地域に繋がる北門ゆえにここは素材買い取り屋や情報屋、鍛冶屋そして薬屋など冒険者向けの店を揃える。


 東から外部の者がやってくるためこの区域に宿屋や商店街など行商人や旅人を対象とした商業区とする。ちなみに娼館やカジノ、闘技場もここにあった。


 南については現在建設中だがここら辺りに学校や病院、研究所、裁判所の他に訓練場や教会、汚物処理場など公共の施設を置く。


 西が最も治安が安定しているのでこの区域に住居区を構える。中央に近づくほど相場が高い。


 中央に行政機関の中心となる役所がある。他にも有事の際にいつでも対応できるよう軍や治安部隊の本部も用意していた。


「南の区画に置く学校だが、技術者養成学校を優先的に立てて欲しい」


 ここは工業都市ジグサール。


 その名前に恥じないよう後継となる技術者は育てておかなければならない。


 構想としては都市内にいる技術者を順に学校に招いてより実践的に行う予定だ。


「技術者を育てるためのGは惜しまないからいくらつぎ込んでも構わない」


 俺の愛した工業都市ジグサールが着々と完成していく。


 レアが「畏まりました」と頷くのを確認しながら俺はほくそ笑んだ。




 そして次はフィーナからの報告に移る。


 あのアイラの一件から身の危険を感じたのかレアもフィーナも出席義務の無い報告会へ顔を出すようになっていた。俺が出席しているにも関わらず自分達が出席していないという状況はアイラの怒りを買うんじゃないかと恐れた結果だから俺は何とも言えない。


 ……お前らは身の危険を感じないと出席しないのか?


 


 今回はレアが輝く反面フィーナは沈んでいる。


 まあそうだろう。


 ユキが勧誘した魔導師の雇い主からの抗議を一手に引き受けていたのだから。


 噂によるとフィーナは時折奇声を上げていたそうだからそろそろ壊れかけているのかもしれない。


 と、言っても雇い主を鎮めるためにかかるであろう袖の下を予想の半分に抑えているからまだまだ余裕があるのかと考えてしまう。


「魔導師を引き抜かれた貴族からの抗議だけど何とか捌いたわ。これに関してはアイラに感謝しなくちゃ。フフフ、もうアイラに足を向けて寝られないわね」


 聞いたところによるとアイラの諜報部隊が貴族達の弱みを握り、それを材料にフィーナが駆け引きを行うことによって黙らせたらしい。


 フィーナはアイラを頻りに褒めているが、俺から言わせると押しが強すぎると貴族達の反感を買って孤立してしまい、かといって弱すぎると魔導師を取り返されるので針の穴を通すような絶妙なバランスを取ったフィーナはやはり天才なのだと考える。


「抗議してきたのは貴族だけか。国からは無かったのか?」


 俺はそっちの方を恐れていた。


 貴族からの反感を買うのは痛いが、民衆からの支持を得られているためすぐに影響が出ることはあるまい。魔物大進行が起こるまで持たせればいいだけの話だからな。


 しかし、国の反感を買うともっと直接的な制裁が来てしまう。


 罪をでっち上げられて犯罪者と認定されてしまう可能性があったので、国からの追及が避けられないのであればそちらは諦めるつもりだった。


 するとフィーナはため息を吐きながら


「王宮は外部に目を向けるどころじゃないのよ、もう派閥争いが泥沼化してそんな抗議をする暇があるのなら王宮内で味方を付けた方が得というぐらい。だから外部の私達が何をしようがどうでもいいみたい」


