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ゲームの世界で第二の人生!?  作者: シェイフォン
第3章 貴族として
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まずは金、とにかく金

タイトルについては何も聞かないでください。

 まずは金! とにかく金! 金がなければ全てが始まらない!


「そう! いくら高性能の自動車でもガソリンなしでは動かない! どんな精兵であろうとも食料がなければ弱卒以下だ!」


「一体何を吠えているのですか?」


 俺がそう叫んでいると横から呆れ気味の質問が聞こえた。


「まあ、気合付けだ」


 さすがに誰かから今の痴態を見られ、咎められるのは恥ずかしい。俺は誤魔化すために笑う。


 横にいる女性はレア=レグトリア=ツバイク。


 海を映し出した深い青色の髪を腰まで伸ばし、瞳は涼しい色合いを持っている。年は俺と同じ16歳なのだが、身体の成長は16歳と思えないほど進んでいる。身長こそ俺より少し低い程度で胸はあまりないのだが、それを欠点と思わせないほどしなやかでスレンダーな体つきをしていた。


 ジグサールを治めていたツバイク伯爵の双子娘の片割れだ。


 先日失踪したツバイク伯爵の人質として娘達をカリギュラスに留めていたのだが、この辺境を統治するよりも娘を見殺しにしてまで他国へ亡命したかったらしい。


 で、亡命したツバイク伯爵の代わりに責を負うとして奴隷に成り下がりそうだったのだが、エルファの進言によって俺が引き取り今ここにいる。


「頼んでいた財政の案件は整理できた?」


 俺が問うとレアは間髪入れずに頷く。


「隠れ借金や脱税など多岐に渡ってありましたが、すでに山場を越えました。後は事後処理だけです」


 レアは事務能力が高いのでジグサールの内政の総責任者となってもらっている。


 貴族の娘なのにどうしてここまでしっかり管理しているのか聞いてみたところ、博打好きの父のおかげで自分しか財政を操れる人間がいなかったかららしい。


 せめて帳簿をつけることができるぐらいの人間は雇っておけよ。


 家が困窮するほど博打に嵌ったことからツバイク伯爵はかなり無能だったのではないかと推測する。


「さて、そろそろ戻ってくるかな」


 約束の時刻はもう過ぎているが俺の待ち人は現れる気配もない。


「毎度毎度のことだからもう気にならないが、何とかならないものかなあ」


 俺の呟きにレアが困ったように笑うと、ようやくこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。


「ごめんごめん、また商人が放してくれなくて」


「姉さんは余裕というのを覚えるべきよ」


 レアはフィーナに説教を始めるがフィーナは堪えた様子もない。


 矢のように走って俺の前で謝るのはフィーナ=レグトリア=ツバイク。レアの姉である。


 フィーナとレアは双子で、しかも一卵性双生児であるがゆえに姿形は全く同じ。シャッフルされると全く見分けがつかなくなるほど似ている。


 ヒュエテルさんも双子でここまで酷似するのは珍しいと評することから如何に2人が鏡写しなのか分かるだろう。


 が、残念ながら性格までは似なかったようだ。


 妹のレアは几帳面で受け身な性格に対して姉のフィーナは活発的でアクティブに行動する。


 レアは暇な時は本を読み、フィーナは外へ出る。


 姿形がそっくりだった分を性格でバランスを取ったのかなと考えてしまうことなど何度もあった。


 


「で、フィーナ。どうだった?」


「ええ、大手の商会がジグサールに支店を置く契約が決まったわ」


 フィーナは笑顔で首肯する。


 フィーナは相手の警戒心を解かせる素質を持っているので主に外交を中心に行わせていた。


 宮廷暮らしのお嬢様が海千山千の怪物達と話し合えるのか不安に思っていたがそれは杞憂に終わり、今ではこのジグサールの顔としての位置を占めていた。


 レアとフィーナが揃ったところで俺は次の計画を打ち上げる。


「では、そろそろ本格的に動きたいが街の治安はどうなっている?」


 レアに先を促すと、彼女は手にした報告書を読み上げる。


「ユウキ男爵の財力とクロスとアイラが率いる孤児達のおかげで中央商店街周辺の治安は確保しました。全体からみると小さな地域ですが、あそこだけなら窃盗や暴行など起きず、安心して外部の者を招けると断言できます」


 その報告に俺は満足して頷く。


 ここに赴任してからすでに数カ月がたった。その間俺は何をしたかというと、まず都市内で安心できる場所を作る準備をしていた。


 人を呼び込むためにはそこが安全だということを知らせないとならないのでこの事業には金と人手を惜しまず注ぎ込んだ。


 ここでクロスの騎士養成学校での経験が生き、クロスを治安維持の筆頭に任せたところ十二分の働きをしてくれた。クロスがいなければ中央商店街の治安維持はさらに数カ月はかかったといえる。


