8.再会は突然に
「なんで青葉がここにいるの。今回、雲外青天は絡んでないでしょう?」
「ん〜?なんでってお姫様を助けるのが騎士の仕事でしょ〜?」
「それにしてもタイミングが良すぎる。まるで見計らったみたい。」
「なあに?俺を疑ってる〜?じゃあ、ちょっとだけヒントあげようか?
清水はね、麻薬の密売人だったの。最近派手に界隈で暴れててね。あいつ自身も薬中だから、薬を買うための金を詐欺で集めてたってわけ。そんで〜俺の組織でも最近清水の薬を買うやつがいてさ、そいつを処理するついでに清水もお片付けしちゃおうかな〜と思って、ちょっと手助けをね。」
「詐欺がうまくいくよう手助けしてるように見せて、今日始末するつもりだったってわけ?公安が踏み込んでくるのも予測して?」
「ん、そ。薬売りは清水の専売特化。尻尾を出すことはまずないからね。代わりにあいつに慣れてない分野をやらせて尻尾を出させて、俺らに頼ってきたところを罠に嵌めたってわけ。公安には詐欺の他に銃と薬の密売の情報を流して怜ちゃんたちが突入してくるようにしたの〜。怜ちゃんに手柄分けてあげようと思ってさ。ね?」
「公安の中に青葉たちに協力するような裏切り者がいるわけない。」
「気になるのそこ〜?公安ってさ、特殊な部隊だから、協力者という名の一般人囲ってるでしょ。そこらへん気をつけた方がいいんじゃない〜。」
「な!協力者も私たちの方針に賛同してくれてる人たちよ!・・・目障りだから清水を殺したの?」
「ふふ、動揺しちゃってか〜わいい。清水の方は目障りだったってのもあるけど、あいつ最近怜ちゃんのこと嗅ぎ回っててさ〜。俺は俺の不利になるようなヤツに顔見られて生かして帰したことないからね。前、怜ちゃんに会った時のことがちょっと噂になっちゃったの、公安を見逃してやったって。それで興味持たれちゃったみたい〜。早めに芽は摘んだかないとね?無事でよかった〜。」
切長の目を器用にウインクして、もう一度私に抱きついてくる。青葉の艶やかな黒髪が頬をくすぐり、わずかに身体を捩らせる。
「あ!ごめんごめん。痛かったでしょ〜?治してあげる。」
そう言って青葉が私に手をかざすとみるみる傷が塞がる。
「これ・・・は?」
驚いて目を見張ると、青葉はさも当然のように答える。
「俺の特殊能力だよ。特殊能力のことぐらい、把握してるでしょう?まあと言っても俺は小さい傷しか治せないけどね。使えるようになるにはこのピアスが必要なのと、ある程度練習が必要なのがちょ〜っとネックなんだけど。」
これ使えるようになるのも苦労したんだよ〜?自分で腕傷つけてさ〜。となんでもないことのようにヘラヘラ語る青葉を見てふとショウの方にも視線を向ける。
「じゃあ、あなたも幹部で特殊能力持ちってこと?」
銀髪の男にも青葉と色違いの赤いピアスが揺れているのを目に止め、慎重に問う。
「はい。私は脳の能力を強化できます。記憶力や集中力が思考力が主ですね。清水に詐欺をやらせる案を考えたのも私です。清水をその気にさせるのなんて造作もなかったですけどね。」
「さすが、ショウちゃん!えらいえらい〜」
青葉は犬を可愛がるようにショウの頭を撫でている。
「でも今まで青葉は表に出てこなかったはず。なのにどうして?」
「嬉しいな〜。そんなに俺のことが気になる?そうだね〜しいて言えば、時が近いとでも言っておこうかな?あ、ちょっと中二病みたいだった?」
青葉はそう言うとケラケラと笑うと、突然目を細めて屋上のドアを睨みつける。
「ボス。そろそろです。」
「うん。そだね。ショウちゃん帰ろっか。じゃ、怜ちゃん、まったね〜?今度は二人になってゆっくりお話しできるといいな。」
青葉は私をぎゅうっと抱きしめると、身を翻し、ショウと共に颯爽とヘリに乗り込み、ヘリで飛んでいく。
私は血を失いすぎたのと緊張が解けて、その場にへたり込むと青葉がそれに気づき、窓越しにニコニコと手を振る姿をただただ呆然と見送るしかできなかった。
「てか、なんで私青葉を捕まえたくないと思っちゃってるんだろう。」
黒崎怜はとても困惑していた。今まで確保対象として追い続けてきた青葉、ふわふわと掴みどころのない彼と接していると安心している自分がいて、青葉が本当に自分を心配しているような目を見ると切なくなる。
だが、それと同時に青葉は怜の前で仮面を被っており、あれが青葉の本性じゃないことも、怜に気があるフリをして公安の邪魔をしていることも分かっていた。
それでも心のモヤモヤとした気持ちは晴れない。
空を見上げ、青葉の乗ったヘリが小さくなった頃、屋上の扉が勢いよく開いた。