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ゲームの世界で第二の人生!?  作者: シェイフォン
第3章 貴族として
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治安向上

「~♪」


「ご機嫌だなレア」


 俺とレアがいつも通り執務室兼会議室で仕事を行っているのだが、時折レアから鼻歌が聞こえてくる。


 本人は自重しているつもりなのだろうが、頬の緩み具合や眼が生き生きしている様子から喜びを抑えきれないようだ。


「ええ、何故ならここまで上手くいくとは思いませんでしたから。内政を預かる身として冥利に尽きる結果です」


 普段表情を崩さないレアがそこまでご機嫌になるのは3か月前から行った都市の活性化が想像以上の利益を落としてくれた。


 この利益のおかげでこれまで予算がなく、実現できなかった案件に手を付けられるのだからレアとしては笑いが止まらないだろう。


「まあその通りだな」


 俺としてもこれからの方針を進めるにあたっての第一段階をクリアできたから万々歳。


 レアも喜び俺も喜ぶ結果と終ったのだが、残念ながら約一名不満な者がいる、それは。


「何なのよこの忙しさは!」


 髪を振り乱して足音も荒く入室してくるのはレアの姉のフィーナ。


 彼女は豪商や貴族などの折衝を行う外交を主に行っている。


「馬鹿貴族どもが! 袖の下とか利益供与とか便宜を図れとかなんて図々しい! そんなに羨ましいのなら自分の領地で行えばいいじゃないの!」


 フィーナがそう叫ぶのもわかる。


 今回の町興しの成功を妬んだ他の貴族達が何とか甘い汁を吸おうと群がってきた。


 で、その対応を一手に引き受けたのがフィーナ。


 利益に目ざとい彼らの権謀術数を掻い潜り、相手に弱味を握らせずに奮闘していたのだからそれはそれは心労が溜まることだろう。


「ご苦労様、フィーナお姉さま。お姉さまの苦労がこのジグサールを支えていますよ」


 言葉上は労っているように聞こえるがその実全然労っていない。


 レアがフィーナをお姉さま呼ばわりするときは十中八九馬鹿にしている。


 案の定フィーナが肩を怒らせてレアに詰め寄った。


「はいはい、もう分かったから2人とも止めてくれ」


 このまま姉妹喧嘩にもつれ込みそうだったので俺は2人の間に割って入る。さすがのフィーナもこれでは不味いと悟ったのか渋々ながらも引き下がってくれた。


「……後で覚えておきなさいよ、レア」


(やれやれ、本当にお前らは仲が良いな)


 そう口に出すと2人から折檻されそうだったのでその言葉を口に出すことはなかった。


「さて、フィーナは貴族の対応に追われていたらしいが、前に任せると言った娼館やカジノの掌握はどうなっている」


 その言葉にフィーナは態度をコロッと変えて勢い込んで話し始めた。


「順調も順調、商人との提携も上手くいったし、そこから闇の人間を追い出すことも成功したわ。だからもうぼろ儲けよ。この2か月の収入だけで1年は遊んで暮らせそうだわ」


 事もなげに言ってくれるが、実際にやるとなると途方もない労力を使う作業である。


「彼らを制御するのに何かコツでもあるのか?」


 と、聞いてみるとフィーナは手を振って笑いながら。


「ああいうのを扱う人間は最終的に利益さえ得られれば良いのよ。だからそこを思考の基に置けば彼らが何を考え、何を得たいか、そしてそのために何をしようとしているのかが手に取るように分かるわ」