「悲しいですね」


 元貴族で伯爵の地位にいたレアが顔を顰めるのだが、俺はむしろ好機と見ている。


 何をしても許されるのであれば精々好きなようにやらせてもらおうか。


 そして後でエルファに頼んで王宮内で有能な人材をこちらに流してもらおう。


 そう考えている間にもフィーナの報告は進む。


「実際問題としてユキが連れてきた魔導師の大半は国が召抱えている宮廷魔導師よ。彼らは権力争いに巻き込まれるぐらいなら安全な私達に付こうという魔導師が多かったわ」


「なるほど、だからユキの連れてきた魔導師のレベルは高かったのか」


 貴族や実力者が持つ魔導師にしては練度が高すぎると薄々勘付いていたが、まさかそんな事情があったとは。これは思わぬ僥倖だ。


 そう内心俺は喜ぶ反面とあることに気付く。


 そこまで王宮の腐敗が進んでいるのであれば民衆の生活は相当酷いことになっているのではないか。


 俺の懸念を読んだのか今度はレアが口を開く。


「産業都市ジグサールの繁栄はこの国に轟いています。今でさえ多くの人が流れてきていますが、これから先はさらに増えると考えて下さい」


「具体的には?」


「アイラからの報告によると明日の食事さえ覚束ない人間がこの国全体の10%に上ります。最悪現在ジグサールの総人口の5倍にあたる人間が流れてくると考えて下さい」


「5倍!?」


 フィーナが絶句するのも分かる。


 シマール国の総人口は1000万人。


 そしてその1割にあたる人口がここに流れてくればどうなるか。


 豊かになったとはいえ一都市であるジグサールではそれだけの人数を許容できないのは明白だった。


 余談だがユーカリア大陸に住む人口は判明しているだけで1億人である。


「レア、もしそれだけの人口が流れてくるとすれば今ある食料の備蓄で何か月持つ?」


「半年です」


「……厳しいな」


 ジグサールは現在順調に発展しているが、それは工業による二次産業によるもので、農業や家畜などの一次産業は全然発展していない。


 それはジグサールの地質によるものであり、強力な魔物が徘徊するこの地域に農業など土地に根付いたことは出来ないのだ。


 血の滲むような努力の果てに作物を育てても収穫前に魔物が大挙して押し寄せて食い散らかされるのがオチだろう。


 一分、二分と俺は瞑目する。


 フィーナもレアも俺の決断を待っているのか何も言わない。


「……仕方ない」


 しばらく時がたった後俺は目を開ける。


「フィーナ、近隣の村に掛け合って交渉してくれ」


 このままでは難民が押し寄せて都市全体が餓えるのは明白。だからそれを避けるために俺はある考えを披露した。


「肥糧と農業用具、そして警備兵を無償貸与する代わりに村の拡張を頼んで欲しい」


 ジグサールはドラゴンの糞や世界樹の枝などが取れ、そこから作り出される肥料は他と比べ物にならないほど作物がよく育つので、肥料は輸出品の目玉の一つだった。


 それに腕の良い鍛冶師が作る鋤や鍬も一級品。農家からすれば喉から手が出るほど欲しい逸品である。


 収入を上げるためには村を拡張すれば良いのだが、拡張した分だけ畑を耕す人と守る人が必要となるので、少ない人口では不可能だが誰だって収入を上げたいと、村を拡張したいと願うのが普通。


 だから俺はそれを叶える代わりに農作物の安定給与と将来訪れるであろう難民の受け入れ先を確保しておきたかった。


「構わないけどそれらの村を統治している貴族はどうするの? 彼らからすれば自分の領地を勝手にされるのは面白くないと思うのだけど」


「それらの村が納める租税を2割増しで払うと言ってほしい。最悪4割まで出せる」


 レアの様子を伺うが反対する素振りは見せない。つまりそれだけの余裕はあるということだ。


 フィーナは「また仕事が増える」とぼやいていたが、これは必要なことなので我慢してもらおう。


 安心しろ、後に今の苦労に見合った報酬を用意するから。


 ……多分な。




「さて、これで会議を終了する」


 大まかな方針を決定出来たのでこれ以上することはないと考えた俺はそう宣言する。


 フィーナは辛そうだったがそこはどうすることも出来ない、頑張って耐えてくれ。


「ちょっと待って下さい」


 立ち上がりかけたその時、レアがまだ報告があると言う。


「非常に言い難いことなのですが」


 レアの目は泳いでる様子からかなり無茶な要求なのだろう。しかし、そういうのは会議の途中に言ってほしいな。


 と、俺は苦笑しながらもレアに先を促した。


「先ほど申しました輪番制の成功はキッカの活躍と報告しました」


 その通りなので俺は首肯する。上げられてくる報告を見てもキッカが重要な役割を果たしていることは明白だ。


「で、そのキッカが報酬を要求したのです」


「何だ、そんなことか」


 身構えていた俺は拍子抜けする。


 レアの深刻ぶりな様子からもっと重大なことだろうと予測していたが、そんなことなら何とでも出来る。


「しかし、それは普通の要求じゃないのです。具体的には――」


「そこからは私が話すわ」


 扉が開いて、コツ、コツ、と足音を鳴らしながら一人の戦乙女が姿を現した。


ジグサール軍総大将 キッカ=カザクラ

装備:

武器竜骨の槍

防具ワルキューレアーマー

頭雷神の兜

足コルクマリッドの靴

装飾品大将軍の証

ステータス

剣   65

槍   78

探索  63

魅了  92

支配  83


 キッカの身長はすでに180cmを越え、トレードマークである赤毛をポニーテールにしている。口元には常に笑みをたたえ、スラリと伸びた長身に合わせるかのようなスレンダーボディは少女時代と一線を画し、その佇まいは将軍のそれを思わせた。


