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ゲームの世界で第二の人生!?  作者: シェイフォン
第2章 市民として
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浅はかな考え

「さて、次はどうしようか」


 夕食を食べながらそんなことを呟く。


「師匠、決まっているでしょう! 私にみっちりと教えることですよ!」


「……本当に元気だな、サラ」


 俺はげんなりした眼でサラを見つめるが、サラは俺の感情などどこ吹く風でフフンとばかりに胸を張る。


「当たり前です。何故なら始めて5つの属性を付与させた武器の製造を目の当たりにしたのです。これが興奮せずにいられますか!」


 そう、俺はつい先程まで7属性の内光と闇を除いた5属性を付与させた武器を製造していた。


 簡単に見えるが実際は言語で語り尽せないほど難しい。


 何せ火と水、雷と土と言ったように属性の相性というものがあるために各属性を相殺させないよう絶妙なバランス感覚が必要になる。


 で、どうしてそんな俺は作ったのかというと、そろそろサラに壁というものを経験させるためだった。


 最近サラは天狗になってきたのか遠慮もせずに多くの属性を付与させた武器を作ってほしいと催促し、それがあまりにしつこいと感じた俺は不可能な課題を出してやった。


 サラの力量ではせいぜい3つの属性を付与させるレベル。


 おそらく成功しないだろう。


 が、不安というものもある。


 何せサラは天才だ、凡人たる俺の思惑など易々と裏切ってしまう展開が頭から離れない。


「……まあ、それでもいいか」


 俺を追い抜く風景が一瞬頭をよぎったが、俺はそれを認めることにする。


 その時は7つの属性全部付与させた武器でも作らせれば問題はないだろう。


「で、とりあえず今日は飯食ったら寝ろ。今日は親に連絡しているだろうから問題ない」


 早朝から製造を始め、完成したのがつい1時間ほど前。その間は気を抜くことが許されず、つきっきりで打っていたため、身体も精神も疲労がヤバい。今すぐにでも倒れたい気分だ。


「むー、師匠。つれないですねぇ。ちょっとぐらい先程の鍛冶について教えて下さいよ」


「頬をふくらませて剥れて俺を萌え殺させるつもりか?」


「師匠? 何を言っているんですか?」


「……忘れてくれ」


 どうも疲労によって思考能力が変になっている、俺は何て戯言を口走ってしまったのだろう。


「明日だ、明日サラに同じものを作ってもらうから今日はよく寝ておけ」


「しかし、私は興奮で眠気など起きないのですが」


「そうなのか?」


「はい、今にでもそこら辺を笑いながら走りたい衝動に駆られています」


 どうやらサラは疲労が一線を越えるとテンションがハイになるらしい、新たな発見に俺は何となく頷く。


 が、そんなことをしている場合ではないので俺は課題を出すことにする。


「それなら宿題だ。今、エルファがベットを整えているからそれが終わり次第そこで5分近くじっとしていること」


「嫌ですよ、私は眠る気分じゃないんです」


 サラがそう言ってごねるので俺は新たな言葉を紡いだ。


「5分間ベッドで横になっていれば今すぐ5つの属性を付与させた武器を作っても良いぞ」


「分かりました、約束は守って下さいね!」


 サラはそれを聞くやいなや2階の寝室へすっ飛んで行った。




 ――20分後


「御馳走様」


「御粗末様です」


 エルファさん曰く、サラはベッドに入ってしばらくは目がギンギンに冴えていたようだが、突然スイッチが入ったかの様に眠りに入ったようだ。


 あまりに予想通りな展開に俺は苦笑するしかない。


「さて、俺も寝させてもらうぞ、戸締りは任せる」


 欠伸を一つした俺は食堂を出ていった。




 鍛冶場には俺とサラの2人しかいないが、その場は和気藹藹とした雰囲気でなく悲壮感に充ち溢れていた。


「サラ。もう分かっただろ、今のお前には無理だ」


 もう何回言っただろう、数えることすら億劫になる程繰り返した台詞を紡ぐのだが。


「もう一度だけ、もう一度だけチャンスをお願いします」


 サラは付与に失敗し、跡形もなくなった剣を握りしめながら涙ながらに訴えた。


 始めは驕り気味のサラに灸を据えるつもりで今回の提案を出したのだが、ハッキリ言って今は後悔している。


 てっきり俺はあまりの難しさに諦めて素直に俺の教えを請うと予想していたのだが、まさかサラは困難にぶち当たるとボロボロになるまで挑戦するタイプだとは知らなかった。


「師匠命令だ、明日にでもやれ」


 俺は溜息を吐くとサラにそう中止を命令する。


 無論サラは抵抗したのだが、すでにハンマーすら握れないほど手がボロボロになっていることを指摘すると不承不承ながらも頷く。


「また明日やりますから」


 去り際にその言葉を残していったのが印象的だった。


 2、3の属性を付与させるにはともかく、4つ以上になると相反する属性を同居させるために一般の鍛冶屋には置いていない特殊かつ巨大な設備が必要なので俺の鍛冶場は一辺10mという広さを持っていた。


 そこにポツンと一人残された俺は先程までサラが打っていた失敗作を拾い上げる。


 それは付与された属性同士が反発して無残な形となった剣だが、前のと比べると僅かにだが出来が良い。この調子だといずれかは成功するだろうと思われる出来だった、が。


「その前にサラが壊れそうだな」


 悲しいかな、今のサラは才能に肉体が追い付いていない。


 この調子だとサラに致命的な何かが起こってしまうことは十分に予想できた。


 一応俺はサラの師匠なので、弟子であるサラの面倒を見なければならない。


 で、サラがこのままだと不幸な結果が待ち受けているのならやることは一つだ。


「俺はサラにしばらくここに来るなと言わなければならないな」


 突然の禁止にサラは混乱するだろうし、もしかすると勝手に鍛冶場へと侵入するかもしれない。


「言い訳かもしれないが鍛冶自体を禁止するわけじゃないぞ」


 サラの身が危険なのはあくまで4つ以上属性を付与させることで2、3の属性付与させた武器の生成を禁止しているわけではない。


 そして、4つ以上は俺の鍛冶場のような設備が無いと無理であり、、この設備が置いてあるのは王宮公認の鍛冶屋か研究施設のみだろう。


「まあ、何を囀ろうともこれは俺の浅はかな行為が招いた結果に変わりはないけどな」


 全ては俺が5つの属性を付与させた武器をサラに作らせたことにある。


 身を切り刻まれる悔恨に顔を歪めながら俺は自嘲した。



「今日で4日目ですね」


 エルファさんの言葉に椅子に座っている俺はゆっくりと頷く。


 俺はサラに療養を言い渡そうと表情を硬くして待ち構えていたのだが、サラはあの日以来一向に姿を見せていなかった。


 自宅へ帰って頭を冷やし、今の自分では完成できないと自覚して体を休めているのなら好ましいが、おそらくそうではない。


 あのサラの性格上自らの意志でここに来ることを止めることはありえない。


 十中八九サラの容体を重く見た両親が止めたのだろう。


「迎えに行くのですか」


 エルファさんの問いに俺は応える。


 サラは未熟だが、いずれは世界最高の鍛冶師になる可能性を持つ逸材。


 休養させるならまだしも、二度と鍛冶に触れさせないとされたら俺は悔やんでも悔やみきれない。


「馬車を用意してくれ」


 俺の要望にエルファさんは「畏まりました」と礼をしてこの場を去っていった。

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