いいね、と言われたかっただけの夜
仮面とプロフィールの海を泳ぐ民たちへ捧げる、マッチング浪漫譚。
スワイプ、スワイプ、スワイプ。
右に、左に、時々、無表情のまま右。
これは恋の始まりではなく、確率と統計のゲーム。
プロフィール写真は、逆光のカフェ。
趣味は“旅行とカフェ巡り”。
実際は、職場と自宅とスーパーの往復、旅なんてもう3年行ってない。
でも、“ありのまま”で勝てるほど、このアプリは優しくない。
「理想のタイプは?」
「誠実で優しくて、仕事に理解のある人。」
それってつまり、年収700万で家事できて浮気しない男のことじゃない?
毎晩通知が鳴る。
「〇〇さんからいいねが届きました!」
けど、アイコンは風景写真。メッセージは「よろしくお願いします」だけ。
…この人、私のどこを見て“いいね”したんだろう。アイコンが明るかったから?自己紹介文に「料理得意です」って書いたから?
マッチして、LINE交換して、そして音信不通。
“フェードアウト”って、アプリ民の母語ですか?
時々、ほんの時々、
「この人とは話が合うかも」って思える人が現れる。
でもそういう人に限って、“距離感が絶妙に遠い”とか、“3回目で元カノの話をしだす”とか、
あとからボロが出てくる。
いや、私も人のこと言えないけど。
「結婚したいのに、恋愛したくない」
「寂しいけど、傷つきたくない」
「理想はあるけど、現実は見たくない」
そんな“矛盾のラテアート”を毎晩抱えて、私はまたアプリを開く。
明日こそ、誠実で、顔が好みで、返事が早くて、運命感じさせてくれる人とマッチするかも――
なんて、微糖な夢を胸に、
また右へ、スワイプする。