 もちろんクロスを支えてくれたアイラも外せない。


 道理を通せば角が立つように、逮捕された不逞な輩からの報復を未然に防いでくれたのはアイラの功績だ。ここはアマチュアであるならず者とプロのレンジャーであるアイラの違いが出たということか。


 その報告に続いて今度はフィーナが口頭で述べる。


「キッカとユキが中心となって集めてくれた素材が規定量に達したのでその一部を各都市の腕の良い職人に渡したところ、評判は上々よ。身の安全を確保できるならしばらくジグサールに滞在しても良いという返事を貰えたわ。そして、各都市にユウキ男爵を含めた腕利きの鍛冶屋が集結するという噂を流したから早くも行商人はここに向かって動き出しているわ」


 上々の結果に俺は口元を綻ばせる。


 俺も職人だから彼らの気質を少し理解できるのだが、一流の職人ほど生活のためでなく優れた品を生み出すことに精を出す。


 そんな職人達に普段は扱えない希少な素材に加え、俺が鍛冶を行っている場面を見学させるのであれば断らない手はないだろう。


「本当にキッカとユキには感謝だな」


 職人を呼び込むための素材を集めてくれたのはキッカとユキだ。彼女達が危険を顧みず最前線で活躍してくれたからこそ職人を呼び込めるだけの素材を集められた。


 良い素材が大量に採れるとそれを加工する職人が来る。


 腕の良い職人が集まるとそれを買い求める冒険者や行商人が寄ってくる。


 そして彼らが来れば都市にGを落としてくれる。


 その結果、都市が潤う。


「さて、これが成功すると冒険者がこの都市に滞在すると予想されるが、彼らが宿泊するであろう宿や酒場について抜かりはないかな」


「はい、従業員はこの数か月でしっかりと教育を施しました」


 うん、それはよかった。もし不祥事が起こってしまえば客足が遠のいてしまうからそれは避けなくてはならない。


「冒険者のレベルに合わせた場所へ誘導できるか?」


「都市の入り口に情報屋を配備します。そこで聞けば今のステータスと装備でどの場所で狩るのか適切な場所を教えてくれます」


 未熟な冒険者が己の力量も顧みれず、無駄に命を散らせると後の風評に響く。だから死なせるわけにいかないし、それ以上にこの都市周辺でステータスを上げてくればこちらとしても儲かる。


「そういえば1つ提案があったのだけど」


「何かな? フィーナ」


「娼館や賭博場なんて作れないかな。ほら、あれって禁止しても無理な類のものだし」


「あー……それか」


 プレイヤー時代はそういう類いのものをしなかったから失念していた。確かに人が集まるとそのような施設も必要になってくる。


「ねえユウキ男爵、もし良かったらそれらの指揮を私に任せてもらえない?」


「フィーナが?」


 俺が聞くとフィーナは笑顔で頷く。


「ああいったものを一度でいいから運営してみたかったの。いつも父の傍で見ていただけだからとても気になって」


「うーん」


 それを聞いて俺は一気に不安が高まる。


 フィーナは自分がしたいことに関して一切の容赦がない。


 以前手っ取り早く金を稼ぐために金貸し屋から不良債権を集め、それの回収をフィーナに任せたら返却率が100%に近い状態へなった。それだけなら構わなかったのだが、フィーナがやり始めてから店や家を失う人が増えて治安に大きな影響を与えた。


「借りたものは返す。これ、正論でしょ?」


 素でそんなことを言ってのけたフィーナに内政担当のレアが珍しく火を噴くように怒り狂ったのは記憶に新しい……そんなに大変だったのか、レア。


 俺が唸っているとレアが口を開いてフィーナを擁護し始める。へえ、何だかんだ言っても姉妹なんだと俺は感心する。


「今回なら大丈夫です。二重三重の警戒網を張り巡らせ、もし引っ掛かった場合姉さんはしばらくハードプレイ専門の娼館で働いてもらいます」


「ちょっと! そこまでやらなくていいじゃないの!?」


 訂正


 全然許していなかった。


 レアが笑っていることから本気でフィーナをそこで働かせたがっている。


「まあ、そこまで言うのなら構わないか」


 俺は許可を出す。娼館もカジノもいずれは建てなければならないのなら早い方が良いだろう。


 大きな案件はここまで。後は小さな報告のみを済ませてこの場は解散した。


「ねえ、確認するけど娼館で働かせるというのは冗談よね?」


「さあ? どうでしょう」


 フィーナが震える声で尋ねてくるのに笑顔で返すレアが相当怖かったことを追記しておく。

誤字脱字やご意見、ご感想をお待ちしています。

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