 と、簡単に言ってくれた。


 俺的には商人は貴族より厄介だと考えているのだが、どうもフィーナは違うらしい。


「下らない誇りや地位に固執し、後先考えずに付き纏ってくる貴族の連中よりずっと可愛いわよ」


 この言葉にはレアさえも頷いていた。


「前々から思っていたがフィーナは貴族をボロクソに貶すな」


「だってあんな血筋だけのお荷物に尊敬の念なんて持つことができる?」


 と、伯爵の爵位を持っていた元貴族のフィーナは非常に辛辣な言葉を返してくる。


 ……もう何も言うまい。


 同族嫌悪と思うことにしておこう。




「さて、街の活性化が上手くいったので次の段階に移りたいと思う」


 その言葉に頷くツバイク姉妹。


 だから俺は会議の始まりを宣言した。


「レア、現在の財務はどうなっている?」


「はい、収入と支出のバランスが崩れ、今は金余りの状況になっています。この量があれば大きな改革の1つや2つは起こせるでしょう」


 レアの報告に頷く俺。


「よし、それなら軍を整備しようかと考えている」


「軍ですか」


 レアが渋い顔を作る。


 まあ、当然だろう。


 軍というのは基本的に金食い虫なので内政を預かる者としては好ましい存在でない。


 が、俺が考えているのはレアが考えているような軍じゃない。もっと生産的な軍だ。


「半農半兵、という表現が正しいかな有事の際は兵として活躍してもらうが、それ以外は公共の福祉に力を注いでもらう」


「具体的にどういうこと?」


 フィーナが今一つ理解していなかったのでそう質問する。


「輪番制というものを採用しようかと考えている。つまり1日兵の訓練、1日公共事業そして1日休みという具合にな」


「それで上手くいくかしら」


「フィーナの疑問も最もだ。しかし、短期的にはともかく長期的に見ると相当な利益を生む。何せこのような形ならば普通より多くの兵を確保できるからな。だから頑張れレア」


「分かりました」


 レアが多少沈んだ声だったのは気のせいにしておきたい。


「で、公共事業として何をさせるかというと都市の整備が主な仕事。これから先、中央商店街以外でも治安を安定させたいからな」


「確かに。そろそろ都市の整備を行わなければ後々の業務に支障が出ます」


 レアが納得するのもわかる。


 金が動けば人も動くと言うように、最近ジグサールへの人口の流入が著しく、このままだとまだ治安が整っていない場所に流民を住まわせなければならなくなる。


「これが街の整備の基本計画書。ヒュエテルさんが前々から構想していたスラム解体の構図をジグサールに合うようアレンジしたものだ」


 そう言って俺は2人にそれを配る。


 このジグサールへ赴任する前にヒュエテルさんの所へ赴いてこのことを相談すると快諾してもらった。


 そして俺はそれをアイラとその子飼いの孤児達にこの街の全容を解明してもらい、この計画書を作成した。


「人手はこの街に多数の身元不明者が在住しているから彼らを使う。で、その際に兵役も負うならば一定の給付金を毎週送ると下賜してほしい」


「ふーん、大体理解したけど彼らの監督は誰がやるの? 私やユウキ男爵のような上品な存在に彼らが従うとは思わないんだけど」


「フィーナの疑問もわかる。だから彼らの総監督はキッカ、そして中級監督はヒュエテルさんが選んだ孤児達にやらせようかと考えている」


「キッカが? 確か彼女って根っからの冒険者でしょ、将軍には向いてないんじゃないかしら」


「フィーナの言うとおり、俺もそう思ったんだけどな。しかし、エルファの言葉によるとキッカは人を導くカリスマ性を持っているらしい。だから今回の人事に抜擢したのだけどな」


「エルファさんか、それなら納得」


 自分を見出してくれたエルファはレアもフィーナも一目置いている存在だ。そのエルファが推薦したのだから2人は頷かざるを得ないのだろう。


「失礼ですがヒュエテル様が選んだ孤児というのは信用できるのですか?」


「レアはそう思うだろうな。ただ、疑問に思うのは彼らの仕事振りを見てからにしてほしい。ヒュエテルさんとは3年しか付き合っていないが、その彼女が持つ人物眼は大したものだぞ」


 4ケタに迫る孤児の確保と彼らを保護する施設の維持は1人の人間にできる芸当じゃない。だが、ヒュエテルさんは目をつけた人物にそれを任すことで可能としていた。


 そのことからヒュエテルさんが持つ眼は優れている判断できる。


「エルファ様には敵わないと思いますが」


 レアよ、どう答えていいかわからない言葉を口にしないでくれ。


「……とにかく、キッカからはOKを貰っている。だから具体的な内容はレアとキッカで詰めてくれ」


 その言葉にレアが頷いた。


「さて、公共工事と兵についてはレアとキッカに任せるとしてフィーナはクロスとともに治安を向上させてほしい」


「私も参加するの? 彼が率いる治安部隊で十分じゃないかしら」


「その疑問は最もだな。しかし、これ以上治安を上げるとなると闇の組織――ブラッディ商会からの反発が予想されるからこの機にクロスの治安部隊で一掃しようと考えている。フィーナは反目し合って同士討ちを誘発し、彼らを弱体化させてほしいのだが」


 今まではパワーバランス上彼らに手を出すとこちらがやられる為手出しできなかったが現在は違う。財政が潤い、こちらの味方も増えた以上彼らに遠慮する道理はどこにもない。


 ちょうど良い機会だ。


 フィーナの交渉能力とクロスの治安部隊を使って一掃してしまおう。


「こちらの手足となって動きそうな人間の処遇についてはフィーナの裁量に任せる」


 こちらに降って忠実な手下として動いてくれるのならそれでよし。


 やはり彼らは彼らなりに使い道があるのが事実なのだ。


「ただ、助ける人間は選んでくれよ。後々こちらの寝首をかかれては堪らないからな」


 言うまでもないとばかりに笑うフィーナを見て俺は成功を確信した。

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