「で、何をしたいんだ?」


 突然キッカが現れたことに意表を突かれながらも、何の用件を持って来たのか尋ねる。


「ああ、簡単よ。そろそろ私も部隊も持ちたいと思ったから」


「部隊? 変なこと言う。キッカはすでにジグサール軍の大将だろう」


 前々からキッカは人を率いる素質を持つと睨み、その予想は今回の輪番制の件によって当たっていたと考えている。


 おそらくキッカがいなければ兵も孤児も動かず、失敗していた可能性があっただろう。


 が、そう言ってもキッカは首を横に振る。


「違うわ、私よりもクロスが大将に相応しい。だから私は別の部隊を持ちたいの」


「クロスはクロスで別の役割がある。だから大将はキッカしかいない」


 俺はそう言って何とかキッカの叛意を促そうとしたがキッカの決意は固い。俺は諦めて何の部隊を持ちたいか尋ねる。


「私が持ちたいのは竜騎兵よ」


 突然の単語にキッカと予め聞いていたレア以外がポカンとする。


「……騎兵か? まあ、キッカなら騎馬隊でも隊長が務まると思うが俺は役不足だと考えるぞ」


 聞き間違いだと判断し、俺は騎兵についてそう述べたのだが。


「馬じゃない、竜よ。竜騎兵の隊長を私は務めたいの」


 聞き間違いじゃなかったので俺は頭を抱える。


 こともなげに言ってくれるが竜を飼い慣らすというのがどれだけ大変なのかキッカは理解しているのか。


 竜というのは知能が高く、誇りが高いので脆弱な人間に背中を貸す竜はまずいない。通常は卵の頃から育て、その竜と兵は一蓮托生というのが一般的だった。


 そのため卵から面倒を見なければならないので、1人の竜騎兵を作るためには少なくとも20年以上の月日が必要だった。


 シマール国に竜騎兵など数人。数十人単位で抱えている国は大陸でも5つにも満たないことから如何に竜騎兵が貴重なことが分かるだろう。


「安心して、通常の卵から育てる方法じゃないから」


「どういうことだ?」


 そう聞くとキッカは花が咲く様な綺麗な笑みを浮かべながら。


「卵から育てるからそんなに時間がかかるのよ、成竜を従えさせれば問題は解決だわ」


 それが出来たら誰も苦労せんわ!


 と、叫びたい衝動を必死で抑える。


「まあ、とにかく。竜の住処についてはあてがあるから3ヶ月ほど空けるわ。ああ、それと私が見繕った者も連れて行くから」


 そう言ってリストを見せるキッカ。


 約30人ばかり載せられているそれを見た俺の感想は。


「……おい、キッカ。これに載っているメンバーを連れて行くって正気か? これだけの人材が抜けたら軍が大変なことになるぞ」


 リストに載せられていたメンバーはいずれもジグサール軍の中核をなす幹部ばかり。そして、幹部以外もリストに載せられているが、その人物達はキッカやクロスほどではないにしろ一軍を任せられる将帥の器を持った将来性のある者だった。


「成竜を従えさせるにはこれくらいの器を持ってなきゃ無理よ」


 本当に、呆気なく言ってくれる。


 もはや怒りを通り越して呆れてしまった。


「……反対しても行くのだな」


「当然」


 俺の嘆息に即答するキッカ。


 ……もう何も言うまい。


「何か他に必要な物は無いか?」


 こうなれば自棄だ、とことん付き合ってやろう。


「そうね、これだけの装備を一式揃えて欲しいわ」


「一式で良いのか?」


「ええ。戦うのは私一人だし、これを全員分揃えるのは多分無理よ」


 そう言ってキッカが要求した装備は。


武器風神のドラゴンキラー   ドラゴンキラーに風属性を3つ付与、カマイタチを飛ばせる。

防具火土竜の鎧        火属性によるダメージを軽減。

頭セイレーンの帽子     熱風から呼吸を守る

足リザードマンの靴     溶岩でも溶けない

装飾品韋駄天の魂        AGLを2倍にする


「……まあ、これは俺が作っておくから3日ほど待て」


 キッカの要求した装備は優秀な職人が多いジグサールでも俺しか作れないだろう。これを30人分揃えろとなると俺は死んでいたかもしれない。


「うん、我儘を聞いてくれてありがとう」


 実際は我儘で済む範囲でないのだがな。


 用は済んだとばかりに去ろうとするキッカに俺はこう一声かける。


「キッカ、死ぬなよ。もし竜騎兵を得られたとしてもキッカがいなければ意味はないのだからな」


 その言葉にキッカは振り返らず、大丈夫とばかりに親指を立てた。


 キッカという嵐の前にしばし沈黙としていたレアだが、とにかくキッカ達が抜けた穴を何とかしないといけないので、突然降って沸いた難事に呆然としているレアに「軍の再編成をクロスと相談して行うように」と命令する。


「フフフ、仲間仲間♪」


 一人だけフィーナが暗い声で唄っていたのが印象的だった。

次回は番外編としてキッカの学生生活を含めた内容を執筆します。

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