9.少年はペットを欲する
へたり込む怜をヘリの窓越しにニコニコ見つめながら、手を振る。
「まったく良いように言いますね。黒崎さんを助けるためなんて。」
ショウの冷めた目を受け、青葉がそれまで微笑んでいた表用の顔を真顔に戻し、ショウに意味ありげに答える。
「でも、嘘は言ってないでしょ〜?清水に薬を売らせてたのも俺たちだよってのを言ってないだけ。最近あいつが目に余ってたのもほんとだしね?まあ、組織の誰がキマっておかしくなろうが、それでサツに目を付けられようが、俺は知ったこっちゃないけどね。心底どうでもいい。そういう奴は排除するだけだし、そうなるような理性が効かないやつは信用できない、遅かれ早かれだよ。
あ、この前のイタリアマフィアのおっさん、薬の実験台になるのがほしいって言ってたし、あのおっさんに売りつけるのもありだね!俺らの役に立つんだから、本望でしょ。
それに、怜ちゃんは今後俺と仲良くなってもらって、俺らの有利に動いてもらうようにする。そのためにお気に入りの人形の怜ちゃんにはまず俺を気に入ってもらわないと、ね?」
「つくづくあなたは血も涙もないですね。そのお気に入りのお人形、黒崎さんを攻撃させたのもあなたの指示じゃないですか。」
そう。ショウはあの時、無線も兼ねているピアスから2回ピアスをノックする音が聞こえた。これは青葉が幹部に手を下させるときに使う合図で「殺れ」ということなのだ。咄嗟にショウは清水に銃を向けたが、ピアス越しの青葉から「不正解〜」と揶揄う声が聞こえ、この男の攻撃対象が怜というのを悟ったのだ。
清水にも一発打つようには前々から言ってあったのは、俺が黒崎さんへ打った一発を清水が打ったように錯覚させるためか。
「あ〜怜ちゃん。俺のこと気になってくれたかな?次はもっと早めに会いたいな〜」
楽しそうに笑う青葉を一瞥しながら、ショウは不思議に思っていた。
今まで青葉が1人の女に執着したことはない。常々女は男を嵌めるための道具だと言い、表面上は女性と仲良くしてるように見せても、裏では感情的で口が軽いから信用できない煩わしい生物と言っており、あの場面で黒崎怜を殺させてもおかしくはない。ましてや、女性の黒崎怜と仲良くなりたいなんて、今までの青葉じゃ絶対にあり得ない発言だ。何か心境の変化か・・・?いやこの人に限ってそんなことあるはずない。じゃあ初対面の時に何かあったのか?
いくら能力強化し、考えても彼のボスの真意は探れない。
ショウはペットが欲しくなった子供と同じで突発的なものだと思うようにした。